第11話 『アイテムボックス』って何?(他なろう系創作論)
「伯爵! 『アイテムボックス』って何なんですか?」
ゲーム『モンスターハンター・シリーズ』でおなじみの、アイテムを取り出したり装備を変更できるあの箱の事だな。
⋯⋯とまあ一言でいえばそれだけなんだが、この『アイテムボックス』にまつわるあれやこれやを今回語りたいと思う。
というのもこの『アイテムボックス』という概念が、一般ラノベファンタジーと、なろう系ファンタジーの境界線でもあるからだ。
「そうなんですか?」
少なくともなろう系が台頭する2010年くらいまでのラノベファンタジーで、アイテムボックスや収納魔法といった存在は吾輩が知る限り出てこないな。
「じゃあなんでなろうだとあんなにバンバン出て来たんですか?」
そもそも2010年代前半のなろうの作品を書いてた作者たちは基本ラノベの読者だったと思われる。
なので普段から思う『主人公たちどうやって荷物持って旅しているんだろう?』というラノベだとあんまり深く描かれなかった部分を、ドラクエなんかのゲームっぽく解決したのがアイテムボックスの始まりだと思う。
「そうなんですかー」
そもそも初期のなろう系では『女主人公』や『魔王が主人公』といった、今までのラノベの逆張り的な、いわゆる『売っていない作品』が多かったのだ。
そういったものを自分で書き始めたのがなろう系の始まりだと吾輩は考えている。
「つまりアイテムボックスは物語のつじつま合わせだった?」
だいたいそう。
それに昔のラノベファンタジー、ここでは『スレイヤーズ・シリーズ』を参考にするが、普段の旅の描写で生活感がほとんど描かれていない。
「スレイヤーズは基本街中で戦っているイメージがありますね」
それはきっと屋外だとリナのドラグスレイブだけで終わっちゃうからだと思う。
まあそれは置いといてリナたちは基本旅の間、大量の食糧など持ち歩くシーンは基本無いのだ、まあ作者が書くのが面倒だっただけだと思うが。
「そういや最初の頃の食事のシーンは、魚釣りやキノコ採りなんかで現地調達でしたね」
まあ言ってしまえば昔の作品はこういった生活感がほとんど描かれないのが主流だった。
しかし読者たちが書く側に回ると、そういったツッコミポイントまで描くようになる。
だが同時に、この『荷物どうやって運んでいるの?』という問題がその時代のゲームなんかから『アイテムボックス』という概念を拝借して一気に有名になった。
他にはなろう系には今までのラノベだとあんまり無かったスローライフ系の生活感を主軸にした物語も多かったのが原因かもしれん。
というところかな?
「なるほど⋯⋯書く作者の都合だったわけですね」
まあな。
でもこういった『書く人の都合なんだけどうまく作品の設定にしている』というのは吾輩大好きだったりする。
ではここで『アイテムボックス・収納魔法』がどれだけ作品に影響を与えるかだが⋯⋯。
吾輩は個人的に3つのポイントでその作品の『ファンタジー濃度』を測定している。
「ファンタジー濃度?」
例えば今はやりの『葬送のフリーレン』なんかは本格ファンタジー感があるだろ?
その理由に収納魔法が無く、荷物を持ち運ぶ不便さが描かれているのが理由のひとつだと思うのだ。
(いちおう収納魔法はある設定らしい⋯⋯が、ほとんど出てこない)
「フリーレンでの最大の敵って、魔族じゃなくて『冬の寒さ』ですもんね」
そうそう。
寒さでピンチになるなろう系はあんまり見かけないからな。
ではここで吾輩がファンタジー濃度測定に使っている3項目を紹介する。
1 ジャンプ力
2 鑑定魔法・ステータス
3 収納魔法・アイテムボックス
この3つが在るか無いかで、その作品のファンタジー感の測定をしているのだ。
「また変な項目ですね。 ジャンプ力とか?」
吾輩の記憶だとアニメの『ロードス島戦記』とか『アルスラーン戦記』などの本格ファンタジーだと、基本キャラのジャンプ力って普通なんだ。
「そうなんですか?」
それが『スレイヤーズ』くらいになってくると、ガウリイとかは平気で大ジャンプするようになる。
「なるほど⋯⋯。 その辺からインチキ臭さが出てくると?」
その世界の重力どうなってるの? とか、その世界の人類の力どうなの? とかだな。
まあその辺の基準が見えやすいのが『ジャンプ力』という項目だ。
「次は鑑定魔法とステータスですか?」
これぞまさになろう系の発明だと思う。
テレビゲームのおなじみのわかりやすさを小説に取り込んだリアルチートである。
なので凄く毛嫌いする読者も多かったりする。
「『ステータス・オープン!』って主人公が言った途端にブラウザバックする読者も居ますからね⋯⋯」
この鑑定魔法とステータスは基本同じものだと吾輩は思っている。
対象が『物か人物か? 自分かその他か?』くらいのもので。
「なるほど⋯⋯。 たしかに鑑定魔法で相手のステータス見れる作品も多いですしね」
まあそういうこと。
この鑑定の原理は、その作品世界のアカシックレコードという『作者のネタ帳』からの引用だと思うくらいメタい存在なので、出す作品を選ぶ傾向が高い項目である。
「そして最後が今回のテーマの『アイテムボックス』ですか⋯⋯」
この『荷物を持ち運ぶ苦労を主人公から取り除く』というのは、一気にその作品のなろう感をアップさせるからな。
それに旅に必要ない生活雑貨なんかも出しやすいし、とにかく書くのが楽になる。
「メタいですね⋯⋯」
このアイテムボックスという概念がどこまで古くから存在したのか?
