第7話 儀式
一度、ハンさんが話してくれた内容を整理ししてみようと思う。
今回俺が呼ばれたのは、ハンさんがこの世界に対して自身の力を使う事が出来ないから。
一人では今回の事件を解決するのは確実に無理なため、俺を呼び寄せた。
俺がこれからやらなければならない事は、この世界の制圧を企む者達を捕らえること。
世界の制圧には、世界の神を言う通りに動かすようにしなければならないみたい。
神を思うがままになどできるわけが無いと思っていたけど、一つだけ方法があるとハンさんが言っていた。
その方法とは、
その儀式を、村で歩いていた時に出会った武士達がやろうとしているみたい。
その儀式に必要なのは、祭壇と捧げ物。
前に、俺が村を一人で歩いていた時のこと。武士の格好をした人とすれ違った際に”懐に何かを隠している”事がわかった。
その隠し物が、おそらく神への捧げ物だろうと予想。
何を捧げるつもりだったのかは、何故かハンさんは口を濁し教えてくれない。話したくないみたいな雰囲気だったから、俺も必要以上には追求しなかった。
「話はなんとなくわかりました。でしたら、今日の夜にでも儀式をさせない為、行動を起こしますか?」
「なんじゃぁ? 話を聞いただけでやる気を出しておるのぉ」
いや、だって……。流石に今の話を聞いて、ほっておく事も出来ないでしょ。
何でこの世界を制圧しようとしているのかわからないけど、そういう事をしようとしている人達の考えって、絶対にろくなものじゃない。
俺がこの世界にいつまでいるのかわからないけど、仮に世界の神が制圧されてしまったら絶対に少しでも俺に影響はある。だから、どうにかしないと。
俺に何かがあれば、本当にめんどくさいし。
「自分に素直なのはいい事じゃと思うぞ」
「素直なのはいい事なんですねハンさん、ありがとうございます。でしたら、ハンさんも素直に答えてください。今は何を考えていますか? どうせ、次の行動を考えているんでしょ?」
「そこに繋げるんじゃのぉ」
ケラケラと笑っている。何か面白い事でも俺は言ったのだろうか、この鬼の笑いのツボが本当に分からない。
「今は大きく動いていないみたいだからのぉ、叩くなら今じゃ。捧げ物を捧げる日付はわかるからのぉ、そこで叩くぞい」
「……………………はい」
この鬼、今の状況を目一杯楽しむつもりっぽい。嫌らしい笑みを浮かべて、何かをブツブツ言っている。
これは、今まで以上に覚悟しよう。
☆
話を聞いてから数日、ようやく動きだらしい。
今は夜、ハンさんが外を自由に動き回れる時間。
「何で今日なんですか?」
「夜空を見上げてみよ」
俺の質問をガン無視で、ハンさんは夜空を見上げている。
今は二人で森の中を歩いていた。
高々と上る木に囲まれ、月光が隙間を縫って俺達を照らしている。
今日は雲一つない夜空、満月が綺麗に輝いていた。
…………あれ、満月?
「そうじゃ。満月の日は、妖力、神力、法力。すべての力が上がる。じゃから、ほんの少しでも儀式の成功確率をあげるため、今日に定めた可能性があるのぉ。儀式の日取りをな」
ここで俺の質問への答えか返ってきた。
こんな遠回しな答え方じゃなくて、もっと端的でいいんだけど、まぁいいや。
「のぉ、主は捧げ物の意味は何じゃと思う?」
「え…………」
わざわざそんな質問して来るってことは、俺が思っている以外の意味があるということか?
「神に捧げる物、ですよね」
「そうじゃ。次に質問じゃ、何故捧げ物をするんじゃ?」
「相手に敬意を見せるため、とか?」
「それもあるが、今回に関しては少し違うのぉ。神に捧げ物を送ることにより、見返りを求めておるのじゃよ」
はい?? 神からの見返り? そんなの望んでも意味は無いだろう。
「神の世界にも決まりはある。神だからと言って、何でも許される訳ではないんじゃよ。神が掟を破った場合は、他の神から罰を与えられる。掟は、絶対なんじゃ。その掟の中にある一つ、”捧げ物には見返りを”じゃ。強制なんじゃよ」
「そうなんですね。神も大変なんですねぇ」
「そうじゃぞ、大変なんじゃ。じゃから、神だからと言って何でも許される、何でもできるという勘違いはよすんじゃぞ」
「わかりました」
強制的に捧げ物さえ送れば、何かしらの見返りを求める事が出来るという事か。
まさか、今回動いている人達は、神を利用して自分達の欲望を満たそうとしているのか? それ、もし失敗したらどうなるんだ。
その前に、神に捧げる捧げ物っていうのは一体、なんなんだ。
捧げ物って、食べ物とかなら可愛いが、おそらくそんな生易しいものではないだろう。
もしかして、子供とか? いやそこまで残酷なものではないはずだ。神だって、子供を捧げられたら困るだろうしな。
「人の気配が強くなってきたのぉ。見つかったら終わりじゃ、せいぜい気を付けるんじゃぞ」
「はい」
森の奥に進めば進むほど、普通なら人の気配は無くなるのだが、今回に限っては違う。
奥に進めば進むほど、人の気配が強くなってきた。
「止まれ」
「っ!」
ハンさんの声に、反射的に足を止めた。
どうしたのか問いかけようとしたが、微かに鼓膜を揺らす音が聞こえた。
もっとしっかり聞くため耳を澄ますと、男性の声……? 何を話しているんだ?
『これでラストだ』
『あぁ。これで、世界の神は我々が自由に扱う事が出来る。神の力は、我々の物だ』
男性の笑い声が響き渡る。この先で行われているのか、捧げ物を神に届ける儀式が。
神操の儀式は、具体的には何をするのか。捧げ物は何なのか。何人が今回の作戦に加担しているのか、どのような規模で行われているのか。
ハンさんの指示を聞き逃さないように気を付け、且つ行動を迅速に今回の作戦を防ぎ、この世界を統べる神を守る。それが、今回の目標だ。
「徐々に人が集まってきたのぉ」
「俺達、ここに居たら気づかれますかね」
「そうじゃのぉ。じゃが、これ以上離れるとすぐに行動を起こす事が出来んくなる」
「ならどうするんですか?」
「隠れる」
「…………え?」
え、ちょ、 腰に手を回されっ――……
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