第11話 掟

 え、なに。雰囲気がまるで違う。今のハンさんは、今までの笑みとは違くて不気味だ。


 神様相手に、なぜか勝ち誇っているような笑みを浮かべているハンさんの思考が、わからない。


『我にそのような物言いようで良いと思っておるのか』

「なら、土下座などをすればよいのかのぉ。じゃが、今の状況。童がここに居なければ、今頃主はどうなっていたかわからんぞ? 今は童が主の命の恩人と言っても過言ではない。主はこの状況で、逆に童にそのような物言いをしても良いと思っておるのか? 神の掟をお忘れか?」

『このような状況を作ったのは、他でもない汝だろう』

「そんなことをするわけがないじゃろう。まぁ、少しばかり利用させてもらったがな」


 カッカッカッ!! と、高笑いが森に響く。

 もしかして、わざと儀式を止めなかったの? 神より有利に立つために? 


『そうか。なら、掟に逆らわない程度に汝を抹消しよう』

「っ、そう来るか……」


 え、何が始まるの?


『神の掟、1980条。の私々たる戦闘は固く禁ずる。だが、これは神の世界を揺るがす事態。私々ではない』


 ……………………ん????


「気持ちはわかる、口に出すでないぞ。実力は本物なんじゃ、主では勝てん」

「はぁ…………」


 これは、掟を破ったことにならないのだろうか。いや、そもそも、誰が神の掟を決められるのだろうか。神以上の存在がいるのか?


 もう、訳が分からなくなってきた。


『行くぞ』

「っ!


 ハンさんが慌てて俺の前に移動して来た? 


 あ、アースさんが右手を振り上げた。瞬間、アース様の頭上に複数の大きな光のつるぎが出現。

 先ほどまで悔し気に歪ませていた口元には笑みが浮かび、俺達を蔑むような瞳で見下ろしてきた。


 あれは、避けられるのか? 今の俺でも、避けられるかわからない。受け止める事なんてもってのほか。どうすればいいんだ。


『死ぬがよい、!!!』


 振り上げた右手を、アース様は勢いよく下ろした。連動するように、頭上に浮かび上がっていた光の剣も、一緒に俺達の元に落ちてくる。


「ハンさっ―――」


 ハンさんの腕を掴み逃げ出そうとしたが、それは意味の無い事だった。


「まだまだ、頭が弱いのぉ~。アースや」


 口にした瞬間、何かを引っ張る動作をし始める。すると、一本の木がいきなり倒れ始めた。木によって隠れていたであろう灯篭の光が俺達を照らし出す。


 眩しい光に包まれた俺は思わず目を閉じてしまい、視界を自身で塞いでしまった。

 これでは、剣によって体がめった刺しにされる!!


 ――――――――――と、思ったのに。


「…………え」

『なっ、何故だ』


 光の剣は俺達に到達する前に薄くなり、そのまま姿を消した。


 なんで、消えたんだ? 何か消える要素なんてあったか? 


 周りを見渡しても気になるものは無い。せいぜい、先程まで暗かった広場の中心に、光が注がれている程度。


 ………待てよ、光?


「そうじゃ。光には、光を当てればよい。そうなれば、凝縮されていた光が分散され威力は弱まる。最後には、目を晦ませる程度になるんじゃよ」

「こうなる事、わかっていたんですか?」

「まぁのぉ」


 ケラケラと笑うハンさんを横目に、上にいるアース様を見る。


 …………顔をめちゃくそ赤くして怒っているんだけど。これ、マジでやばくない? 俺達、世界の神に喧嘩を売ってしまっているんだけど。ハンさんは何か考えがあるんだよね!? 絶対に、あるよね!?


『なるほどな。力のない主が、我に立てつく気か』


 声が震えている、怒りマックスですよハンさん。どうするつもりですか、絶対に死にますよ俺達。


「葉月よ、先ほどの男を連れてこい。儀式をさせるぞ」

「え、でもそうなれば世界の神が支配されてしまうんじゃ…………」

「問題ない。光には光、神には神じゃ。もう一人の神、時の神を呼ぶぞ」


 え、そんなことして本当に大丈夫なのか!?


「問題はない。早くするんじゃ。ここからは時間の問題になってきておる」

「わ、わかりました…………」


 何を考えているのかわからないけど、多分俺への被害はないと思う。


 ハンさんは何を考えているのか、今の行動が何に繋がっているのか。教えてもくれないし、予想も出来ない。でも、なんとなく、信じられる。この人は、信じてもいい人。そんな気がするんだよ。何故かはわからないけど。


「気を付けてくださいね、大丈夫だとは思うけど」

「問題はないぞ、安心せい」


 優しく安心させるような笑み。そんな笑みを見た瞬間、俺も肩が軽くなり、安心して前を向くことが出来た。


 さっき逃げ出した人は今どこにいるのだろうか。早く見つけ出し、ハンさんの所まで連れて行かないと。


「腕とか吹っ飛んでいませんように――……」

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