第9話

 冷静になって「ごめん」と謝った。本当は今日はこんなはずではなかったのに、久しぶりに会った聖子に申し訳なかった。

「良かったら、店変えよか?ここ俺奢るわ、まだ時間あるん?」

断る逃げ道を作りつつ、もう少し人と喋りたいという気持ちがあったので選択できるような質問を投げかけた。

「うん、夜まで暇、奢りやったらもっと食べたらよかった」

クスっと笑いがこみ上げる、この子はそう本当にいい子で優しいのだ。

店を出てから、聖子の行きたい服屋等に行き時間を潰した。

女性物の服屋なので僕はどこに立っていていいか解らなかった。

とりあえず聖子の後ろに着いてうろうろとしていた。

「あ、慧悟、今日の予定無くなったわ、晩御飯も一緒に食べよや」

この時、聖子が本当に約束が無くなったのか、こいつを1人にしないほうがいいと思って約束をキャンセルしてくれたのか今でも解らない、ただ何となく後者のような気がして申し訳なかった。

「ちょっと前に飯くうたからなー食べたいもんある?」

「焼肉」

即答だった。

「でもまだ腹減ってないから、もう少し歩こう。どっか行きたいとこないんか?」

「えーもう無い。行ったらまた買ってしまうから行かへん」

まだ夕方の5時だった、時間を持て余してしまった男女がこの街には一体何人いるのだろうか。そういえば夜眠る場所を探している時に食べ放題の焼肉屋の看板を見たのを思い出した。

「聖子さ東通りに焼肉屋あるわ、ちょっとそっちまで歩かへん?ついでに、俺が寝てる場所見て行ってや」

「危なくない?ホームレスだらけちゃうやんな?」

「うーん、まぁちょっとおるけどそんなにおらんかな」

「どっちよ、まぁ焼肉食べれるんやったらちょっと歩こうか」

茶屋町から東通りは歩いて15分くらいでそんなに遠くはない、夕方でもガールズバーや無料案内所のキャッチが店頭に立っている。

「お前さ、いつもここに帰ってきて寝てるん?」

「そやで、これから今まで寝たところ紹介するわ」

僕は今まで眠りについた路地や大きな駐輪場などを案内した。

この大きな駐輪場が一番静かで眠りやすいことを都会のど真ん中にこんな場所がある事を聖子に熱心に語った。

「いや、こんなところで寝てたら、本間にお前いつか死ぬで」

呆れたように言われたが僕はあまり気にも留めなかった。

焼肉屋に行く前に亮太郎の店の前を通った、知らないスタッフが知らない客を接客していた。

「ここやねん、友達できた店、今日は友達休みなんやけど、昨日聖子に会うって言うたらまた連れてきてって言うてたで」

「こんなオシャレな店行ってるん?お前身の丈に合った生活しろよ」

「身の丈ってなんやねん、酒飲んでたら朝までおらしてくれるねん」

「まぁ気が向いたら来るから連れてきてよ」

きっと亮太郎の店は女性を連れてくるにはもってこいの店なのだろう、僕達は毎晩男3人で飲んでいるのは勿体無いのかもしれない。

「焼肉屋まだなん?」

「もう着くって、腹減ってるん?」

「うん」

あっ、これは本間に腹減ってる時の「うん」だと思い1番近い道を選択した。

路地裏を通って、その先に焼肉屋はあった。

入ったことはなかったが入り口を開けると細長く急な階段になっていた。

階段を登り「2人ですけどいけますか?」と出てきた定員に尋ねた。

「ご予約はされてますか?」

「いや、してないです」

「少々お待ちください」

5分ほど待たされ定員が帰ってきた。

「ではお2人様こちらのお席はどうぞ」

何の確認だったのだろう、店はまだ時間も早いせいかガラガラで何処にでも座れそうだった。定員から説明を受ける。

2時間食べ放題で1時間30分でラストオーダーらしい後、最初に出てくる肉の盛り合わせを食べてから好きなものを頼めるらしい。

何だか嫌な予感がしたがそれは的中した。

最初に出てきた盛り合わせがこれでもかと山盛りだった。もうこれだけでギブアップだと僕の胃は言っていた。

「うわーめっちゃ美味しそう、はよ食べよや慧悟」

目の前にいる聖子が神様のように思えた。こいつとなら2時間戦えるかもしれない、そう思わせてくれた。

順調に肉を食べ進めある程度お腹が一杯になったところで机の端にずっとあったのであろうが気付かなかった。昔の古い店に置いてあるような100円入れると星座占いが出来るガチャガチャが置いてあった。

