第39話

【豚男爵視点】


 みんながゴーレムに目を向けている。

 学園の配置は知っている。

 女子寮の位置も、リンカフレイフィールドの部屋も知っている。


 そしてリンカフレイフィールドが魔法を使いすぎて倒れた場面を隠れて見ていた。

 ワシはずっとチャンスを伺って来た。

 

 ゴーレムを見てワシらがおとりにされている事も分かった。

 犯罪者共は全員バカだ。

 何も気づいていない。


 だからワシは、奴らをおとりにしたまま、裏で動いてきた。


 もうすぐ手に入る。


 ワシはそっと部屋に入った。


 部屋に入ると、リンカフレイフィールドが寝ている。


 寝息を立てて、これから家畜にされる事も知らず眠っている。

 顔を近づけて匂いを嗅ぐ。

 いい匂いだ。


 おっと、よだれが顔に垂れてしまった。


「ん、ううん、だ、れ?」


 ワシはすぐに腹を殴った。


「がはあ!」


 危ない危ない。


「リンカフレイフィールド、お前を持ち帰る。今ゴーレムに皆の目がむいている今しかチャンスは無い!今日からお前は1番だ。体に1の入れ墨を刻んで調教してやる。ショック!」

「あががががががががががが!」


 ショックの魔法で体を痺れさせ、痛みを与えた。


「まずは魔力を吸い取る!回復されれば厄介だ。マジックドレイン」


 リンカフレイフィールドの魔力が入って来る。

 1番、お前は一生魔力を吸われ続ける。

 決して回復させず、抵抗させない。


 叫ぶ力さえ奪い続け、首輪をハメて管理してやる。

 回復した魔力で何度も痛みを与え、何度も何度も何度も何度も魔力を吸い、体液を啜り、奴隷に仕上げてやる。


「ぐふふふふ、魔力は吸いつくした。なんだ、もう泣いているのか?まだ折れて貰っては困る。気の強いお前を何度も何度も調教し、屈服させる瞬間を楽しむのだ!すぐに袋に詰め込んで運ぶ、いや、その前にこの服は邪魔だ。ナイフで切り裂いてやろう。ぐふふ」


 1番の服をナイフで切り裂いた。



「いい体だ。すべすべして張りがある。帰ったら味見をしてやる」


 1番が力の入らない手でワシを払いのけようとした。


「ショック!マジックドレイン!徹底的に吸いつくす必要があるようだ!口から直接魔力を、徹底的に吸いつくしてやる!」


 1番の顔を押さえつけて、唇を近づける。



 

 ワシは衝撃を受けた。

 気が付けば投げ飛ばされていた。


「リンカ!無事か!」

「1番!そいつにメスの顔を向けるな!!」


「黙れ豚男爵が!」


 ワシは蹴られ、意識を失った。




 ◇




 ワシは、1番を言葉責めにして苦しめていた。

 そう、ワシが牢に入れられたのは夢だ。

 全部夢だった。


 ワシは、生まれたままの姿になり、鎖に繋がれた1番に気持ちよくなる薬を口移しで飲ませてやった。

 いつものように首輪をハメて、入れ墨を彫らせ、ピアスで体に穴を開けて鎖につなぐ。


「1番、お前の名前は何だ?」

「1番」


「1番、お前のご主人様は誰だ?」


 1番が顔を背けた。

 その瞬間に鞭で打つ。


「お前のご主人様は誰だ?」


 ワシは10回、鞭を打った。


「そうか、100回鞭で打たれたいか」

「ブッヒ様です」


「んんんん?聞こえんなあ!」

「ブッヒ様です!」

「何がブッヒ様だ?最初から最後まで言え!」


 1番は泣きながら言った。


「1番のご主人様はブッヒ様です!」

「声が小さい!」

「1番のご主人様はブッヒ様です!!」

「もっとだ!」

「1番のご主人様はブッヒ様です!!」


 最高だ。

 1番を家畜のように飼って楽しむ。


 至高の瞬間だ。





 ワシが目を開けると鉄の枠に首と両腕を固定されて王都の街に、粗末な荷車に乗せられて運ばれていた。

 体が、寒い。

 雪が降る中、薄着で物のように運ばれていた。

 ワシの体には雪が薄く積もっていた。


「何だ?これは、夢?」

「豚!起きたら家畜らしく自分で歩け」


 ワシははだしで雪の上を歩かされる。


「豚!しっかり歩け!」


 鞭を打たれる。


「なぜワシが鞭で打たれているのだ!」

「豚!さっさと歩け!」


 バチン!バチン!バチン!バチン!


「痛い!やめろ!」

「豚がしゃべるな!黙っていう事を聞け!」


 バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!


