主犯格

明鏡止水

第1話

ある日、一人の若者が、凍りつくように、生き絶えた。


主犯格がいた。


主犯格は言う。


美容師になりたいの。

授業費をおねがい。


あなたなんかに、だれが髪を切られたいとおもうの?!


しかし、主犯格は入学。卒業。就職。

昔の仲間だっている。


お客さんだって、事件のこと聞いてくるけど。

たのしく会話してるよ。美容師だもの。


プロだもの。


結婚もしそうな勢いである。主犯格だというのになぜかモテる。そういう者を好む者が一定数いる。悪いことではない。


しかし。


いつかあなたは、あなたには必ず

殺人教唆のような罪を自覚することはなくとも。


やがて、主犯格が娘を産んだ。


だが、実家に一人で来て、子供は置いてきたという。


祖母となった女は鍵をもぎ取り走った。


初めて見る孫は。


色素の無い、アルビノの子。こんな可愛い子をどうして一人に。


主犯格が言う。おもったのと違った。


孫の誕生も、無事だったことも喜ばしい。これは罪でも罰でもなんでも無い。しかし。


自首しなさい。


この世の全てに。


主犯格の、かつての未成年がいる。いまだ、まだ未来のある自分に。


わたし、なにかした?


あいつが勝手に


死んだんだよ。


ならば。


放っておいたら、この子は勝手もわからず、自分勝手に泣くことも知らずに、衰弱して死んだでしょう。


母は負けなかった。祖母となった今、もっと強かった。


生きていけない、と思うほどに、


生き地獄を味わうの。それがどういうことか。

この子は教えてくれない。教えてくれる子は。


永遠に、皆の心から消えることはない。

この世にもう、凍えても脈打つ灯火を、真冬の極寒の地で耐えて生き絶えた子。その子は。


わたしだったら、耐えられない。


たとえこの子を自分が育てると決めた祖母でも、全てが推し量れず、当人から聞かないと話の全容が分からない、ニュースでもネット記事でも絶望が届かない。


凍ってしまった、尊い若者が思っているからだ。

死んだあとでも、つらくて隠したい。消したい。辛い。死にたい。


凍土は、想像を絶する、熱い涙で、溶かされもしない。


いつか、かならず、解決させる。

理不尽な天秤を破壊して。

どちらの命と人生と、思いが、永久だったのか!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

主犯格 明鏡止水 @miuraharuma30

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