第13話
翌朝はいつもの癖で朝の4時頃に目が覚めた。昨日降っていた雨は止み、曇天の空だった。一刻も早くこの家から出たかった僕は、洗面台で顔だけ洗い家を出た。取られるものなど無いのに癖で何度も鍵をかけたかチェックするこの性格が本当に嫌だった。
この家に長く居座ると気が狂いそうだった。早朝の都島は酔っ払いもいなく、くたびれたキャバ嬢も、この世の終わりみたいな顔をした風俗嬢もいない、それだけで住みやすくいい街だと思った。
この1週間程度で僕の感覚はもう麻痺しかけていた。夜の街に馴染んできたのだろうか。
桜ノ宮の駅に着き始発を待った。いつもより二駅手前から始発に乗る、誰もいない車両に乗って朝の始まりをいつもより強く感じてみた。
だがこれといって変わりなく、いつもの朝はいつもの朝で、自分が今日する事は同じだ。
いつものように弁天町で降り、入浴を済ませ、少し仮眠をとる、それから宗教的な朝礼。後は業務をこなす。
美容師の仕事を業務と思っている時点で今日はいい仕事は出来ないだろう。
淡々とした1日だった。いつもより作業感が出ていた。今日来てくれたお客さんには申し訳なかったかもしれない。
何だか今日は店にも居たくない気分だった、日野に、レッスンを頼まれたが体調が悪いと断って店を出た。
環状線に揺られ大阪駅に着いた。亮太郎の店に行けば今の気分を吹き飛ばしてくれるような、そんな期待をしていた。
「慧悟、今日はえらい早いな、まだ島さんも来てないで」
普段と変わりなく、いつの間にかここが僕の家のようなものになっていた「ただいま」とは言わないが当たり前のようにここに帰って来る。
段々と自分がおかしくなっていくような感覚があった。
「昨日来んかったな、どっか違う所飲み行ってたんか?」
「あー、いや実はね亮太郎さん・・・」
僕は昨日あった事を話した。ホームレスに靴を取られかけて物乞いされた話で亮太郎はよく笑っていた、しかし部屋を解約するという話にはあまり笑わずに、少し真剣な顔で「辞めとけ」とだけ言われた。
「もう管理会社にも電話して決まったことなんですよ」
「慧悟、でもな本間に家無くなって、ほんまにホームレスなったら笑えんぞ?俺お前が道で物乞いしてるの見るの嫌やもん」
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