新しい日常

@milk323さん、@zinya5さん、素敵なレビューありがとうございます!


まだ種まきの段階です。もう少しお付き合いください。

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 二学年。新たな生活が始まり数日。どこか浮ついていた雰囲気も落ち着き、最初はバラバラであった人の塊もある程度の定型を完成させていた。まだ、これからも少しずつ変わるのだろうが。


 そんな中、一際目立つ集団が一つ。


「ねね、今日の数学の課題やった?」

「はい。範囲はやってありますよ」

「……今日、だったの?数学……」


 数秒前までのひまわりの様な笑顔から一転、彼女は愕然とする。それを苦笑し鞄に手を伸ばす少女。


「天音ちゃん。これ、見ますか?」

「いいの!?」

「はい、いいですよ」


 ぱぁあ、と華やぐ彼女を見て深月もつられて笑みを浮かべる。そして、もう一人はというと


「あの、ですね。私も見せてほしいなぁーって」


 とても言いづらそうに自分もだと告白する。こういう時、何故か2番目は1番目よりも言いづらいのだ。


「いいですよ。減るものじゃないですから」

「ありがとう!まじ感謝だよ!今度何か奢るね」


 今回、というかほぼ毎度見せてもらっているお礼。それを陽奈はしっかりと約束し、もう一人は今それに気づき慌てる。


「あ、私も!あ、でも一緒だと被っちゃうし……」


 何やら彼女の中ではお礼とは被ってはいけない物らしい。


「そうだ!今度クッキーとか作ってくるね!」

「そこまでしなくて良いですよ。飲み物を奢ってくれるくらいで充分です」

「そう?じゃあそうするね!」


 そして浮かべる愛嬌のある笑顔。しかも打算なしの天然物である。更に言えば他二人も掛け値なしの美人。それ故、女三人寄れば姦しいとはいうが、この三人が集まると別の意味で目立ってしまう。

 それを少し離れたところから見ながら二人は実感していた。そして、その二人は――


「いやー目立ってるねー。三人とも」

「そのうち一人はお前に夢中だけどな」

「なら、あと二人は誠也だねー」

「ははっ、笑える」

「笑えないですぅ。俺、ここまで見事にハブられたの初めてなんだけど?」

「去年は俺と、如月でうまく埋もれてたからな。今年はあの色男がいないせいで浮上したんだよ」


 ――見事に孤立していた。

 別にあからさまにやられているわけではないが、話しかけても会話が弾まないのだ。明らかにこちらに含むものがあり、自分との会話を楽しんでいない。だから弾まない。それ故こちら側も楽しくなくただ疲れるだけ。結局輪を広げることは諦め古巣に戻ればお互いに収穫はなく二人きり。そういうことである。


「それじゃあ、今年は誠也と二人きりかー」

「サッカー部が一人もいなかった事を恨むんだな。あと、バスケ部比率の高さ」

「そう、それだよ!このクラス分け明らかに悪意ない!?」

「そもそも2年の部員5人だろ。お前入れて」

「いやまぁそうなんだけどさぁ、そこら辺は配慮してくれないかなーって思ってたわけよ」


 誠也たちの代は、ちょうどジャン◯とかいう雑誌でバスケ漫画が流行った世代。あと、純粋にここのバスケ部が強かったということも相まって、他運動部は不作なのだ。悲しいことに。


「ほら、そろそろ席戻れ。そんで数学の勉強しろ。課題&小テストだぞ。今日は」

「……誠也さん。課題見せてください」

「………ほらよ」


 よく血のつながりはなくとも飼い主とペットは似る、なんてこと聞くがそれは彼氏彼女でも一緒なのかもしれない。まぁ、もしかしたら逆なのかもしれないが。そう溜め息吐きながら誠也は思った。


     ⁂


「このテスト、平常点入るからな」


 その言葉にクラスが固まった。


 教室の温度を下げおったジャイアントインパクトもとい、サッカー部顧問冴島が立ち去ると同時に広がる阿鼻叫喚。

 学年初めの小テスト。しかも範囲は去年の復習。これらの要素で、課題は気にしていても小テストについては完全に油断していた面々は想定以上に容赦のない敵を前に粉砕されていた。

 そして、そこにやってくるは――


「せいや゛ぁ゛……俺は、もう、死んだかもしれない」

「安心しろ。骨は拾ってやる」


 ――そも、課題すらやっていなかった男である。もう、メンタルはボロボロ。尋常な様子ではない。何故なら


「……骨すら残らなかった」

「おい、まさか……」

「円って、綺麗だよな。はは……」


 ぶっちぎりのビリであったから。この男、春休みに全てを置いてきたらしい。


「まぁ、元気出せよ。小テストはあと2回あるらしいし、そっちで挽回すればいい。俺も教えるから」

「か、神よ」


 まるでキリストと盲人。聖画の様な光景は他所でも――


「深月、私、ダメだった。赤点だよ」

「まぁるく、一筆書きだった」

「……今度、勉強会、しましょうか」


 喜べ一颯よ。ぶっちぎりではなかった。ここに同士がもう一人存在したのだ。


 そして取り敢えずどこを間違ったのか見せろ、と言われ一颯が席に戻った隙を見逃さず一人の女子がやって来る。


和泉誠也君ここ、教えてくれないかな」

「いいよ。神園さん。……えーと、ここはね」


 いつもの口の悪さは身を隠し、人当たりのいい柔らかい声を出す誠也。

 この好青年バージョンである時は何故か一颯は近くに寄ってこない。いや、そも寄ってこれない。何故なら、巻き込まれたくないから。


「あ、じゃあ私も!」

「私、点数やばかったんだぁ」


 増える。増える。最初は一人だったのに今は五人。数で見るとそうでもないが、現実では机をぐるりと囲まれる数である。そう考えるとかなり凄い。


「チッ」「チッ」「チッ」「チィッ!」


 そして男子たちからの視線も凄い。ただ、忙しいから誠也はそれに気づけない。


(なんだ?去年より人数が多い気が……今年からの奴は来てないのに、なんで増えてるんだ?)


 理由は一つ。先ほど誠弥が言った通り。如月という色男がいなくなったから。一颯が浮上したのなら、元々高くにいた誠也が更に浮上するのは当然のこと。今までそれにきずかなかったのは側に一颯か深月がいたから。そして、これは更に増えるだろう。今、来ているのは去年同じクラスであった人だけなのだから。


(早急に一颯を鍛える。そんで人身御供になってもらおう。うん。そうしよう)


 経験から、このままでは不味いと判断した誠也は静かに覚悟を決め、外で笑っていた一颯は悪寒を感じるのだった。

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