第34話
【王視点】
チンカウバインの恋占いが終わるとすぐにフィールは王都を出た。
故郷を確認する前に100人希望者を募ってバイブレーション領に連れて行く事を即決した。
どうやら嫌われる事を覚悟して多少強引に進めるらしい。
更にどうしても移民を希望しない者は新しく領主になった貴族に領民を引き渡す事も即決した。
判断が早い。
闘技場での戦いでリンカフレイフィールドに結婚の意志を聞いた際、実はフィールを見ていた。
困るであろうリンカフレイフィールドを目の前にしてどう対応するか?
それとも何もしないのか?
結果を見て分かった。
『自分が必要に迫られれば動く』
フィールはそういった人間だ。
試合の際もファイアストーム家に花を持たせ、ダメだった場合に備えて構えていた。
発動が早い風魔法、しかも上級まで使えるなら最初に魔法を撃てるのはフィールだったはずだ。
サイクロンを使って目立つ事も出来たはずだ。
だが撃たなかった。
それを見てフィールの性格が少しわかった。
必要に迫られ動く者なら定期的に任務を与えて活性化させる。
そして有能なら任務の幅を増やし爵位を引き上げる。
フィールは妖精に認められ、ファインとも交友がありリンカフレイフィールドの性格も見抜いていた。
フィールは自分が留年する事を気にせず、しかしアイラとリンカフレイフィールドには学園に通ってもらいつつ移民の移動を進めている。
雪が積もる前に終わらせる考えなのだろう。
今の所は優秀に見える。
しかも必要な経費は自分が働いた資金を使い切ってからファイアストーム家とバイブレーション家に相談するらしい。
豚男爵とは対極の考えを持っていて実にいい。
雪が降るまで報告を待つとするか。
◇
寒くなりフィールとファイアストーム家の当主が王城に訪れた。
「バイブレーション家への移民希望者は566人中198名程度で希望者すべての移民が完了しました」
「ご苦労だった。民が飢える心配はないか?」
「はい、父やアイラの両親がいますから心配は無用かと、ただ、慣れない土地で風邪を引く者は多いようです」
「所で、ファイアストーム家の爵位についてはどう考える?」
「貴族として継続でいいかと考えます。生活費などは基本バイブレーション家で出す形で当面は問題無いかと」
「僕は爵位なんていらないんだけどね」
「お前はファイアストーム家としてしばらく働いくのだ。ファイアストーム頼みの支援要請はまだある」
「分かったよ」
「最後にフィール、資金面などで何か支援は必要か?」
「いえ、ただ、ダンジョンに行きたいので時間が欲しいのです。最初は出来るだけ自分で働いて領地の支援をしたいので。移民増加の初期段階では出費が多くなります。皆に迷惑をかけないように僕がお金を稼いでおきたいのです」
「そうか、ご苦労だった。下がってくれ」
フィール達が下がると公爵が話しかけてきた。
「フィールは優秀ですね」
「そうだな。欲張りすぎず、判断が早く、要点をよく見抜いている」
バタン!
「報告します!ブッヒ・シュバインが牢から脱走しました!」
「どうやって逃げ出したのだ?」
「それが、地下牢に穴が開いており、そこから逃げられました!追撃を開始しましたが、内部が迷路上になっており、完全に消息を絶ちました」
「モグラ戦法か」
「やられましたね。地下に迷路を作って、逃走ルートの穴を塞がれれば発見は困難です。逃走経路を見つける頃には逃げられた後になるでしょう。すぐに探索部隊を編成します」
「あと少しで処刑出来たはずが!完全にやられた!」
豚男爵は脱走し、姿をくらませた。
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