第30話

【豚伯爵視点】


 ワシが王都に呼ばれた!

 これは、優秀なワシの爵位を上げる思惑だろう。

 そうとしか考えられん。


 ワシは王に謁見し、頭を下げた。

 だが、様子が少しおかしい。

 周りからくすくすと笑い声が聞こえる。


「ブッヒ・シュヴァイン元伯爵、久しいな」

「はい」


 元伯爵?

 次は侯爵か?

 いや、公爵も行ける!


「話によればファイアストーム家に収めるはずの15憶を納めず、利子をつけて貸し付けたと聞いているが本当か?」

「そ、そんな!あのお金はワシの金です!」


「なるほど、私は遠征に赴くファイアストーム家を援助するため15憶を寄付しろと命じた。だが、銀行の履歴を調べた所、寄付ではなく貸付けとなっている。ブッヒ、お前の記憶違いということで良いな?もしワザとやったとなれば、重い罪に問われるがどうだ?」


「き、記憶違いでした」

「うむ、ならばよし!許そう。すぐに15憶とその利子をファイアストーム家に返すのだ。だがおかしなこともあったものだ。お前宛てに何度も間違いを直すよう手紙を渡し、本人からのサインを何度も受け取っている。過去にはこの場で間違いを修正するよう私が直接言い、お前はそれに納得した。その上で記憶違いというのだな!何度言っても理解できぬか!?」


 周りの笑い声が大きくなる。


「そ、それが、領地の経営には、何かと費用が掛かりまして、苦しい状況なのです。難しいでしょう」

「そうかそうか、おかしなこともあるものだ。何度言っても理解できないかに対しての答えが領地経営が苦しいから出せないか。お前は相当話が苦手なようだ。もちろんそう言った貴族もいるがそういうものには文書でやり取りをすれば解決する。だがお前は文字でも言葉でも駄目か」


 ワシはだらだらと汗をかく。


「魔物狩りの遠征には参加せず、資金の工面もしない。貴族の役目を果たさず、それで苦しいとそう言うか。他の貴族はしっかりと役目をはたしている。だが、ブッヒ元伯爵はその役目も果たせんと、そう取って良いか?」


「そ、それはどういった意味でしょうか?」

「意味が分からんか。私はブッヒ、お前は貴族の役目を果たせていないと言っている。出来んのなら貴族の爵位を捨てるのがいいだろう」


 周りの笑い声が大きくなる。

 このワシが笑いものにされている!

 また笑いものにされるのか!


「か、近いうちに必ず用意、致します」

「それは?今ではなく近いうちにか?借金をすればすぐにでも出来ると思うが近いうちとはいつ15憶ゴールドをファイアストーム家に渡すのだ?銀行口座経由で送らねば認められん。不正はいかんからなあ。この王城には銀行もある。今契約するだけで事は足りるがそれでは無理か?」


「今月中に送金します」

「そうかそうか、先ほどは払うのは難しいと言ったが、出来るのだな?誰にでも間違いはある。だが、次破った場合はお前を死刑に処すが良いか?お前は間違う事が多い。多すぎるのだ。お前は何度も間違いを犯した。間違いすぎた。言っている事も二転三転しすぎる。そうは思わんか?」


「死刑は、大げさかと考えます」

「それは、次も間違えると言っているのか?次も間違え、貴族としての役目を果たせぬと言うのか?間違えぬと言うなら死刑でも問題はないはずだが、また間違いを犯し貴族の役目を果たせぬと、そう言いたいのか?」


「か、必ず払います」

「大きな声で皆の前で言うのだ!ここには新聞社や他の貴族も集まっている!」


「必ず払います!」

「この紙にサインをするのだ。次の失敗は命で償うとサインするのだ」


 ワシはサインした。


「聞くのだ!ブッヒ元伯爵は一カ月以内に15憶を返すと言っている。銀行の契約だけならこの場で事は足りるが、どうやらブッヒ元伯爵は自分の命を賭けたギャンブルが好きなようだ」


 部屋中に笑いが巻き起こった。

 悔しい!

 なぜワシがこんな目に合うのだ!


「では次の話に移る。ブッヒ、お前の領地で民が逃げ出しているようだな。話に聞くと、民の半分以上が逃げだし、最近の話を聞けば3人に2人は逃げ出したと聞くがどうか?」

「それはデマでしょう」


「そうかそうか、では娼館で掃除をする平民の娘に家族を殺すと脅し、監禁して体を弄んだと聞くがそれは本当か?愛すべき民を奴隷のように扱ったと聞いたがどうだ?」

「それこそデマです」


「そうかそうか、では証人を呼ぶとしよう。お前の元執事を呼んである」


 ワシの元執事が出て来て皆の前で礼をした。


「貴様!ワシを裏切るのか!」

「ブッヒ、黙って聞くのだ」

「こいつは裏切者です!」

「ブッヒ、黙れ」


「こいつは無能な」

 その瞬間に近衛がワシを取り押さえた。


「いだいいだい、痛い。うああああああああ!」

「声をあげる度に腕を捻ってやれ。誤って折ってしまっても構わん。ブッヒの間違いで人が死に過ぎたのだ。人の骨などたくさんある」


 王は冷たく言い放った。

 この目は、前に見た事がある。

 不正を行った貴族を殺す時の目だ。


 元執事は涙を流しながらワシの行動を語った。

 娘を買った事、脅した事、すべて言って、今娘は心の傷を負い、療養している為証言できない事も言った。

 ワシの兵が盗賊のまねごとをしている事も全部言われた。


 会場にいる者がワシを射殺すような目で見る者、涙を流して睨む者もいた。


「ブッヒよ、他にも多くの証言を得ている。だが、執事の言う事はデマだと、そう言うのか?」

「で、デマでございます」


「そうかそうか。もうよい。お前を伯爵から男爵に落とす事が決まっている。今この瞬間、お前は豚男爵だ」

「な!あんまりです!」


「それと男爵となったお前を拘束する。拘束期間は一カ月!その間銀行取引は出来ん。ブッヒ男爵は死刑になる事が決まった。意見のあるものはいるか?」


「そんな!卑怯です!こんなに優秀なワシを殺す事は国の損失です」

「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!呆れて笑ってしまうわ!連れていけええええええええええええええええええ!!!」


「あの、よろしいでしょうか?」

「公爵!なんだ!また小言か?」


「いえ、そのお耳を少し」

「はあ、分かった分かった」


 何を言っている?

 聞こえない。



「うむ、そう言う事か。ならば、公爵、自分で説明するのだ!茶の用意をしろ。喉が痛いわ!法を守る度にイライラする!」


「ブッヒ男爵にやって貰いたいことは……」





「そう言う事ですか!ならば受けましょう!」


 ワシにも運が回って来た!

 ファイアストーム家などよりもワシの方が優秀だ!

 その事を教えてやる!


 今回の余興対決、ワシが必ず勝つ!

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