 ワシは黙って周りを見渡した。

 民衆がワシを笑い、あるものは睨み、あるものはつばを吐きかけてきた。

 石を投げられて顔に当たる。



「皆さん!物は投げないでください!コロシアムの石投げタイムが始まるまで我慢してください!」


 石投げ?何を言っている?

 民のもの投げは止まるが、罵声を浴びせられる。


「なんで豚が2本足で歩いてるんだ!4歩足で歩け!」

「そうよ!女の敵にはそのくらいしなきゃ!」

「4本足!4本足!4本足!4本足!4本足!」


「「4本足!4本足!4本足!4本足!4本足!」」



「皆さん!落ち着いてください!今から首の鉄枷を外し、首輪に4本脚で歩かせます!ですが繋いで引っ張る為の鎖がありません!用意するまで少しお待ちください!家畜の散歩には首輪用の鎖が必要です!」


 家畜?

 ワシが首輪と鎖をつけられて4本足で歩く?

 おかしい!


 おかしいおかしいおかしい!


「ワシが家畜!おかしい!ワシは伯爵だ!」

「黙れ豚!」


 バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!


「こ、こんなことは、いた、やめ!こんなことは、間違い、いた!打つな!やめ!」


 バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!


 ワシは黙るまで鞭で打たれ続けた。

 民が鎖を持って来る。


「これを使え!待ってられねえ!」

「協力に感謝します!」


 ワシは魔法を封じる首輪と鎖をつけられ、4本足でコロシアムに向かって歩く。

 ワシを見る子供が声を上げて笑う。

 鎖が踏まれ、ワシの首がグイっと引っ張られる。


「げほ!げほ!げほ!」


 足が痛い。


 鞭で打たれた体が痛い。


 体が悲鳴を上げる。


 手足の感覚が無くなって来た。


「ワシは、もう、ある、けん」

「歩けないか!歩かないなら鞭打ちをプレゼントしてやる。それと豚は話すな!」


 バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!


「やめ!あああああ!いた!あああああああああああああ!」

「歩けるようだな!豚が言葉を話すな!話さずに、鞭で打たれるか歩くか選べ!」


 ワシは何度も笑われ、何度も罵声を浴びながらコロシアムまで歩いた。




 コロシアムのリングに着くと、鎖で固定された。

 鎖の奥には即席の壁がつけられていた。



「今から石投げを行います!このザル1杯で500ゴールドです!皆さん、ブタに石を投げましょう!」


 馬鹿な!たった500ゴールドで?

 平民のディナーにもならないはした金でワシは石を投げられるのか?


「やめ!痛い痛い!」


 民がワシを怒鳴る。


「豚がしゃべるな!」

「4本足で立て!顔を守るな!」

「死ね!」

「これまでの報いよ!」


 ワシは何度も石を投げられた。

 




 もうすぐ終わる、石を入れたザルが無くなるのだ。

 長かった。

 もう、立てない。



「ヒール!」


 ワシに回復魔法がかけられ傷が癒える。

 やっと終わった。

 これで後は帰って寝るだけだ。



「豚!石を拾ってザルに入れろ!」

「はあ!ザルに入れた石はどうなる?」

「また500ゴールドでお前に投げる。それとしゃべるな!」

「バカな!あり得ん!いつまで続くのだ?」

「教えるわけが無いだろう!しゃべるなと言っている!」


 ワシはその日から何度も石を投げられ、落ちた石を拾ってはその石をまた投げられた。

 早くザルに石を入れないと鞭でぶたれた。


 寒空の下、コロシアムのリングに繋がれ続けた。




 もう、何日経ったか分からない。


 


 ある時、王が公爵を連れて訪ねてきた。


「ブッヒ、死刑の執行日は過ぎている。死にたいのなら死なせてやろう」

「しに、たい」


「王に頼む態度ではありません。自然に死ぬまで放置で良いかと」


 ワシは土下座をした。


「死なせて欲しい」

「王への言葉遣いがなっていません。死なせてください。お願いしますでしょう」

「死なせてください。お願いします」

「声が小さいですね」

「死なせてください!お願いします!」


「もっとです」

「死なせてください!お願いします!」

「まだ足りない」

「死なせてください!お願いします!」


「公爵、もうよい、今の公爵の行動はお前が民に対して行った事と同じだ。分かるか?」

「……はい」


「もうよい。早く死なせろ」

「承知しましたこの場で死刑執行を行います。入場料を取り、少しでも被害にあった民の為に当てます」


「好きにしろ」

「はい、好きにさせて貰います」


 あと少し、やっと、死ねる。


 ぼんやりした目で王と公爵を見つめる。





 後日、雪が降り、リングを白く染める寒空の下。


 元豚男爵の死刑執行が行われた。


 その日、白いリングは一部赤色に染まった。







 






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