第6話
「まぁええわ、自分金持ってるん?」
「えっ?はい、持ってますよ。食い逃げなんてしませんて」
「いや、そうじゃなくて、この店というかこの街はな金があって酒頼み続けれたら、大体いつまでも店おってええねん、どうせ仕事終わって行くとこないんやろ?いつでもここ来たらええし、本間に眠なって寝るってなったらその時に外でて行って寝たらええねん。
それで自分も店もwinwinやろ?」
確かにこの3日間は街をうろうろしながら、ぼーっと人間を観察していた。
人の活動が収まるまで自分は寝ていなかった。こんな身を隠せる場所が出来たことは僕にとって幸いだった。
「それやったら明日もここ来てもいいですか?もう今日は眠たくなってきたんで出て行きます」
時計はもう夜中の3時を回っていた、ちょうどいつも眠りだす時間だった。
「ええで、ほなまぁ明日もやな、俺だいたい店おるから、来たい時に来たらええわ。ほなおきにー」
僕は初めて「おおきに」と言う関西弁を使う人を目の当たりににして変な感じがしておかしかった。
今日の寝床は大きな駐輪場の隅っこで寝ることにした。よく眠れそうだった、友達とまではいっていないが、大人になってから交友関係を、築けた事が嬉しかった。
それからは仕事場と亮太郎の店を行き来する生活になった。
次の日には、もう島さんは僕はがホームレスだということを知っていた。
「お前話す時関西弁ちゃうんか?もう何年か大阪おるんやろ?」島さんに尋ねられた。
「友達といる時は関西弁ですよ、でも年上の人といる時は敬語になるんであんまりでませんね」
「ほな、まだ仲良くないんやなーまだ2日目やしな、ほなお前がいけると思ったらいつでもええから関西弁で来い」
「ありがとうございます、でもまだ先ですかねー」
「てかお前ハイライト吸うてるやん、昔のおっさんみたいやな、それようおっさん吸うてたんよ昔」
話は一瞬で煙草に変わり。島さんが酔ってきたのがわかった。同じことを繰り返している。今日は、僕が道で寝ている話をあてに酒を飲もうと言っていた。
僕は本当は酒が好きではなかった、たまに職場や友達と飲むくらいで、そんなに酒に免疫はなかった。でもこの街で生活するからには飲み続けなければならなかった。
変な覚悟だが毎日飲酒するという固い決意を胸の底に秘めていた。
道で眠るようになって、初めての休みがやってくる。
美容師にとって日曜日は一般的に言う華金だ、営業が終わるとそそくさとみんな帰って行く。そのほうが好都合で僕はこれから入浴と洗濯をしなくてはいけない。
皆んなが帰った後に僕は頭を洗い体を洗う、明日は店に来ないので、一応いつもより入念に洗っておいた。
もう何度も繰り返しているので、床が濡れても慌てなくなった。
乾燥機に服を入れて仕上がるまで待っていると、いつもと店を出る時間はあまりかわらなかった。
来週はもっと効率よく身支度をしないといけない、などと考えている自分が少し怖かった。
いつまで道で眠るのだろう、特に道で眠ることに誇りを持っているわけではないし、今自分が置かれている状況が不遇でそれに酔っているのかもしれない。
そんなことを考えていたらもう11時を回っていた、またいつものように環状線に乗り東通りに向かう。
亮太郎の店に行くといつもの席に通され、ビールを頼んだ、もうすでに亮太郎と島さんは出来上がっていた。
日曜の夜なのでいつもより人は少なく感じた、みんな明日から始まる仕事で憂鬱そうな顔をしているように思えた。
「亮太郎さん、何か一杯飲みますか?」
バーなどに行くと店主に何か飲みますかと聞くのが暗黙のルールらしい。
それで初めて行く店でもこいつ慣れてるなと舐められなくなると島さんから教えてもらった。それから1杯目を頼むときには、亮太郎にも飲むか尋ねるようにしている。
「あー、慧悟、今日はもうええわ、ありがとう。前半から飛ばしすぎてんねん、ちょっと休まして」
「今日忙しかったんですか?」
「日曜は客の入りも早いし、出て行くんも早いねん、やから俺も今日入り早かってん」
きっとこの店には僕と島さん以外にもこの人を目当てにくる客は多いのだろう。
僕の知らない早い時間や、酔って眠っている朝方など、きっといろんな人を相手にしているはずだ。
「慧悟さー、明日休み?月曜日やんなー?俺明日から仕事、地獄や」
だらだらと島さんが話しかけてきた、いつもより呂律が回っていないので結構酔っているようだった。
「亮太郎も明日休みやろ?それやったら2人で朝まで飲んだらええやん俺もうちょっとしたら帰るわ」
島さんは帰ると言ってからが長い。きっと今日も2時くらいまでは付き合ってくれる。
そんなことより亮太郎は明日休みなのか?
毎日いるからそんな考えは薄くなっていたが、休みのない人間など、社会に存在しない。
この人にももちろん休みはある、そしたら僕は明日どこで時間はを潰せばいいのだろう?
この4日間通い続け、仲良くなったのは亮太郎と島さんだけだった。
おそらく亮太郎がいないと島さんもいないだろう。急に孤独になった気がした、でも1日我慢すればなんとかなるとその時はあまり考えないようにしていた。
夜中の2時を回ったころ島さんは帰っていった。予想通りだった。
亮太郎は朝の5時まで仕事なので初めて最後まで一緒に飲もうと持ち掛けてきた。
そう言われて嬉しかったので後3時間ほど一緒に酒を飲むことにした。
「慧悟、お前明日なんか予定あるんか?」
「明日は昼過ぎに専門の友達に会いに行きますよ、ちゃんと起きれるか心配ですわ」
「なんや自分友達おるやん、家見つかるまでその子の家泊まらしてもろたらええやん」
「いや、でもその子女の子ですし、確かお姉ちゃんと住んでるんですよ。急にこんなん来たら家庭乱れるでしょ?」
「女かーしかも姉ちゃんおんのか、どっちかと付き合って転がり込みや?」
「あー、それはないですね友達なんでそうゆうので友達失うの嫌なんですよね」
「いや、それもう別れる前提で話進んでるやん、まぁまだ若いからそうなるんやろうけどな、でも俺思うんやけど、男女の友情ってあると思う?俺絶対無理やと思うねん、絶対にどっちかに好意がないとそんな休みの日に会ったりせんくない?」
「うーん、僕も男女間の友情は無いと思いますよ、大体男がやましい気持ちで近づいて、一発やってすぐ終わりでしょ?だから基本的には成立しないと思います。でも明日会う子はそうゆう感じじゃなくて、いい相談役というかほんまに男女の友情を成立さしてくれる子なんですよ」
「お前が人のことそうゆう風に言うの初めてやな、まぁ会って4日目やしな、当たり前か、そんだけええ友達やったら、今度店連れて来いや、俺もお前の友達見てみたいわ」
ずいぶん前から知っているようだがまだ4日この人との時間は経過していないのだなと改めて時間の感覚がおかしいことに気がついた。
こちらも向こうもそんな深い話はまだしていない、僕の秘密は話たが、まだ定員と客という境界線を越えてはいないのだろう。
寂しかったが、これが普通だと僕は知っている。
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