第35話

【豚男爵視点】


 ワシは牢でひもじい生活を続けていた。


「おい!豚!食事だ」

「これだけ?たったこれだけか?」

「何だ、いらないか?じゃあ食事はお預けだな」


「待て!待つのだ!待たんか!」

「うるさい!」


 槍の反対側で何度も突かれた。


「があ!やめ!やめるのだ!」


 声をあげる度に何度も突かれた。


 ワシは話す事をやめた。




「豚、飯だ」


 ワシは無言で頷いた。

 無言で食べるが、味が薄い。


 油が足りない。


 香辛料が足りない。


 ただ茹でたどろどろの麦に野菜の芯と野菜の皮が入っている。


 肉も無い。


「豚、痩せたな。いい体になって来たじゃないか。ははははははははは」


 悔しい。


 貴族であるこのワシが、こんな仕打ちなど、おかしい。


 おかしすぎる!


 世の中が間違っている!


 この国はおかしい!




 ワシは国を呪うようになった。

 

 牢で眠る。


 食事が足りない。


 部屋が寒い。


 そして地下からたまに音が聞こえる。


 幻聴か?


 だが確かに聞こえる。


 ワシは毎日飢え、毎日凍え、毎日、小さな幻聴を聞き続けて過ごした。




 深夜のある日、ゴーレムが地下から大量に出てきた。

 人が作ったゴーレムか!


「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ゴーレムは牢を破壊し、見張りの兵士を倒していく。


 兵が倒されると地下から人が出てきた。


「不当に捕まった皆さんを救出しに来ました!こちらへどうぞ!」


「逃げられる!やっと逃げられるぜ!」

「げへへへへ!今がチャンスだ!」

「ひゃっはー!チャンスが来たぜ!」


 ワシは必死で後を追った。


 ここにいても死刑になるだけだ。


 ワシは走った。




 そして、地下を抜けて外に出ると雪が降り始めていた。


「皆さん!追手が迫っています!すぐに馬車に乗ってください!王都に残っていてはすぐに捕まり殺されてしまいます!」


 ワシは馬車に詰め込まれてるように乗って逃げた。




 リレーのように何度も馬車が変わり、昼も夜も何度も乗り換え、馬車は走り続けた。

 何日もろくに食べず、雪を食べて水分を補い馬車を下ろされると学園都市レディパールの近くにある大きめのログハウスに案内された。


「ここには食料がありません。ですが薪ならあります。馬を捌いて食べる事なら出来ます。後は、レディパール学園には多くの食料を備蓄しています。分けてもらう事で飢えを凌ぐことが出来るでしょう」


 そう言ってワシらを助けた男は急いで去って行った。


「おい!見ろよ!武器があるぜ!これで馬を捌いて食える!」

「へへへ!馬を食ったらレディパール学園を襲撃して食い物を奪ってやる!」

「俺も行くぜ!」


「だが今は肉を捌く!しっかり食っておかねえとな!」


 肉が捌かれ、肉を焼くいい匂いがした。


 薪の暖房と、肉を食べた事で体が体温を取り戻していく。



 奪ってやる!


 レディパール学園か。


 リンカフレイフィールドの体も奪ってやる!





【レディパール学園都市近くのアジト】


 レディパール学園から数キロ離れた地下にはゴーレムの研究所があった。


「ほっほっほ、ベヒモスの最終チェックは間に合いそうか?」


 ゴレムズは機嫌が良かった。

 その男は痩せてくたびれた見た目をした老人で、髪と髭が真っ白だ。

 錬金術師であり学園長の地位をマーリンとめぐり争ったが負けた。

 その日からマーリンに復讐するため弟子を30人育て、ゴーレムで復讐を企んでいた。



「はい!最強ゴーレムはもうすぐ最終チェックが終わります」


「うむ、レディパールの近くに配置した犯罪者共はどうなっている?」

「レディパール周辺の8拠点に計246名の犯罪者や盗賊、レジスタンスを集めました。襲撃時期も丁度冬休みが始まる頃に合わせてあります」


「ほっほっほ!通常ゴーレムはどうなっている?」

「125体すべて起動チェックは終わっています!」


「うむ、もうすぐじゃな!ワシを追放したマーリン!必ず殺す!学園を滅茶苦茶にし魔法より錬金術が上であることを証明してする!ほっほっほっほっほっほっほっほ!」


「た、大変です!」

「何があった?」


「第四拠点がレディパールに発見されました!斥候を仕留めきれずすでに学園都市に情報は漏れています!」

「……よい、そこは最初の生贄になって貰う。犯罪者や盗賊は元々目くらましの生贄じゃ。順調順調!ほっほっほっほっほっほっほっほ!」


 マーリン!


 必ず殺してやる!


 ワシから学園長の地位を奪った報いを受けよ!









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