第30話 これまでとこれから
何日か経って、私は退院することになった。
今もど平日で学校があるのに祖母に「今日だけは」と頭を下げてまで来てくれた。
祖母も別に鬼ではないので、受け入れてくれた。
むしろ私にいい友達が出来たと、光亜がいない時には嬉しそうにしていた。
入院中にはみんなから色んな話を聞いた。
祖母からは祖父の遺体が見つかったことを。
祖父はとある研究所のようなところで監禁されていて、私が病院に送られる少し前に死んだと言っていた。
ちなみに私のことは光亜が見つけてくれたらしい。
光亜は父親が私の両親を轢き殺したことで捕まった時に祖母の家の住所を知ったようで、祖母の家に行き、私の住んでいる部屋を突き止めたと言っていた。
祖母も私が晩御飯を食べに来ないから心配になっていたようだ。
だから光亜と祖母は私の部屋に来て私を見つけた。
その話を聞いて私は少し不思議に思ったことがある。
どうやって私の住んでいる場所を知ったのかとどうやって私をここに運んだのか。
私は祖母以外にここに住んでることは言っていない。つけられた場合は私の耳なら分かるし。
それに部屋には鍵がかかってたから少なくとも外から鍵をかけたことになる。私の鍵は制服のぽっけに入ってたから。
まぁそんなの今更考えてもしょうがないと考えるのをやめたけど。
暗い話はこれだけで、後はスカッとする話が聞けた。
最初は
二人は断罪のコロシアムから解放されてからも個人的に会っているらしい。
そしてそんなある日に、未来空のことをちらちら見る男達がいたそうだ。
視線に敏感な未来空はもちろん気づいていたけど、特に気にしていない様子で歩いていた。
だけどその男達が未来空の前に立って声をかけてきた。
「君、全裸で歩き回ってた子だよね」
「そういう趣味があるなら、見られてなんぼでしょ? 一緒に遊びいかない」
などと未来空に言ってきたらしい。
私達の罪はちゃんと世界に発信されて、そういう声かけもあるらしい。
話では未来空は物理的に強いらしいから、そんな男達ぐらいなら武力でどうにか出来るらしいけど未来空はそうしなかった。
どうやら蒼ちゃんに極力は武力に頼るのを制限されていたらしい。
手を出すのは自分の身に危険が及んだ時だけだと。
だから未来空は無視して通り過ぎようとしたけど、男達は諦めずに未来空の肩を掴んだ。
これは身の危険だと未来空は手を出そうとした。だけどそこにキャップを被った蒼ちゃんが来た。
「未来空、手を出さなかったら後でご褒美あげます」
「ほんとぉ?」
それを聞いた未来空は出そうとした手を引いて嬉しそうにした。
「誰だ坊主。邪魔すんなら」
男の一人が蒼ちゃんに近づいて行く。
「未来空のことを知ってて僕のことは知らない?」
キャップを脱いで蒼ちゃんが自分の顔を見せると男は顔を引き攣らせる。
「親殺し」
「僕は自分の大切な人の為なら親でも殺すよ。意味分かる?」
蒼ちゃんがその時した冷たい目を未来空は今でも思い出して一人興奮してると言っていた。
そしてそんな目をされた男達が向き合ってられる訳もなく逃げ出したらしい。
ということが私がその話を聞くまでに八回程あったらしい。
蒼ちゃんの親殺しというのは真実ではない。
確かに父親を殺そうとしたけど、さすがに女の子の力でしかも参考書では死ななかったらしい。
蒼ちゃんの父親も蒼ちゃんを罪に問わなかったから、蒼ちゃんが捕まることはなかった。
逆に母親の体罰が父親によって明かされて母親の方が捕まったらしい。
蒼ちゃんの父親も入院中らしいけど、もう少しで退院出来ると言っていた。
そして次に聞いたのは
叶衣莉も未来空と同じように男に声をかけられるようになったらしい。
でも叶衣莉の場合は声をかけてきた男達に「今からこの動画警察に見せに行くんだけど一緒に行く?」と言って自分が襲われている動画を見せて追い払ったらしい。
叶衣莉の罪も立派な犯罪になるのだろうけど、その罪に問う人がいなかったから叶衣莉も無罪になっている。
彩楓は普通に双方の一致で始めたことだから罪に問われなかった。
そんな叶衣莉と
二人で歩いていると、アイマスクをしている彩楓は目が見えないと思われてその彩楓を妹がお世話していると思われて、叶衣莉はよくお菓子を貰っていると言っていた。
だから叶衣莉は外で彩楓をお姉ちゃんと呼んでいるらしい。
