第14話

「いや、そりゃずっとは道では寝ませんよ、いつか家も借りますし、何とかしますよ」

「いつっていつやねん?」

いつなのだろう、普通ならもうこのタイミングで次の家は決まっている。僕はいつ家を探し出すのだろうか?


「正直わかりません!とりあえず今はベットと洗濯機と服置けるところ探してます」

「なんでちょっと開き直って喋ってんねん、まぁそれやったらトランクルームに荷物預けたらええんちゃう?確か1ヶ月3千円くらやったんちゃうかな?この辺やったら南森町にあったと思うで」

最近の世の中にはそんな便利なものが出来ているのか。

 僕はすぐに携帯でトランクルーム、南森町で検索した。部屋にもよるが僕の荷物を置くくらいなら、大体亮太郎の言っている金額で済みそうだった。


「でも僕都島に家あるんで、南森町までそんな大きい荷物運べますかね?」

「お前車の免許持ってないん?レンタカーでハイエースでも借りて一気に運んだらええやん?」

「持ってますけど、大阪の街なんて運転したこともないし、出来る気しないですよ」

「お前やっぱり変な奴やな、道で寝るん怖くないのに、運転は怖いんか?」

「いや、運転は命かかってますやん?3人くらい跳ねても罪にならんのやったら乗れますけど」

亮太郎は呆れるという感情を追い越してずっと笑っていた。

「月曜言うたよな?ほな俺が運転したるから、トランクルームとレンタカーだけ用意しろ。月曜日の朝にレンタカー屋の近くに集合しよ」

 この人はどこまでもお節介で、まだ会って日がそんなに経っていない僕のこんなめんどくさい事に首を突っ込んでくる不思議だったが、優しい人なのだろうと改めて思った。

「本間に、ありがとうございます。明日中に調べて手配します。本間にありがとうございます」

「でも金はお前が出せよ、あと終わったら酒でも奢れよ」

「そんなん当たり前ですよ、何杯でも奢りますよ、飯でもなんでも奢ります」

「ほな決まりやな、計画は月曜日、お前の立ち合いまでの時間が勝負や、人手も足りんから島さんもつれて行こう。有給取れるやろ」


 話はあっという間に決まっていきレンタカーの契約は亮太郎に見てもらいながら店にいる間にやり終えた。

時間は早かったが、話もまとまり、2人とも酒がどんどん進んでいた。

今日沈んでいた気分も晴れ、会計を済まして新しい寝床を探そうと思った。この前寝た路地だとまた靴を盗られそうな気がしたし、この街のホームレスは少なからず僕のことを認知して狙っている。

「今日は早いけど帰りますわ。本間に色々ありがとうございました」

「おぅ、島さんにも会社休んでって言うとくわ。今日は靴盗られんなよ」


 気分よく店を後にした、今朝のどす黒い気が狂いそうな気持ちが少し晴れた。さぁ今日はどこで眠ろうか最底辺の生活なのにそれさえも楽しく思えていた。この時は気持ちが前向きになっていた。単純な人間だ。


ふらふらと街を徘徊する、何処か安全に眠れそうな場所を探す。今までは人通りが少ないところを中心に探していたが、誰もいないゆえに靴を盗られそうになり、朝からホームレスに物乞いをされた。

 今日は逆に人が多く通る場所を探してみることにした、ただの酔っ払いが酔い潰れて眠っているだけだと思われるかもしれない。

徘徊していると、梅田AKSOというライブハウスの前が階段になっていた、ちょうど寝やすそうな気がしたのと、目の前にアンティークという朝方までやっている雰囲気の良さそうな喫茶店があったので、ここで眠り早起きが出来たなら少し贅沢をしてコーヒーでも飲んでいこうと考えていた。


 終電が迫っているので、沢山の人が駅の方に向かっている。もう少しすればこの辺りは静かになるのだろうか?

様子を伺いながら人々の行動を煙草を吸い、酒を飲みながら観察していた。

誰も僕に目を止めない中で、何か嫌な視線を感じた。

ママチャリに乗った、40代くらいのおじさんが自転車を止め離れた位置からこちらを見ていた。少し気味が悪いと思ったが、あまり気にも留めずにまた人間観察に戻った。少し周りが静かになってきた頃にはもうそのおじさんもいなくなっていた。もしかしたら僕のことを可哀想な目で見ていたのかもしれない、または粋がっている若者を愚かだと思いながら眺めていたのかもしれない。たとえ何であろうと僕にはどうでも良かった。今日は色々な事があった正確には昨日の朝からだが最終的には気分よく眠れそうだった。

 人の動きが落ち着いてきてそろそろ眠ろうかと最後の一服をしている時だった。

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