第16話
きっと僕の表情は焦りと強張った顔で、怖かったのだろうか彼女は、「え、あ、空いてますよ」と引きつった顔で答えた。
「金あるから一緒に中入ってくれへんか?」
金があると聞いたからなのか、自分を指名してくれた事が嬉しかったのか、彼女の顔はさっきとは打って変わって晴れ晴れしくなり中へ案内してくれた。
ガールズバーに来るのは初めてだった。よく徘徊している時に前を通ったら、「お兄さん、一杯だけでも!」と声を掛けられる事はよくあったが実際に中に入ると少し薄暗く、バーカウンターと客席が仕切られていて、あぁ普通のバーかと思った。
終電が終わったせいか中にはちらほらとしか客はいなかった。それぞれの男性の前にカウンターを挟み、女の子が1人付いていた。
僕が店の中に連れ込んだ女の子は、「あや」とひらがなで書いた名札をしていた。
他の女の子に対して少し地味で化粧も薄かった。こうゆう店で働く女の子は派手なメイクをしたギャルばかりだと思っていた。
「このお店には大体お客さんに1人女の子が付くから、お兄さんは私を指名してくれたから、今日は私が付くね」
あやという女の子から店の説明を受けた。
「1時間飲み放題で3000円、もし私にドリンクをくれたら一杯1000円追加ね。キャバクラのバースタイルって感じかな?」
僕はキャバクラにも行ったことはないので、あまりピンとこなかったが亮太郎の店のような感じかと、なんとなく腑に落ちた。
「あの、朝までいるといくらになる?」
えっ?と少し驚いたような顔をされた。ここで朝まで過ごすような客などいないのだろう。
「今が1時だから、4時間いたら12000円くらいかな?」
「じゃあとりあえず居れるだけ居さして欲しい。とりあえず何か飲みな、俺はビールでええかな」
変な客が来たと少し戸惑った表情で「あっ、じゃあいただきます」とあやは、ドリンクを作りに行った。
とりあえず酒が出てくるまで煙草を吸い落ち着こうと思った。ついさっき起こった事を整理しあのゲイが死んで無いか少し不安になった。
考える間もなく。頼んだビールとあやは自分のグラスに酒を入れて素早く持ってきた。
「じゃあ、いただきまーす!」元気な掛け声と共に乾杯した。
これでプラス1000円か。
「お兄さん、たまにこの店の前通るよね?私何回か声かけたんやけど、ガン無視されたんやけど。でもさっき血相変えて話しかけてきた時、正直怖かったよ」
初対面なのに客に対して距離が近いように感じた。今日初めて話す人間にこんなに自分の感情をぶつけてくるものだろうか?
「声かけられたんは気づかんかったわ、でも見た事はある。この街にはキャッチが多すぎていつも困ってる。今日はたまたま飲みたい気分やったから来ただけやねん」
「ふーん、お兄さん、この辺で働いてるの?バーテンとかやってそやよ?」
「うーん。まぁそんな感じかな?この辺で働いてるよ」
めんどくさかったので嘘でごまかした。どうせこの子にこれから会うことも無い。
「あーミステリアス系ね、そうゆう感じ出したらモテると思ってるでしょー」
さっきから気になっていた事が、何か解った気がする。このあやという女の子は話している語尾に「笑」というのが付いている。
文字でしか表せない表現だし、説明は難しいが確実に語尾の最後が「笑」って感じで終わる話し方だった。
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