きっと手に付けてる鳥のハンドパペットも年下に見える理由なのだろう。
そしてそういうのは光亜も対象のようで、私の住む部屋に手を繋いで行こうとしていたら大学生くらいの男に声をかけられた。
ちなみに祖母は晩御飯を食べる約束をしたので、その準備の為に家に帰った。
男は「君だよね、男となら誰とでも寝るっての」と小さく笑いながら言ってきた。
光亜もこういうのは初めてではないようで、ため息をついて私の手を引いて歩き出した。
でも男は諦めずに「無視しないでよ、何なら二人共でいいから」と言ってきた。
すると光亜は立ち止まってスマホを取り出して操作を始めた。
「警察ですか? 変質者に付きまとわれてるんですけど。はい、場所は」
光亜はいつも何の躊躇いもなく警察に電話をするらしい。
それを見た男は「ちょっ、冗談にならないだろ」と言ってその場を立ち去る。
「逃げてきました。じゃあいつも通り顔の写った写真と録音した音声は後で送ります。それでは」
どうやら光亜は警察に知り合いを作ったらしい。
「光亜ちゃん恐ろしい子」
「結局これが一番楽なんですよ。父とのことで良くしてくれた警官さんがいたので」
「録音と写真なんていつやったの?」
「分かってるくせに。録音はいつも準備してます。写真は電話する前に無音カメラの自撮りモードで」
確かに小さいけど、録音の起動音は聞こえた。
「でも私も光亜を守る手段考えないと。あんな奴らに光亜を渡す訳にはいかない」
「はぁ」
光亜が呆れたようにため息をつく。
「さっきの人は
「え、なんで? 光亜という天使のような存在がいるのに」
「乃亜さんが可愛いからですよ」
「光亜のが可愛いし」
「照れてる」
光亜が茶化すから、そっぽを向いてやる。
「そういうところも可愛いんですよ」
光亜はそう言って歩き出す。
「乃亜さんって目、見えてます?」
「……見えてるよ?」
「やっぱり見えてないんですね」
いや見えてはいる。ただ近くじゃないと見えにくいだけで。
「耳がいいから普通に生活出来ちゃうんですよね」
「普通はどうだろ。反響音があれば分かるかもだけど、さすがに道端の石なんかは分からないし」
「私の顔は分かります?」
「もちろん。じゃなきゃ目が覚めた時に天使だなんて分からないもん」
だから本当に見えない訳じゃない。見えにくいだけ。
「乃亜さんは何で一人暮らししてるんですか?」
「いきなりどしたの。んーとね、ばあ様に迷惑をかけない為かな」
「それは金銭的な問題ですか?」
「それもあるけど、ばあ様私が居るとずっと謝ってくるから」
理由は言ってくれなかったけど、祖父のことでずっと謝ってきた。
「それ、乃亜さんの方は迷惑ですか?」
「別に。ただ申し訳ないなーとは思ってる」
「だったら乃亜さんはおばあさんの家に戻るべきです」
「だよね」
私もそれは思った。
こんな目では何が起こるか分からない。
それが部屋で起こったら誰にも見つけてもらえないでそのままお陀仏だ。
それにこの目ではバイトも続けられない。
「ていうかバイト無断欠勤しまくってた」
私のバイト先は祖父と祖母の知り合いが経営している喫茶店だ。
多分祖母から連絡はいっているとは思いたいけど、一応連絡した。
すると何故か私が入院してたことを知っていて「バイトは来れたら来ればいいよ」と言ってくれた。
「無断欠勤許された」
「良かったですね。でもとりあえず乃亜さんはおばあさんの家に住んでくださいね」
「分かったよ」
私がそう言うと光亜が強く手を握ってくれた。
「じゃあ行こうか」
「はい」
そして私達はまた歩き出す。
それから数日が経ち、私は祖母の家に帰ることになった。
「久しぶり。ではないんだけど」
晩御飯を食べに来てるし、なんなら荷物を運び込んだりと最近はちょくちょく来ている。
引越しは光亜は毎回手伝ってくれて、彩楓達も暇な時を見つけて手伝ってくれた。
「ほんといい子達だ」
結局記憶は戻ってないけど、前の記憶がどうでも、今とても楽しいからそれでいい。
そういえば数日前におとこの娘が尋ねてきた。
どうやら私の抜けた記憶の中で会った相手らしいけど、もちろん覚えていなかった。
どうやら私に手を貸す代わりに私が何でも言う事を聞くと言ったらしい。
それを聞いてどうしたものかと悩んでいたら、光亜と手伝いに来てくれていた未来空と蒼ちゃんが出てきた。
