藤沢の性別を女から男へ変更しました。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「人の役に立ちたくて入部を希望しました!天城天音です!」


(これは夢か……きっと夢だ。夢に違いない)


 今目の前で元気一杯に自己紹介をする天城を見て誠也は軽い目眩に襲われた。


「誠也君とは同じクラスです」

「ほう。なら分からないことがあればこの二人に聞くといい。俺より聞きやすいだろうからな」

「わかった、、分かりました!」

「ふむ、無理に敬語を使わないでも構わないぞ」

「……!ありがとう!」


(見えたぞ。クラスの独り身連中から何となく近づくなオーラを出されてそのままハブられる未来が。……はは、胃が痛い)


 もはや隠すこともなく引き攣った笑みを浮かべる誠也を他所に天城を連れてきた悪魔、もとい藤沢先生が口を開く。


「これで廃部は免れ、純粋な部員まで手に入った……うん。僕は運がいいな」

「なんですか、純粋な部員って」

「ん?だって君たちは別にボランティアが好きでここに入ったわけじゃないだろー?」


 ボランティア部。その名の通りボランティア活動を旨とするこの部が誠也達の部活動である。


「確かに俺は調査書に書けるからっていう理由で入りましたけど」

「俺は人が少ないからだな。あまり部員が多いとサプライズの難易度が跳ね上がる」

「不純極まりないじゃん。しかも他二人に限っては同じ理由で不純だし」

「「先生?」」


 男子二人がやぐされ気味に言い、藤沢先生は女子二人の威圧を受け、なんでもないと目を伏せ首を振る。そのすがたを見て、侵入部員こと天城は一言“いいなぁ”と呟いた。


「?今天城さんいいなぁって言った?」

「あ、うん。みんな仲良くて、楽しそうだなって思ったから」

「うむ。ここの部員はとても仲がいいぞ。よく俺は蚊帳の外になるがな!」

「それは長谷川君のせいだから」

「「その通り(です)」」

「ぬぅぅぅ」


 誠也達の一連のやり取りを見て更に明るく笑みを浮かべた天城は「私ここが気に入りました」と、言った。

 それを聞いた藤沢はコクリと頷いた後、開手を打ち誠弥達の注目を集めた。


「天城さんへの活動内容の説明とかはよろしく。部長。副部長は僕と一緒に来るように。大まかな活動予定を伝えるからさー」

「わかりました。誠也後は頼んだぞ」

「よろしくね。誠也君」

「了解です」


 そう言って三人が出て行き、部室には誠弥たち三人が残った。

 さてはてどう話しかけようか、と誠弥が考えていると先にこの気まずい空気を打ち破ってくれる人が現れる。


「深月ちゃん、だよね?私天城天音っていうの!天音って呼んで!」

「私は月城深月です。よろしくお願いします。天音ちゃん」

「深月ちゃん、こちらこそよろしく!」


 一瞬にしてちゃん呼びに昇格。恐るべし鋼のメンタル。そしてコミュ力。これが陽キャ女子である。


「誠也君もよろしく!」

「こちらこそよろしく、天城さん」


 そう言って握手を交わし、誠弥は完璧な笑みを見せる。が


「席も近くで部活も一緒なんて、私たち縁があるね!」

「う、うん。そうだね」


 嫌な予感がして一瞬それが崩れかけた。


 結局その日は大したこともなく活動内容を説明しただけで終わった、のだが――


 翌日、ホームルームにて。


「じゃ、体育係は天城さんと和泉くんで決まりで。あー、あと体育祭実行委員も兼任してもらうから、よろしくー」


 ――誠也の笑みが凍った。


 ⁂


「俺は、呪われてんのか……?」

「縁だよ縁。何色かは知らんけど繋がってんだよ。きっと」

「男子達の殺気の篭った視線、本当に面白かったー」


 放課後、項垂れる誠也に二人の友が追撃を仕掛けていた。


(何故……じゃんけんで負けた末に体育係になって、体育祭実行委員まで請け負わされ、更に天城が一緒なんだ。……つーか普通実行委員は立候補制だろ。藤沢のやつ面倒くさくて短縮したな)


「でも、そんなに悪いことでもないと思いますよ?」

「いや、ね?天城さんが悪い子じゃないのは分かってるんだよ」


 悪い子どころか素直な、純粋な子なのは昨日少し話しただけで分かった。


「でもさ、明らかにデメリットの比重が大き過ぎるんだ。あの容姿のせいで」

「毎年の事だけど、既に男子の敵になってるもんねー」


 にやにやと他人事だからと完全に揶揄う体制でいた一颯。そこに深月が鋭い刃を突き立てる。


「先ほど一颯さんもその一人になっていましたが?」

「え゛!?」

「クク、ようこそこちら側へ。歓迎するよ一颯くん?」


 それを聞いた誠也は、満面の笑みで仲間ボッチを歓迎する。その心は闇である。


「やだよ!?というかなんで俺までそっち認定になってるの?俺は陽奈一筋だっていうのに」

「このクラスバスケ部が多いですから」

「あー、そういえば見たことがある顔がちらほら?あるかも」

「うそぉ」


 陽奈は今でこそサッカー部のマネージャーをやっているが、去年一定の期間バスケ部にいたのだ。

 そしていうまでもなく陽奈は美人の部類かつ、男子にも優しい女子、という存在であったので……まぁ、そういうことである。


「いやぁ、ふっ一颯も災難、ククっ、だったなぁ」

「ねぇ慰める気ゼロでしょ。もう喜びがひしひしと感じるよ?」

「そ、そんなわけないじゃないか。……プクク」

「よし、表出ろ。サッカーでボコボコにしやんよ」

「いーやーでーす。深月、先帰るわ!」


 誠也の煽りに青筋立てた一颯は、スタコラサッサと逃げ出した誠也を追って教室を飛び出したのだった。


 そして二人は男どもに置いていかれ


「あ、深月ちゃん!」


 三人になった。

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