第7話
美容室で働いているとお客さんの来店回数は年に5〜6回程度だ、その中で仲良くなる人もいるが、ご飯に行ったり、遊びに行ったりする人は誰もいない、結局その境界線はなかなか超えることができないのかもしれない。
だらだらと話しているともう朝の5時を回っていた、酒を飲んでいると時間の感覚がおかしくなる。僕はゆっくりと帰る支度を始め、その間に朝からこの店で働くスタッフが入ってきた、本当にこのお店は眠らないのだなと感じた。
「ほな帰ろかお前今日どこで寝るんや?」
「今日は天気良さそうですから、奥の広い駐輪場で寝ますわ、待ち合わせも茶屋町なんで近いですし」
「そおかー、あの辺ゲイとかおるから襲われんように気をつけろよ、ほなまた火曜日に会おうか」
「いやなんで最後ちょっとビビらすんですか、朝から襲われんでしょ」
「せやな、おやすみー」
あっけらかんとして亮太郎は駅の方角に歩いて行った。
僕はもう千鳥足で倒れるように駐輪場に横になりいつものように鞄を枕にして眠った。
何時間寝ていたのだろうかバタバタ、カツカツという足音が聞こえてきた。
昼の人間の活動が活発になってきたのだろうか、頭が凄く痛いのでもう少し眠りたかったが足音がうるさくて無理そうだった。
携帯を見ると昼になろうとする12時前だった、待ち合わせは1時なのでまだ余裕がある。
自分は今どんな顔をして目覚めたのだろう、何となく体は酒臭い。
そんなことを考えているときにハッとした。
いつもは店で顔を洗い、歯を磨き、髪の毛をセットする、しかしこの駐輪場にはなにもない。
今から店に戻ってもいいがそれでは間に合わない。
何も考えていなかった、当たり前と言う考え方は今の僕の生活には存在しないのだ。
残り1時間弱で身支度を済まさなければいけない。時間の余裕はあるようで無かった。
とりあえず近くのコンビニでトイレを借りた。
この街を徘徊してトイレを貸してくれるコンビニはもう頭に入っていた。
鏡を見ると顔はむくみ髪はボサボサだったここで歯を磨こうかと思ったが怒られそうだったので水だけ買ってすぐに出て行った。
色々と考えているともう15分ほど経っていた、どうしたものかと考えていると、きっと人としては最底辺の行為だが1つだけ今の状況を打破できる考えを思いついた。
待ち合わせ場所の茶屋町にはLOFTという大体のものが揃う場所がある。
何度か行ったことがあるがトイレも沢山あり、確か2階に美容コーナーがある。
そこで歯を磨き髪の毛をセットすればいい。
最悪の行為だかもうそれしか無かった。他のものには目も触れずに真っ直ぐにLOFTに足が向かった。
12時30分頃LOFTに到着した。まずは歯を磨きたかった。とりあえず人気の無いトイレを探さなければならない、月曜日の昼間だというのに茶屋町には人が多かった。
考えた結果最上階のヴィレッジバンガードの奥のトイレが人目につきにくいと判断した。
たまにこのトイレを使ったときにほとんど人に会ったことがないからだ。これこそまさに隠れ家的トイレ、案の定そこには誰もいなく、顔も洗いしっかりと歯を磨けた、次は2階まで降りて行き美容コーナーに向かう。
探し物がなかなか見つからないという雰囲気を出しながら目当てのものは決まっている、ここにはいつも使っているワックスが置いてある、しかもテスターが置いてあるのでそれを手に取り3階の男子トイレでしっかりとセットする。もの凄く罪悪感があったが、今はこれが最善だと言い聞かせてLOFTを後にした。
時間は12時50分、余裕の10分前行動だ。
待ち合わせ場所は茶屋町のワイヤードカフェ
、携帯の充電も出来るして、何より喫煙可の店なので僕はよくここを使う。
ワイヤードの下に行くと聖子はもう待っていた。聖子とは専門の同級生でたまたま誕生日が同じで席も近かったので卒業してからも連絡を取り合っている。
この子にだけは現状を話し、理解してもらっている。
会うのは3ヶ月ぶりくらいだった。
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