第8話 神
「木の上に上るのなら先に言ってください」
「ここが一番いいかなと思ってのぉ。じゃが、まさか叫びそうになるとは思わんかったぞ。いつも冷静な主の意外な一面じゃな」
「うるさいです。誰でも、いきなり腰に手を回された瞬間に足が地面から離れ、浮遊感が襲ってきたら叫びますよ」
先程、腰に手を回されたかと思った瞬間、木の上に移動していた。
咄嗟に叫びそうになった俺の口を、開いている方の手でハンさんが抑えたから周りの人に気づかれずに済んだ。
マジで叫んでしまっていたらどうしていたのか、後先考えているようで考えていないよね。
「ひとまず、ここからだったら見渡しやすいですね。人が集まっている広場を見る事が出来る」
人の背の数倍もある木の上にひとっとびしたから、周りを見渡しやすい。
俺達は暗闇と葉に隠されているから、相手からは見ることは難しいだろう。少しだけ体を乗り出しても問題はないな。
人が集まっている方向を見ると、もう十人以上は集まっているように見える。
意図的に作られたような木に囲まれた広場、人が集まっている集団の前には気になる祭壇。小さいけど、おそらくあそこに捧げ物を置くはず。
ここからだと小さくて見えにくいけど、多分今は何も置かれていない。でも、祭壇に置かれていないにしろ、どこかで保管しているはずだ。
それさえどうにか出来れば、終わりなんだけど……。
ん? ハンさんが顎に手を当て考えている。何か気がかりな事があるのだろうか。
「あの、確か作戦では、儀式を邪魔をして捧げものを奪い取るんですよね? 姿を見せないように、周りの木を揺らしたり、物を投げたり。大きな音を立てたり、光を照らしたりなど。他にも考えれば沢山ありそうですが、ハンさんは何かやりたいことでもありますか?」
「一番安全なのは音を鳴らす事じゃのぉ、光は誤ると自爆する」
「確かにそうですね」
誤って自分に光を当ててしまったら、終わりだ。姿を自分で明かす事になる。なら、物を投げて音を鳴らし、少しでも気を散らさせた方がいいか。
「どこまで出来るんですか、ハンさん」
「何がじゃ?」
「人に危害を加えることは出来ないと思うのですが、木を揺らすや捧げ物を祭壇から奪うとかは出来るのですか?」
「木を揺らすまでじゃのぉ。今の選択肢だと」
「やはりそうですか。でしたら、俺が捧げ物を奪いますね」
「その方がいいかもしれんのぉ。気を付けるんじゃぞ? 失敗しても落ち着いて次の行動に移るんじゃ」
「は、はぁ…………」
何でそんなことを言うんだよ、まるで俺が失敗するような言い方じゃないか。
何か失敗するような要素があるのだろうか、わからん。
「もう少しじゃぞ、準備せい」
「あ、はい」
広場を見ると、いつの間にか倍の人数が集まっていた。黒い集団だから、本当にゴミみたいに見えるな、それか虫。
「あっ」
「始まったのぉ」
広場を囲うように立たれていた灯篭が、集まっている人達を照らし始めた。
広場の中心に集まる人達の影が伸び、先ほどまでウゴウゴしていたのが光が灯ったことにより止まる。
すると、森の中から一人の高身長のフードを被った人と、助手のような人が現れ祭壇に向かって行く姿を目視出来た。
両手には大きな箱、あの中に捧げ物があるのか。重たいのかわからないけど、今の俺なら持てるだろう。半分妖みたいだし。
フードを被った男性が祭壇の前に立ち、箱を地面に置く。集団の方に振り向き、両手を大きく広げ声を張り上げた。
「ここにお集まりの者達よ、今ここで契りを申せ。捧げ物を時の神、タイム。妖の神、
「オオオォォォォオオオオオオオオ!!!!」
命の灯? 何を捧げるつもりなんだ?
「…………あの、まだ動かないのですか?」
「まだ早いぞ」
「はぁ」
儀式は始まった。でも、なぜかハンさんは動こうとしない。もうそろそろ動いた方がいいのではないのだろうか。
下ではまだ何かを吠えているリーダーのような人。答えるように、どんどん集団も動き出す。声が大きくて耳が痛い。うるさいなぁ。
「では、捧げ物をアース様に――……」
集団の方を向いていたリーダーっぽい人が、祭壇の方に向き直した。地面に置いた箱に手を伸ばし、蓋を開く。もう動かなければ間に合わないのではないか。
「そうじゃな、やるか」
「あ、はい――消えるように移動していったな」
予備動作すらなく、ハンさんが姿を消した。驚いていても意味ないし、俺も動くか。
ハンさんが気を逸らしてくれるだろうし、木から降りてすぐに動けるように準備しよう。
「……………………失敗は、しないよ」
ハンさんがあんなことを言ったから、なんとなく不安になってしまったんだけど! もう!
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