第4話
数週間後の金曜日、事務所を退勤しようとした時一本の電話がかかってきた。相手は福部だった。何かあったのかと尋ねると私にこれから会いたいと言ってきた。家にはナツトが待っているがママの所に行くことにしようと考えて彼に伝えると承諾をしてくれた。
一度電話を切り、折り返しナツトにかけて帰りが遅くなると告げると何の
「この間も会ったばかりなのに呼び出してすみません」
「いや、構わない。ママ、ビールをもらえるかな?」
「ええ。今用意するわ」
「福部さん夕飯はまだかい?」
「はい、このつまみで腹を満たしている感じです」
「そうか……ママ、先に彼と夕飯食べに行く。その後またここに戻るよ。そうしてもいいかな?」
「いいわよ。いってらっしゃい」
一度店を出て近くの中華飯店に入り食事を摂った。再び店に戻り彼と飲み直しをすることにしてウィスキーロックを頼んだ。ママは私達の会話の様子を見て既に仲の良い友人の様になったみたいだと話していた。
やがて他の客も店内に入ってきて賑やかな雰囲気になり始めてきた。彼は酒を飲む勢いが早いのか、濃いめのハイボールを頼みだした。
「働いている所じゃあんまり飲めないから、たまにはこうして楽しむように貴方と交わしたい」
「この子ね、前の店に居た時にリクって呼ばれていたの。だからジュートもそう呼んでくれない?」
「ああ。……じゃあリク。そうだな、改めて何に乾杯しようか……」
「銀座で会ったときに言い忘れていたんだけど、ローズバインで客人として来ていたこともあったんだ。だからミキトさんやナツトさんのことも知っている。勿論貴方にも……」
「そうだったのか。それを早くいって欲しかったな。じゃあ、久々の再会に乾杯をしよう」
私と福部改めリク、ママとグラスを持ち乾杯をして、会話はローズバインの頃に居た時の話題になった。当時私が休暇を取っていた時にリクはママと出会い、よくカウンター席で二人で会話に花が咲いていたと懐かしんでいた。
「僕もジュートさんと似たような感じだ。初めて店で働き始めたころは何が何だか分からなくて手探りで客の相手をしていたよ。」
「俺らの場合、特定の客人しか相手にできないから、本当に理解してくれる人にしかわからない世界だしな。」
「それでも何を言われようとも僕らは生きなきゃいけない。戦争なんて当の昔に過ぎ去ったことだが、また次の世代で新兵器が開発されて新たな争い事が起きてはこの世界は死んだようなものだ」
「リク、口が悪くなってきているわよ。そろそろグラスを下ろしたら?」
「そうだな……ジュートさん、この後どうします?」
「俺は帰るよ。ナツトが待っているし」
「もう一軒行きません?知っている店があるんです」
「まあ明日は休みだしな。ここから近いのか?」
「僕の自宅の近くです。目黒なんですが折角なんで行きましょうよ」
時計を見てみるとまだ二十二時前だ。少しくらいなら良いと思い彼に連れて行ってくれと告げると酔い覚ましに烏龍茶を飲んで、ママにまた店に顔を出しに来ると伝えると彼女は微笑んでくれた。
三十分後目黒駅の改札口を抜けると人通りの少ない路地に入り、二階建ての一軒家のような場所に着いた。
リクはここだと告げてドアを開けると小洒落た内装のカウンターが目に入り、奥の席に着くと店主が彼に声をかけてきた。博多の食材を使った小料理屋で彼は自宅が近いこともあって時々一人で店に立ち寄ることもあるという。
手始めにビールを頼み幾つか惣菜も出してきてくれたところで、リクからナツトとの馴れ初めを聞かれた。私はゆっくりと思い出しながら、懐かしむように語っていくと彼もこちらに馴染むように聞き入っていた。
自分には片思いしていた男性は居たが恋人ができたことがないので私達の仲の良さは羨ましいと話していた。現実の様に兄弟が喧嘩する様な事もしばしあると告げると忍び笑いのように口に手を当てて笑っていた。
そうしていると終電の時間になろうしていたので、先に帰ると伝えて席を立つと彼は私の手首を掴んできた。
「もう少し、居て下さい」
彼の目は何かを訴えてくるような真剣な視線をこちらに送ってきていた。
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