第1話:父上のお土産

「うー上手いなこれ!頬が落ちそうなぐらいに濃厚でジューシーな味だー!」

ダイニングルームにて、四角い上品なダイニングテーブルの前に腰を下ろしている俺とキャロラインがさっそく朝食のハムトーストを頬張っているが、やっぱり上手すぎて、口に出さずにはいられなかった。朝食という大事なひと時において、チーズも入ったハムトーストに勝るものはないな!


「ふふ、もちろん美味しいですよ、坊ちゃま。何故なら、私も日が昇る前にずっと厨房で朝ごはんのお料理を手伝っていましたから、美味しくない訳がありませんよ?」

「本当にー?ああ、そういえば、今日はキャロラインの番だってっけ?」

確かに、そうだったね。昨日はミシェラが朝食の担当だった。


「む~。何それ?まるであたしが作った方が美味しくないような言い方みたいじゃない、キャロール!」

ぎゅ~むっ!

「痛ー! ~もう止めてよね、シェラー!今は坊ちゃまとご一緒の朝食だからスキンシップするのなし~!」


どうやら、朝食を担当したことをご自慢口調に言ったキャロラインが気に入らないみたいで、すぐに張り合いとして彼女の手の甲を抓ってきたのはミシェラだ。

癖っ毛のセミロングな茶髪をしている彼女は、メイドの仕事の時はいつもポニーテールにして後ろへ束ねる。褐色肌を持つ彼女は見た目通りに、南の大陸ヌルハドールからのルーツを持っていることがすぐに分かる。確かに、その金色の瞳という特徴から見れば、彼女はルームシュレー地方からの出身だったっけ?


157年も前からその地方にあった嘗てのウグル王国が我が帝国が戦争で打ち負かして、滅亡させた後に帝国内へと吸収された土地と民族なんだったね。


まあ、かくいう、俺の一家も3世代までになってこの帝都に代々と長く住んできたけど、元々はヌルハドールのグデム自治領から移住してきた第一世代のガレツ曾祖父の功績により男爵の爵位を授与されたんだったね(今は父上が5年前にローズウッド戦役を戦い抜いて英雄扱いされたから子爵にまでランクアップしたんだがな、我が家は)。


だが、グデムはシェラの民族が暮らしているルームシュレー地方よりもっと南に位置している地方なので陽射しがもっと強くてそのお陰で我々グデム系の人達はもっと濃い黒色の肌をしているけど。


ぎゅーむ!ぎゅーむ!

あ。二人の耳が抓られた。エヴェリンさんに。

うわ~。痛そう....。


「ミシェラ―!キャロライン!じゃれつくのはそこまでよ!アデワラー様のご食事に支障を来す程の騒ぎは感心しないね」

「.....シェラが先に始めたんです!」

「ほう~?あんたね?」


ぎゅ~~む~!

「うぅぅ.......ごめんなさい....でしゅ...。」

より強く耳を抓られたらしくて、涙目になりながら涎が垂れそうなほど痛くなってるみたいだ。可哀想だが自業自得だな。


5分後......


「学園の初日ですし、全校集会にご集合なさるまでにお早く出かけるべきかと...キャロラインもね」

「おう、分かったよ、エヴェリンさん。じゃ、行こう?」

「了解です」


絹のような薄い肌色と銀髪をしているメイド長のエヴェリンさんからの忠告もあり、それで急ぐことになったいる俺とキャロライン。キャロラインは俺と同じく15歳になったばかりなので、護衛、兼従者のような付き添いとして俺と同じクラスに入るのを学園側が承諾したのだ。


「さっそくお出かけですかね、アデワラー坊ちゃまにキャロライン嬢」

玄関の豪華なホールの出口に佇む、彫刻の掘られた高級な高い分厚いドアを俺達のために開けてくれたのは白髪でダンディーそうな見た目をしており、優雅なタキシードも身にまとう壮年男性の老人。

バトラーのアルフレッドさんだ。


「はい、新学期の初日だし、最初は良い印象が持たれるよう早く着きたいんだし」

「坊ちゃまの言う通りですね。それに、むしろ放課後になってからが本番なんですし、作戦を早く立てるためにはウィンチェスター様達も交えての会議が必要かと」

「左様でございますな。では、いってらっしゃいませ、坊ちゃまにキャロライン嬢に」

「おう!「はい!」」

ちなみに、ミシェラは俺達より一年も上なので、2年生となるが家事重視なメイドとして雇われホームスクールで勉学に勤しむことになっている。


ドアを通っていけば、左右を緑豊かな庭園に挟まれながらゲートへと続く長~~いい一本道が見える。そこまで歩いていけば、ゲートをくぐって馬車がある。

それを乗れば学園までに運んでもらえるが、アルフレッドさんが運転手じゃないのは父上からの言いつけによるものだから。


父上曰く:「アルフレッドは留守のお前と俺に代わって、家を守ってくれてるんだから女二人のシェラとエヴェリンに全部を任せる訳にはいかんだろう?」って。


タタタタ......


ゲートにまで近づいてきそうなところで、

「よおーーー!我が息子!何モタモタ歩いてるんだい?」

えー?この声!?まさか!


ゴー――ドー!!

「あぶねー!」「よっと」

難なく、真上から降ってきた父上からのボディープレスを避けきってみせた俺達。

俺のチリチリの赤髪ショートヘアーと違って、そのドレッドヘアーをしている黒色肌の男こそが、俺の父親であるバロンデム子爵。


そう、5年前にローズウッド戦役を戦い抜いて英雄なのは、この訳の分からんおかしいな仕掛けをいつも繰り出してくる活発怪奇な変人。しかも、俺達に対してだけ発揮される素の姿。


「おいー!父上!レデイであるキャロラインもいるのに、何故その無茶なことをー!?」

「ちちちーッ!無茶じゃないな、息子よ!可憐なベイビーフェイスちゃんのつもりのようだが彼女も立派なファイターの一員なのサ。なのでこれも訓練の一種だ。な、キャロ―ルちゃん?」

「旦那様のご戯れにはいつも困っているんですけれども、今日は度を越してのご迷惑っぷりでございますね。とにかく、全校集会までにもう時間がないのでご用件だけを手短にお願い致します」


はは...相変わらず、父上の奇妙な動きの扱い方が良く分かって来てるようで何よりだ、キャロライン.... 伊達に小さな頃から父上に養子として拾われ、俺の側近のメイドにするためにビシバシに鍛えられてきた訳じゃないか、父上....。


「彼女の言う通りだ。急いでるんで、早く用事を言って下さい。お仕事の都合でいつも単身赴任で過ごした父上がなぜいきなり帰ってきたのかわからんが、早く済ませてよね」

「なに、今日はただのお土産をお前たちにあげてやりたいだけだ。それ以外にないサ」

「「お土産ーー?」」


はてっと顔を見合わせる俺とキャロライン。


「そう、これからの学園生活を通して、あのレインフォール生徒会長をも越えられるような、お前たちをより強い魔装戦士(グランメリアン)にするための代物サー!そして、放課後の【あれ】にも役立つものなんだゾー?」


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