第18話

そんな事を考えているうちに何人かの客は会計を済ませし帰って行った。

どの客も1万円以上支払っているように聞こえた。

「ここの客はみんな長い時間居座るんやな、みんな何時から飲んでるん?」

「みんな、大体1時間くらいで長くて2時間くらいよ。みんな女の子に飲ましてお金払ってる。家帰っても退屈やろうし、お金も稼いでるやろうからここでお金使ってくれるねん」

なんだかんだ世間の大人達は寂しいのかなと思った。1人暮らしだと家に居てもとくにやることも無いし話し相手もいない。中には、既婚者もいるかもしれない。でも日々の生活が退屈なんだろう。

そうゆう人間にとってガールズバーやキャバクラなど自分達の普段の生活には無い刺激や若い女という存在は、彼らにとって心のより所になっていて、きっと無くなると心のバランスが崩れるのかもしれない。今日も俺はこんなに金を使い、若い女の子と沢山おしゃべりをしたぞというのが彼らのステータスになり個人の欲求を満たしているのだろう。

「哀れな大人やな」

心で思っていたことがぽろっと口に出てしまった。

「慧悟やって今ここにおるんやから、そんなん言うたらあかんよ」

困った顔で、ポツリとあやが呟いた。

あぁ確かに今僕はこいつらと変わらない。女の子に酒を飲まして、おしゃべりをしている。全く同じだ。

何より目の前に働いている定員がいるのに失礼な言葉だった。

「慧悟、そろそろ1時間経つけどどうする?延長する?」

もうそんなに時間が経っていたのか、延長することを伝えあやの飲み物が無くなっていたので、何か飲んでいいと伝えた。

あやはこの1時間に3杯ドリンクを飲んでいた。このアプローチ力は見習うべきだ。懐に潜り込んでくるのが上手く、無理やり感もなくさらっとお酒を要求し自分の売り上げにする。美容師になったら売れそうだなと考えているとお酒を持ってあやは戻ってきた。

「はい、乾杯ー」

今日4度目の乾杯を1回目のようなテンションでやってくる。少し疲れてきた。

「慧悟はさ何で毎日朝まで飲んでるん?彼女とかおらんの?家帰らな家賃勿体無いよ」

今の現状を話そうか迷ったが勝手に言葉が口から漏れていた。

「彼女は最近別れた。後家はあるけど帰りた無いから帰らへん」

僕は何を話しているのだろう、ゲイから逃げるために一時的に隠れた場所の知らない女の子に何を言っているのだろう。

酒を飲みすぎて、余計な事を考えて言ってしまった。それとも聞いて欲しかったのだろうか?自分も寂しい大人なのだろうか?

「えっ、彼女と別れたんやーよりも家あるけど帰りたく無いってらどんな状況?追い出されたん?」

今日はいい気分で眠れると思ったが、最後の最後に胸糞悪いとんだ災難にあった。

もうこの目の前に立っている、あやという女の子に酒の力を借り全てを話してしまおうか。そうすれば気持ちが楽になるかもしれない。


「自分で出て来た。もう1週間くらいこの辺の路地で寝てる。朝まで酒飲んで路地で寝てそれから仕事行ってまたこの街に帰って来てる。変やろ?普通じゃないねん。この前はホームレスに靴片っぽ盗られかけるし、この店入って来たんもさっきゲイに絡まれてホテル連れて行かれそなって殴って金盗って逃げるようにこの店に入って来た。今な、目の前で酒飲んでる奴は、ただの若いホームレスやし犯罪者まがいやで?引くやろ?とんでもない客が入って来たと思ってるやろ?何かごめんな全部言うたらスッキリしたから帰るわ」


 声を荒げる訳でもなく静かにこの店に来てから1番喋った。今までのことを目の前のあやに畳みかけるように話した、イライラしていた訳でもなく、寂しかった訳でも無い。可哀そうだなと同情されたい訳でもない、じゃあ何なんだ?


 ただただ話したいという自己の欲求をこんな若い女の子にぶつけてしまった。しかもろくでもない話を本当に大人として最悪だ。


「ごめん」

本当にそう思った。もう会計を終わらしてまたどこかの路地で眠ろうと思った。

「慧悟、さっき延長したとこやから後ちょっとおらな勿体無いで?」

「はぁ?」

自分でも気が抜けた声が出たなと思った。こんな話をされてこの子は何を言っているんだ?こんな客は直ちに退店させるべきだ。

「もうちょっとおり、黙っといてあげるからもう一杯一緒に飲もう」

寄り添ってくれようとしているのか、類は友を呼ぶ感じでこの子も変わっているのか?

「ゲイからなんぼ盗ってきたん?」

こんな話の後なのにあやの語尾には「笑」という文字が浮かんで見えた。

「7万盗ってきた」

「うわ、めっちゃ金持ちやん。もっと飲んでいい?」

「調子乗んな、これ飲んだら帰る」

あっけらかんとしているというか、引くどころか、さっきの話をネタにしようとしているのか?

よくわからないが心が落ち着いた気持ちになった。ただ、全く知らない誰かに全てを吐き出したからかもしれないし、隠し続ける事に疲れていたのかもしれない。きっと今ゲイを殴って金を盗った話を誰にもせずに心の中に留めていたら、明日の僕の顔は、もっとどんよりと曇っていて、目は濁りきっていただろう。

救われたのだ。今目の前にいるこの子に。


「あのさ、頼みあんねんけど、家泊めてくれへん?」

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