第2話:ルーシェンテ嬢との忘れ得ぬ邂逅

「はあぁ....相変わらず神出鬼没な父上で困るよなぁ....」

「お気持ちは分かりますが、あまり溜息ばかりついていても仕方がありませんよ、坊ちゃま。お幸せが逃げていきますので」

「う~ん..。それもそっか。.....でもな、この如何にも扱いにくそうなモノを持たされてもなぁ...」


言うや否や、俺は【異空間収納魔術(レーヴァンテス)】を発動して、魔法陣から一本の細長い紅色の杖を取り出した。


「ほら、お前も出してみて」

「承知しました」


俺の提案に対して彼女もうんと頷いて、同じくレーヴァンテスを発動して俺と同様になにかを取り出した。

けど、俺と違って出てきたのは杖ではなく、真っ白くて清潔感溢れるキラキラとした一本の小さな斧なのである。柄の中心には透明な小型な宝石があり、その上には純真無垢な子供が破顔したような顔っぽい彫刻がある。


「これですね、なんか可愛そうなデザインをしてますね」

「可愛いとかいっても、【魔核獣(ルナス)】と戦うために作られた武器なんだぞ?戦場で実戦用に使われることもあり戦争で人を殺すような兵器でもある魔戦兵器【(マーギッシュ=ベヴァフヌング)】をそう気軽に評価するのはどうかと思うけど....」

「...ん。そうでしたね、失礼しました、坊ちゃま。不謹慎な発言を申し上げてしまい申し訳ありませんでした」


登校中の俺達は喋りながらち父上が俺達に手渡してくれた二つの【魔戦兵器(マーギッシュ=ベヴァフヌング)】について話し合っていたが、やっぱりこれらは扱いにくいったらないよな。


だって、これらが放っている【魔光気(マーギッシュ=エールロィテトル・オーラ)】の密度が明らかに桁外れなぐらい俺達には強力しすぎてるし。


その所為で、俺もキャロラインも柄を握っている手がこんなにもガタガタ震えていて、そしてチクチクとした電気に充てられているような細かい痛みが指先だけに集中していて大変なのだ。取り落としてしまわないように出来るのも身体に流れる俺と彼女の【魔気流(マーギッシャー=ルフトストロム)】が並みのものではないからだ。


「それにしても、これらを【聖大会(ハイーリグス=トールニエール)】が始まる初日までに使いこなせるんだろうか、俺達....」

「まあ、なるようにしかなりませんから、ご心配ばかりせずにまずは私達が精いっぱい訓練して、それまでに粉骨砕身のように努力して特訓を怠らないようにすれば良いかと..」

「...うん、そうだね、キャロライン。お前の言う通りだ」


にっこりと彼女が微笑んでそう安心させてくれたので、なんか心のモヤモヤ感や不安が軽くなっているようだ。やっぱり持つべきは気の利く従者だな。ただの普通のメイドじゃこうして主人の不安に対して機敏で的確なアドバイスが出来ないはず。


「まあ、【ハイーリグス=トールニエール】までにとは言わずとも、まずは放課後の【あれ】を最後まで遂行出来るかどうか、対策を考えるのが賢明かとー」

「やっほー!アデワラー先輩!キャロライン先輩!」


俺達の会話を遮るように、いきなり活発で元気な声が響いてくる。俺達の歩いているここの石畳の道の真正面へと視線を移したら、案の定、アリシアがいる。キャロラインと同じく、金髪をしている女の子なんだが髪型をツインテールにして白い制服も相まって可愛い印象と外見がありながらもなんかキャロラインよりボーイッシュな雰囲気が感じ取れる。


目を細めながら満面の笑みを浮かべている様子だがやっぱり一週間ぶりに再会できたのが嬉しそうみたいだね。


「やあー。思ったより遅いんだね、アデワラーにキャロラインさん」

続いて、半歩後ろから彼女の隣で歩いてくるのはまたも金髪をしている人なんだけど、今度は顔の整った容姿端麗な少年で女の子じゃない。


「アンドルー!登校中なのに待っていてくれたんだね!俺達のことを!」

「もっちですよ~!だって先輩たちが学園までに着くのを待ってられませんからね!そうですよね、兄様?」

「ええ。【あれ】について作戦を立てたいからね。道中で詳しく話し合うことがしにくくても大雑把なものでなら、って思って合流したいしね」


実にアンドルーとアリシアらしい思考だな、せっかちなところは。何かやるべきことがあったらすぐに落ち着かずに早く取り組みたい派なのだ。それにしても、グデム系の俺に友人が金髪碧眼な【北方者(ノールデナ)】ばかりなのもどうかと思うけど...。でもしょうがないよな。この帝都へと移住してくるような肝の座ったグデム系は限られてくるし、出会う機会が殆どないわな。別に俺が自分と同じルーツを持った人と意図的に仲良くなりたくないという訳でもなく、単なる成りゆきだけなんだぞ?


