第8話「いざッ、謁見の間へ!!(2)」
予想外の拒否に焦った私は食い下がる。
「でッでも! 先ほど魔王様は『何でも良いから』とおっしゃってッ――」
「確かに言うたが、『何でも叶える』とは言うとらんぞ」
「それはそうですが……というか! どうしてダメなんです? 噂によれば魔王様はこれまで
「いや、
「ならどうして――」
「
「うっ――」
魔王の主張には一理ある。
おそらく彼女の価値観における“安全保証”というのは、“相当なもの”として位置づけられているに違いない。
これは裏を返せば『魔王は約束を守る誠実な人物』という証明にもなりうる。
仮に彼女がいい加減で無責任なら、私の希望に対し「OK!」と答えるだけで、実際には何も動かずに済ませたっておかしくない。むしろ私は「それぐらいの形式的な返答と書面だけでももらえれば、十分ユベール王家へのハッタリになる」と考えていたのだ。
だが彼女は断った。
きっと「適当な約束はできない」的な考えなのだろう……真面目だな、この子。
ってことは!
もし私がうまく魔王とやり取りして、別の形でも“何らかの約束”を取り付けられれば、思った以上に有利な立場になれるんじゃ……!
私が高速で脳を回転させていると、魔王が言葉を続けた。
「……そうじゃのう。もしお主が
「えッ! 本当ですか?」
「
にかっと笑う魔王。
一国の王として心配になるぐらい誠実だな、おい。
「ちなみに魔王様は安全保障に値する“何か”として、例えばどんなものを――」
「危ないッ!」
質問しかけた私をかばって、無理やり後方へと移動させるゼト。
と同時に――
ズガァアァァンッ!!!
――天井を突き破り床へと直撃したのは
ってかそこ、さっきまで私が立ってたところなんですけどッ?!
「……危うく丸焼きだったわね……助かったわゼト!」
「いえ……!」
ゼトは私をチラッと見るなり、戦闘態勢のまま視線を上空へ戻した。
高い天井にはぽっかり穴が開き、雲が渦巻く不穏な空が広がっているのが見える。
「おやおや。いつの間にやら“3時のおやつたいむ”が終わってしもうたようじゃのう……仕方ない、相手をしてやるのじゃ」
溜息交じりに魔王が指を鳴らす――
パチンッ!
――瞬間、部屋の景色が変わった。
暖かなお花畑が消滅し、内装が黒一色に変化。
さらに魔王の周りを黒いオーラが包んだかと思うと、純白だったドレスを“漆黒”に染め、
「覚悟しろッ魔王ッ!! 今日こそ息の根とめてやるわッ!」
遅れて天井の穴から飛び込み、凄い勢いで迫って来たのは大きな
私たちの顔が強張ったッ――
――と思うや否や、魔王が動いた。
ドゴォンッ!
飛び込んできた
天井にぽっかり開いた大穴からは、変わらず外の景色が見えている。
不穏だったはずの空は、
「ったく。毎日毎日、飽きもせずようやるのじゃ」
高い天井を見上げつつ、再び魔王は指をパチンと鳴らした。
その魔力に呼応するかのように、床に散らばった破片が自動で上空へと戻りはじめ、みるみるうちに天井が修復されていく。
気が付けば室内も『謁見の間』にふさわしい重厚なインテリアへと変わっていた。
魔王はスタスタ歩いていったと思うと、一段高い椅子にドカンと座る。
気だるげに玉座へと佇むその姿は、先までの年相応な可愛い幼女から一変。
いかにも“
私はおそるおそるたずねてみる。
「……ええっと魔王様? 今の
「見てのとおりじゃ。
と皮肉っぽく答えた魔王の瞳は、ひどく摩耗し、疲れ切っているように見えた。
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