第8話
第一声に「慧悟、最近本間に家帰ってないん?なんかこけてるし、クマえぐいし、後めっちゃ酒臭いな」
いっきに自分が気にしている事をズバッと言ってくる、それがこいつのいいところでもある。
とりあえず腹も減ったし、タバコも吸いたいので店に入った。
適当に座り、今日のお勧めのカルボナーラとコーヒーのセットを頼んだ。
小洒落た店は大抵パスタ推しだ。
聖子は定員に麺を大盛りにできないかと交渉していたがプラス100円かかると言われて渋々それを承諾していた。
「慧悟、ホームレスしてんのに腹減ってないん?絶対ご飯食べた方がいいよ、ほっぺたこけてるもん」
「いや、飯はちゃんと食うてる、道で寝てたら人の歩く音うるさくてあんまり寝られへんねん、だからコケてんのかな?でもな、最近よく行く店ができたし、そこで飯も食うてるし、友達もできた」
「ホームレスの?」
「ちゃうよ、バーテンの亮太郎って人とリーマンの島さんて人」
「へーこんな小汚いやつと仲良くしてくれる人もおるんやな、心広い人らやな」
話していると思ったより早く料理が出てきた。
聖子は僕のパスタより量が多かったがほとんど同じくらいに食べ終わった。
食後のコーヒーを飲みながら、あまり話したくはないが、本題に入ろうと思った。
今日聖子を呼んだのもほとんどそれが目的だった。
「あのさ聖子、最近真希と連絡とったか?」
「あー3日くらい前に取ったよ」
聖子も今日はこの話だろうと思っていたのだろうが、少し話しにくそうだった。
「そうか、俺のことなんか言うてた?」
「うーん、本間に慧悟が出て行った時は流石に心配で、私のところ来てないかとか、探そうとかは言うてたけど、この前連絡した時はもう帰ってこんし引っ越し先も探して見つかりそうって言うてたよ。真希のことまだちょっと気になったりしてるん?」
真希とは専門学校の時から付き合っていて、卒業と共に同棲を始めた。
本当は同棲をするのは最初からよくない予感はしていたのだが、初任給が安かったため2人なら生活できると思い同棲にいたった。
真希は人当たりもよく、器用で、美容師に向いている女の子だった。
それに引き換え僕は、暗そうに見えて、とても不器用だった。
一緒に生活すると、余計にその能力の差が見えるようになってきた。
僕は皮肉を言うことが多くなり、喧嘩も増えた、それでも別れなかったのは家を失う事への恐怖と、どこかお互いに依存していたのだろう。
きっかけになったのは真希が僕の携帯を見たことから始まった。
地元の女の子の後輩が大阪に出てきたので是非会いたいと連絡してきた、それから何度かやり取りをして、真希には黙って何度か会っていた。
もちろん好意などないし出てきたてで寂しいのだろうと思っていた。
でも真希にはそうは映らなかったのだろう、浮気を疑われ問い詰められ、泣きじゃくられた、きっともう彼女もこの生活に限界だったんだと思った。
その夜僕は最低限の荷物を持って東通りまで歩いて行った。それから連絡もないし、こちらからもしていない。
「まだ、真希のこと気になってるん?ごめんて謝ってもう1回やり直しや」
正直、気になってないといえば嘘になる、聖子は嘘をつく時、瞬きが多くなる、ただでさえ大きい目だから余計に目立つ。
「お前、本間は無理ってしってるんやろ?真希からもう嫌やって連絡きてるやろ?」
聖子を問い詰めた訳ではなかったのに少し口調が荒っぽくなってしまった。聖子が僕のことを気遣って、ついてくれた優しい嘘を僕は正面から踏み潰してしまった。
「うん、そやな。まぁー真希はもう戻る気無いって言ってたよ、浮気もするし、怒って勝手に出て行くような男もういらんて、真希は可愛いからすぐにまた、彼氏できるやろし
多分仕事も上手くやっていける。私が心配なんはあんたよ。愛想悪いし、昔から不器用やし、今や家もないやん。都島の家引き払わんと1人でも住んだらええやん?絶対に帰る家はいるで」
「いや、2人で家賃割ってようやく住めてた家やのに1人で何か絶対無理よ。破産する」
「それやったら、あんた家探したりしいや、いつまでも道で寝てたら本間にホームレスなって抜け出せんくなるで」
いつの間にか2人でヒートアップして声が大きくなっていた。周りの客にチラチラと見られ始めた、きっとカップルの痴話喧嘩だと思われているのかもしれない。
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