第4話
今の生活に飽き飽きしていたのかもしれない、毎日の繰り返し、この閉鎖された宗教染みたルール、そして極めつけはここ最近帰る家がない、いつかこの閉鎖された店のドアを自分の心を、誰かが開けてくれて自分を連れ出してくれる。
そんなことを毎日考えながら自分からは行動に移さない、情けない自分がいた。
この人なら自分を救い出してくれるかもしれない。
今日の夜、東通りのあの男の店にいってみよう、何か変わるかもしれないし変わらないかもしれない。
でも今自分の中でやっと一歩踏み出せた、扉が開いたような感覚だけが残った。
その日の営業は失礼だがあまり身が入らなかった。今日の夜、絶対にあの男の店に行こう。そればかり考えほとんどのお客さんとの会話はなかった。
営業後、後輩の日野のレッスンを見てから自分もレッスンして帰ると言う名目で1番最後まで店に残った。
日野が「明日も早くきますか?」と聞いてきて嫌な予感がした。
あのしょうもない店長の言葉を真に受けてしまったのか。
「明日も早く来ると思うけど、夜見てあげるからゆっくり寝とき」
「でも前田さん帰るの遅くなりません?なんかそれ申し訳なくて」
「いや全然大丈夫やで、人に教えたら自分の勉強にもなるし」
嘘をついた。
「そうですか、じゃあ明日の夜にまたお願いします」
この子は本当に素直で、仕事も任せられるいい子だ。後輩の意欲を潰してしまうのは心苦しかったが、今の生活を誰にもばれたくないその一心だった。
11時頃に店を出て行く。僕は1番最初に店に来て1番最後に店を出る。
殆どここが自分の家のようなものだった。
でもここで眠ることはないだろうと思った。
今日も大阪駅で降りて東通りに向かう。
いつもはどこに行くわけでもなく、ただ夜の街を徘徊していた。今日はしっかりと目的がある、あの男の店に行ってみよう。
もしいなかったらすぐに帰ろうと思ったが、店に入る前からその男の存在に気付いた。
大きな笑い声、大きなシルエット、間違いない。
店の名前はMANZANA、カウンターが多いダイニングバーだった。
店の前に立っていると若い女の子に声を掛けられ店内に案内されカウンターに座った。
「ご注文はどうしますか?」
「とりあえず生で」
こうゆうときはとりあえず生でいい、店でファーストドリンクをもたつく奴は大抵おもんないと聞いたことがある。
ドリンクを待っている間店の中を見渡す、意外と若くておしゃれな若者が働いていて、店内も小洒落ていた。
あの大きな男は僕には全然気づいていない、常連客と大笑いしている。おそらくもう酒が回りいい気分そうだった。
その話している客は今日の朝かの男と一緒にいた男だった。
そんなに毎日来るものなのか?
それともこの大男に魅力があるのか?
それは今は定かではない。
頼んだビールがやってきて、食べ物のオーダーを聞かれた。周りばかり見ていてメニューなど全く見ていなかった。
とりあえずお勧めのものを聞いてそれを頼んだ。今日はキノコの和風パスタだった。
厨房にははっきりと中までは見えなかったが、あまり広くないような感じがした。
細くて背の高いチャラそうな男と、小太りの男が2人で料理を作っていた。
料理は思ったより早く出てきて手際の良さが伺えた。
ビールを飲み終えて、2杯目を頼もうとしたときに、大声で笑っていた常連客らしき人物が僕に気づいた。
「あれ?お兄ちゃん、今朝ここ通ってたやんな?本間にきたん?声かけてみるもんやな亮太郎」
この時メガネの大きな男の名前が亮太郎というのがわかった。
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