私はおのおとこの娘から聞いた取引内容を三人に伝えると、目の色を変えてその子に詰め寄った。
未来空に圧をかけられ、蒼ちゃんに嘘を見破られ、光亜に蔑んだ目で見られたおとこの娘は泣きながら本当のことを話した。
どうやら条件は女の子を紹介してほしいとのこと。
その時の私は何を思ってそんな提案をしたのか分からないけど、私に女の子の知り合いなんて光亜達しかいないから無理な話だ。
でも光亜が「一人いますよ」と言った。
どうやら私から五百円を盗んだ女のことらしい。
確かに知っている女子だ。
だから私はめんどくさいけど、おとこの娘を学校に連れて行き、その女に会わせた。
ずっと学校を休んでいたから久しぶりの学校で、女はとても驚いていた。
まぁそんなのは興味が無いから無視して、おとこの娘をその場に置いて私は帰った。
その後二人がどうなったかはそれこそ興味が無いから知らない。
でも学校に復学した時に女はいなかった。
そんなこんなで私の引越しは済んだ。
そして今日は光亜が来てくれなかったので少し不機嫌さんだ。
光亜にも学校があるから来れないのはしょうがないけど、今日は土曜日だから休みのはずなのに、と自分勝手なことを考えながら来た。
そんな不機嫌さんな私は膨れながら祖母の家の玄関を開ける。
「おかえりなさい。乃亜さん」
「え?」
玄関を開けるとそこには正座をした光亜が私をお出迎えしてくれた。
「乃亜さんには内緒にしてたんですけど、何日か前から私もおばあさんの家に住まわせてもらってるんです」
「あー、え?」
いきなりのことで頭の整理が追いつかない。
光亜曰く、家に居場所がないことを祖母に伝えたら二つ返事で住むことの許可が下りたらしい。
光亜の家の方も止めることはなく、保護者の権利はそのままにして、追い出される形で出てきたと言っている。
「これからはずっと一緒ですよ。学校以外では」
「みゃー」
「久しぶりに聞きましたけど、まずはこれです」
私が抱きつこうとしたら、光亜が何か楕円形の箱を私に差し出してきた。
「なにこれ」
「眼鏡です」
「眼鏡?」
そういえば一度だけ光亜の付き添いでメガネショップについて行ったことがある。
その際何故か私だけ視力検査をさせられた。
「光亜に付ければいいの?」
「乃亜さんのです。乃亜さんの目が見えにくくなってるの記憶喪失と何か関係あるのかと思いましたけど、よくよく思い出してみたら乃亜さん元から目が悪かったですよね」
「いやいやこのブルーライトとはかけ離れて生きてきた私が?」
「関係ないです。はい、かけてください」
光亜に眼鏡を渡されたので、渋々かける。
「なんだこれ、見えすぎて怖い」
「乃亜さんは耳が良すぎるから、多少見えてなくてもなんとかなっちゃって気づかなかったんです。それ相当度が強いですからね」
認めたくはないけど、光亜の言うことなら認めよう。
「ありがとう、光亜。一生の宝物にする」
「いいんですよ。これからも色んなものを送って思い出を作っていくんですから」
「結局敬語はやめてくれなかったけど」
「そう、です……乃亜さん!」
光亜がいきなり大声を出して私の手を握る。
「どしたの、ご褒美タイム?」
「私、乃亜さんが目覚めてから敬語をやめてなんて言われてません」
「じゃあやめて」
「そういうことじゃなくて、それは記憶を無くす前の乃亜さんに言われたことです」
「つまり?」
「記憶が戻りつつあるんじゃないですか」
全然実感はないけど、確かに私は光亜に敬語をやめてなんて言ってない。
もしかしたら本当に記憶が戻りつつあるのかもしれない。
「じゃあこれからも記憶が戻ってそうなら言ってね」
「はい」
光亜が涙を流しながら私に口づけをした。
「記憶が戻る前に絶対にしてやるって思ってたんです」
「もしかして、前の私したの?」
「初対面で」
「大胆」
これからどうなるかなんて分からないけど、私は光亜と一緒に楽しく暮らせればそれでいい。
これからずっと一緒に。
『
そんなことを言う者の前の画面にはこう映し出されている。
『第三回 断罪の殺しあむ計画』
断罪の殺しあむ 〜社会的死を防ぐ為に殺し合う〜 とりあえず 鳴 @naru539
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