「それに、それに~~!一刻も早く先輩達のうっかりなラブラブ場面に遭遇しないかなって期待を持って会っておきたいってのもありますよ~~!にしし!」

得意顔みたいに人差し指を上へと向けながらニコッと白い歯を見せてウインクしてくるアリシアがそうからかってきた。


またそれか!

いつものことだけど、俺達はただの主人とメイドでお前の思ってるような特別な関係じゃないからな!


「あのな、アリシア。俺達はそんなにー」

「ただのご主人様とメイドの立場に御座いますよ、アリシアお嬢様。お嬢様が仰っていたようなご関係では決して御座いませんのでどうかご理解下さいませ」

俺達が言い終わる前に、丁寧な口調で以ってそう言ったキャロラインは恭しくスカートの裾を持ちながらお辞儀をして、アリシアに対してありのままの事実を説いているようだ。ちなみに、二人っきりの時はキャロラインに自分のことをただの『アデワラー様』と呼んでもらうだけでもいいと言ったけど、他の人がいる公共の場では普通に御主人様でいいと言いつけてある。


「なにそれー?ぶぶ~!また誤魔化すきですかキャロライン先輩!?」

「誤魔化すも何も。ただ事実を申し上げただけで御座いますよ?ですから、どうかそのお考え自体、これからもお捨てになられたら幸いかと存じます」

有無を言わさぬような気迫で笑いそうで笑ってないような目をアリシアに向けている様子。当然、音もなく着々と彼女のいる位置までゆっくりと歩みを進ませながらで。


「うぅぅ......わ、分かりましたよ、キャロライン先輩....。そんなに怒るような目しなくてもいいのに~~うぅぅぅ......」

半分涙目になり始めているアリシアがブルブルとビビりながら兄であるアンドルーの後ろへ隠れるようにしてる。

ちなみに、俺より丁寧な喋り方になったキャロラインは慇懃無礼の一種で別に彼女を自分のご主人様のように扱いたいという訳ではないことぐらいは言うまでのない。


「あ~~ははは....ごめんね、キャロラインさん。悪気がないんでね、うちの妹は」

「そうだとしても、言っていい事と悪いこともありますっ!【親しい中にも礼儀ありー】、です!」

「うぅぅぅ.......」

今度は道端で縮こまっていてキャロラインから距離を取っているアリシア。


ったく、そんなに怯えることになったり怒られたりしたくはないなら最初からうちのメイドをからかわないようにと心掛けて自重しとけばいいのにって........

本当に懲りないね、お前はー。

ちなみにいつもそうやってからかってくるには理由がある。


俺達が最初に会って友人になったのは今日から役3年も前のことだった。

でもキャロラインはその前にずっと俺の側にメイドとしての働きを磨いていた頃も

長い。

なので、見慣れない人からすれば、手々を握り合っていたり、食べさせ合いっこしたり、時々お互いを励まし合うためにハグしているところを見たら俺達が恋人のように映っていても仕方がないけれど、そんなにべたべたしているつもりもなかったので、80%はアリシアの過剰な冗談によるものも大きいがな。


だって、そういう作法はこの【エグベルトライ―ヒ帝都】の普通の文化の範疇ではないか。あれぐらい男女によるスキンシップがあっても不思議じゃない。もっとも、限度というものもあって、さすがに一緒にお風呂に入ったりしたことはないけど...。でも、着替えを手伝ってもらうことなら何年も前から続いてきたけど、15歳になった最近はそういうのはしないように取りやめさせた。


何故なら、身体も成長したし、【ムクムクとそういう】のを目撃されたくないしな。


それに、確かにそのウィンチェスター兄弟の一家は俺と同じ子爵家のものなんだけど、元々この帝都にて代々と我が一族が3世代に亘って住み着いてきた家系と違って、ウィンチェスター家というのは4年前にこの帝都に引っ越してきたばかりの辺鄙な地方からの貴族家だったということもあるので、男女の付き合い方に対してはある程度の保守的な考え方もあるのだろう....。


「おっとー!こんなところでいつまでも漫才していたら全校集会までに1分しかなくなったみたいじゃない!作戦の第一段階をちょこっと話せる場合じゃないね。どうする、アデワラー?」

「ふむ....」

今から走っていても学園のゲートまで辿り着くのには3分もかかるし、明らかに間に合いそうにないなぁ...。

よしー!こういう時に限ってあれをやるしかないか、うん!


