第20話

何故あの女の子は僕に連絡先を教え、家に招いてくれようとしているのかが不思議だった。

その場のノリなのか、はたまたこの電話番号は違う人の電話番号なのか、家に行けば男が何人か待っていてボコボコにされるのか、そんなことを考えていた。

何故、僕が恐怖し向こうはあっけらかんとしているのだろう?普通は逆の状況だと思う。

見ず知らずの男が若い女の子の家に押し入ろうとしているのだから明らかに向こうの方が恐怖を感じるだろう。

あやは本当に純粋な気持ちがあるのだろうか?

世間をまだよく知らない子なのだろうか?

色々考えたが、もう明日仕事が終わってこの番号に繋がった時に全てが解る気がしたのでもう考えるのは止めにした。


 今日は色んなことがあり、忘れていたが僕はついさっきゲイを殴って金を盗っている。さっきのゲイが僕を殺そうと探し回っているかもしれない。

テレビでよく聞く犯人は現場に戻ってくるとゆう衝動にかられたが、戻らない方がいいとこの街は言っているような気がした。

肝臓とみぞおちを殴ったぐらいなので死にはしないだろう。最悪肋骨が折れているくらいだ。

通報されたら捕まるなーと何処か自分の事を俯瞰的に見ている自分がいた。まぁ何処か骨が折れていたとしても、示談に持ち込み50万くらい渡せば丸く収まるだろう。そんなお金は持っていないが、結局人間は金だ。

 今1番危惧することは報復だった。絶対に見つかってはいけない。

とりあえず今日はこの街で眠るのは危険だった。始発まで1時間弱、僕は街から移動して阪急百貨店の歩道橋のような所で横になった。深夜にもかかわらず、車の交通量は多く、当たり前だが人の足音や、物を引きずる音よりもうるさかった。眠ると言うより目を閉じて横になっているだけの時間だった。


 何だかとても虚しくなり、一瞬だけ真希と暮らしていた時のことを思い出したが、爆音で高架下を走って行く車の音ですぐに振り払えた。

思い出は美化されやすいもので、いいことばかり頭によぎりそうだった。実際はもう冷めきり関係は終わっていたのに、この前荷物を取りに家に帰った時にそれを感じたばかりだったのに、自分の心の弱さが本当に嫌になって自分を心の底から嫌いになりそうだった。


 少しずつ空が明るくなり始めてきた。もうそろそろかなと大阪駅の方を歩道橋の上から見ていると、ゆっくりと閉まっていたシャッターが動き始めた。

やっと駅の中に入れると思った。年明けのセールにも並んだことはないのに、平日の何もないこんな日に、僕は大阪駅が開くのを待っている。

情けなくなったが、下を向くのはやめておいた。

 今日仕事を頑張れば、あやに電話を掛けて上手くいけば、お風呂や温かい布団で眠れるかもしれない。1日だけでも人間としての生活を送れるかもしれない。想像した最悪の結果が待っているかもしれないが、細やかな希望が僕の中には満ちていた。たとえ裏切られたとしても、今日は胸を張り、背筋を伸ばし1日を終えたいと心に決めた。

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