吾輩が知る限りだと『覇王大系リューナイト(アニメ版)』の登場人物のカッツェのマントが収納魔法になっている事くらいかな?
(1994年作品)
「そんな設定ありましたっけ?」
カッツェは武器商人という設定のキャラだからいつも在庫を持ち歩いているのだ。
しかしその後の旅で、そのマント収納が描かれることはほぼ無い。
これはリューナイトという作品に生活感があまりないからだろう。
「RPGベースのファンタジー作品ですからね」
同時期のスレイヤーズのリナのマントなんかは、裏にいっぱいポケットがついててその中に盗賊から奪ったお宝をザクザク入れて持ち運んでいるが⋯⋯。
「ありましたね。 どれだけ入ってんだとか思う量が!」
あれもインチキ臭いが収納魔法という概念は無い設定だった。
あくまでも『すごい収納術』どまりである。
「収納術⋯⋯もはや魔法ですね」
まあ深く突っ込まない、というのが昔の作品でのお約束だったわけだな。
ここまでザックリと『アイテムボックス』について語って来たが⋯⋯。
その原理や仕組みはどうなっているのか?
と思う読者も多いだろう。
「そうですね」
しかしながらその設定に触れる作品はあんまり無いイメージだ。
神様からもらったチートだから!
とかいう一言で解決しているパターンが多かったし⋯⋯。
それに『時間凍結』や『容量無限』といった、その世界大丈夫か? というのもツッコミポイントである。
「あるあるですね」
かくいう吾輩もデビュー作の『銀色の魔法はやさしい世界でできている』の時から書くのを楽するために、このアイテムボックスである収納魔法は使っているのだ。
「じゃあ伯爵はしっかり設定しているんですか?」
⋯⋯いや、書いてるときは脳死でなにも考えてなかった。
「ダメじゃないですか!」
でだ⋯⋯暇なときにふと、この収納魔法の原理を思いついたのでここに紹介する事にする。
という訳で!
銀色の世界から主人公であるアリシアちゃんを召喚!
「⋯⋯ここは何?」
やあ久しぶりアリシアちゃん。
「初めてあう人だね、あなた」
まあね。
ではアリシアには銀色の世界での収納魔法の仕組みを解説して欲しい!
「⋯⋯まあ、いいけど。
私の世界の収納魔法は『時間が止まるタイプと、止まらないタイプ』両方ある。
これは厳密には両者は違う魔法なんだ。
まず時間が止まらないタイプ。
これは『空間移動系』や『亜空間創造系』や『入れた物が小さくなる』といった仕組みで構築されている。
まあどれでも入れた物は何処か別の場所とかに存在しているわけだから時間が経過する。
食べ物とか入れたら腐るね。
そして入れた物の時間が止まるタイプの収納魔法⋯⋯私が普段使っているのはこっち。
これはどうなっているのかというと、厳密には『収納している訳ではない』からだ」
「え? 収納魔法なのに収納していないんですか!?」
「そう、この時間停止系収納魔法は厳密には⋯⋯『時間移動系魔法』なんだよ」
「なんですと!」
「まあようするに『収納した』ときには仕舞っているんじゃなくて『未来に送っている』んだよ」
「でもそれだと、どうやって取り出すですか?」
「この魔法の秘密は『どの時間、どの場所に送るかは、後で設定できる』ということなんだ。
つまり収納するときは『とりあえず未来に送っただけで』そのあとの取り出す時に『今この場所に送った』という術式を完成させるんだ」
「つまり条件後付けの時間移動⋯⋯だから収納なのに時間が経たないのですね!」
「そういうこと。
時間移動系魔法は未来に一方通行だと結構簡単で、こういう融通もきくんだ。
逆に過去に送ろうとすると途端に面倒で魔力使用量も膨大になっちゃう」
「はえー、そうだったんですね!」
そうなのだ!
まあこれは吾輩の銀色という作品だけでの設定だがな。
「もう帰っていい?」
ああいいぞ。
ありがとうアリシア。
「ん⋯⋯じゃあ」
「帰っちゃいましたねアリシアちゃん」
素っ気ないけどいい子なんだよアリシアは。
「ああ、伯爵が完全に親バカモードに⋯⋯」
── ※ ── ※ ──
さて今回は『収納魔法・アイテムボックス』ってどんな原理なの?
という吾輩なりの考えた設定を紹介するために、この考察を書きました。
「アリシアちゃんもスペシャルゲストでしたね!」
吾輩、久々にアリシアにあえて嬉しかったよ。
だって吾輩は『アリシアを書きたいから』という思いだけで執筆を始めたのだから。
「それでは今回はこのへんで!」
また会おう諸君!
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