「これ、懐かしいな、小さい頃行ってたうどん屋にあったわ、聖子やってみるか?」

「いや、私ら誕生日一緒やから一緒のことしか書いてないよ。お金もったいないやん」


確かにと思ったこれは違う星座の人が、お互いの相性を知るためにやるものだ。


「それよりさ私らの誕生花って知ってる?」

「誕生花?なんなんそれ?何で急にそんな話なるん?」

「いやこの前雑誌で読んだんよ4月19日はな2個あんねん」

「そうゆうんて大抵1個ちゃうん?」

「いや誕生花ってな結構何個かあるみたいでさうちらにぴったりな2個やってん、聞いてくれる?」

このパターンは興味が無くても聞かなくてはいけない展開だ。

「ほな何ですかその2つは?」

「キショウブとイチリンソウ、花言葉も載ってん」

どっちも聞いたことのない花だった、花の名前なんてよく知らないし花言葉なんてなおさら知らない。

 少し興味が出てきた事と聖子が熱心に語るのでもう少し聞くことにした

「私はニコニコしてて明るいし愛嬌あるからキショウブって感じじゃない?逆に慧悟は暗くて1人で生きて行きそうやからイチリンソウ」

「暗いはいらんやろ、まぁイチリンソウもでもええけどら、花言葉なんなん?」

「キショウブの花言葉はな、幸せを掴むとか信じる者の幸福やねんて」

「めっちゃ幸せそうやんほな俺のイチリンソウは?よく似た感じなん?」

「えーとなちょっと待ってな」

聖子はおもむろに携帯を取り出し検索し始めた。あ、こいつ自分の花の事しか見てないな。

「あったあったイチリンソウはな追憶と久遠の美やって」

「久遠の美はよくわからんけど、追憶って昔を懐かしむみたいな意味やんな?」

「いや知らんけど慧悟は昔懐かしいんちゃうん?真希の事とか」

「何で今あいつ出てくんねん、もうええわ肉焦げるからはよ食べよ」

食事が再開すると誕生花の話はどこかにいってしまった。途中ホルモンを頼んで七輪が火事のようになったが聖子は気にせずに食事を続けていた。

たらふく焼肉を食べてもまだ8時をまわったくらいだったが聖子はあまり酒を好まないので店を出てそのまま阪急の駅まで送って行くことにした。

「ほな、風邪ひかんように頑張ってね困ったらご飯持ってきたるな」

「いやだから大丈夫やって言うてるやろ、気を付けて帰れよ」

「慧悟こそ気を付けて寝ろよ」

聖子を送ってから僕はまた東通りに戻った、途中コンビニでビールと酎ハイのロング缶を3本買った。

明日は仕事だが、こんな早い時間には足音がうるさ過ぎて、素面では眠れない。

今日は細く人気の無い路地を寝床にしようと決めた、少し汚そうだったが静かそうなので文句も言ってられない。

買ってきた酒を飲みながらさっき話していた誕生花の事を思い出した。聞いたことも見たこともない花のことを少し調べてみようと思った。

 画像を検索してみるとキショウブという花は綺麗な黄色で優しく包み込んでくれるような印象だった。それに比べてイチリンソウは綺麗な白い色をしていたが独立して単体で咲いている画像が多かった。

画像を見て確かに自分はキショウブではなくイチリンソウだと思った。

寂しそうで、他の仲間であるであろう花から孤立している。

そんなことを考えているともう酒は最後の1本になっていた、これを飲んだら少し眠れそうな気がしたので一気に飲み干して道に横になった。











































































































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る