「しょうがない。【転移魔術(テレトラスポールト)】を使うぞ、みんな!輪になって全員、手を繋いでくれ!」

「アリシアお嬢様、いつまでも呆けているつもりなんですか?ご主人様の仰っていたことが聞こえるならお早こちらへー!」

「アリー!聞こえたかい?」


ぎゅ~む~。

「痛っ!」

未だに道端でしゅんと落ち込んでいたアリシアを現実へと戻させるべく兄であるアンドルーが頬っぺを抓った。


「ほぇ~?」

「アデワラーが【転移魔術(テレトラスポールト)】を使うんだよ。もう時間がないからキャロラインに謝るのは学園について全校集会が終わってからにするんだ!こっちへ!」

「!は、はい!兄様!よーっし!久しぶりの【テレトラスポールト】でワクワクしてきましたーー!」


「でも、貴族街にいるとはいえ、街中に魔術の使用が厳しく禁止されていると聞いていたけど?」

アンドルーの言う通りだ。もし街中での魔術行使をそこらじゅうに設置してある【魔気流探知機(シーグススペルーン)】が捉えたら、アラームがなって【違法魔術使用防止部署(ドールドルイーズ)】が一瞬で該当された場所へと【テレトラスポールト】してきて容疑者を逮捕するような仕組みとなっているのだ。


なので、いくら俺が【テレトラスポールト】に対して才能があってが得意な魔術だからといってこうして発動するものなら全員が捕まることぐらい容易に想像がつく。


だからー


「【魔気流隠蔽(シーグスヴェベールヘン)】、【3人付与、この人達(トロアーペーシオーン、シーギアー)】ー!」

「「ーー!?」」


そう唱えた俺は自分の身体から透明な飛沫が次々と夥しく噴き出してあっという間に俺と彼ら3人の身体を包みこんでいる。


驚いている様子の二人なんだけど、我がメイドだけが平然としていて、彼らにこう説明した、


「【転移魔術(テレトラスポールト)】をご主人様がお使いになられる前に、この魔術を我々4人に付与して【テレトラスポールト】が発動される際の魔気流の体外への放出を隠蔽できますよ」

「で、でも...見たことも聞いたこともないような魔術だし....どこいつからそういうのをー?」

「詳しくはまたの機会にーー!今急いでるんで!」


アンドルーの疑問は最もだが、今は時間があまりにもなさすぎる!

早く学園に着かないと遅刻しちゃうぞ!


シー――――――ン!

耳鳴りのような音と共に、【魔気流隠蔽(シーグスヴェベールヘン)】の影響下の元で【テレトラスポールト】を使って、記憶通りの学園の裏庭へと俺達を転移させた。


【テレトラスポールト】は使用する全員の者が元々行ったことのある場所にしか転移できないので、新学期が始まる前の入学手続きと登録で一度やってきて案内された事もある俺達だから使えるということだ。


「裏庭か?前に案内してもらった時に確かにここは警備員があまり配置されてないブラインドスポットでもあるし、人気がないのは当たり前みたいだね」

「うん。調べたし、間違いがないはず」


【テレトラスポールト】は第4階梯の魔術で、とても高度なものだ。

使用する際は脳内に思い浮かべる性格な場所の一か所へとピンポイントして移動することもできるすごい魔術だ。


「先輩!腕時計の時刻は7:59:40分で、もう30分も残ってないです!」

「ちぇー!魔術の使用が見つからなかっただけでもありがたい!走れーー!」

「了解しました!「おう!」」


まるで命がかかったような場面で俺達が走り出そうとした、がー


「おっと!そうはいかないぜぇーー!このルールブレイカー共が!」


「「「「ーー!?」」」」

頭上からそんな声が聞こえてきたかと思うと、すぐに雷のような早くて鋭い閃光のような落下物をかろうじて目で捉えられた。けど防ぐのに間に合いそうに―


バコ――――!!


「「「ーー!?」」」

「へぇーー。みんな、あっしのこの雷みてえなスピードもあるキックを捕捉できなくて直ぐにのびてしまう腰抜けばかりかと思いきや、どうやらたまのある野郎もいたもんだなぁー!」

「貴女がどういう者か分かりませんけれど、アデワラー御主人様だけは打たせませんよ!」


見知らぬ誰かの踵落としを見事に両腕で防ぎきってみせたのは他でもない、我が忠実で優秀なメイドである後ろ型リング状の三つ編みをしてる金髪メイドのキャロラインだった。彼女が対抗するように謎の襲撃者に対して鋭く睨む。


「おー! お前はー!」


そう。目の前には俺より薄い方の黒色肌を持っている、俺と同じグデム系の人間がいる。しかも女の子のようだ。髪型はグルグルのドリル型の短い巻き毛のようで、不適な微笑をしている模様。


「初めまして、かなぁ?アデワラー坊ちゃんよぅー!あっしはルーシェンテだ。ルーシェンテ・フォン・アーグズミョ―ラだぜぇ!」


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