第28話 難易度イージーとスペシャル

「さっさと始めようよ」


 転移させられて少し待ったけど、アナウンスも何も始まらないので、私はそう言う。


 正直さっさと帰りたい。


 帰って光亜みあに甘えたい。


 とか思ったけど、一つ問題を思い出した。


 それは私が光亜の連絡先を知らないこと。


 住所は聞いたけど、普段スマホで連絡するなんてしないから連絡先の交換なんて頭からすっぽり抜けていた。


「え、どうしよ。光亜は家に来てほしくなさそうだったし、学校探すか?」


 光亜の学校がどこかも聞いてはいないけど、光亜の制服姿は目に焼き付いているから、きっと見つけることは出来る。


「うーん、でも光亜を今の状況に追い込んだの間接的に言えば私なんだよなぁ」


 最初は光亜の父親が私の両親を轢き殺したのが原因だけど、その恨みから祖父が光亜の父親をこの断罪の殺しあむというゲームをさせて私に殺させた。


 だから光亜が親戚の家に引き取られたのは私のせいとも言える。


「光亜にどう伝えようかなー」


『それは私達がやるから平気だよ』


 私が独り言を言っていたら、やっと機械音が喋りだした。


「遅いんだよ。早くこのゲームから解放してくんない?」


『それはもちろん。これからあなたの罪を世間に明かして、それからあなたのこのゲームに関する記憶を全て消した後にね』


「最初から願いを叶えるつもりなんかないってことね」


 どんな願いも叶えると言っておいて、その記憶を消してしまえば願いなんて叶えなくて済む。


「考え方がクズだね。まぁこんなゲームをまたやろうって時点でクズか」


『記憶が戻ったか。いや、戻されたのか』


「あんたらの目的はなに?」


『そんなの、あんたを社会的に殺す為だよ』


(私か)


 祖父の話を聞いてなんとなくその可能性もあるかなとは思ってはいた。


『私達はあなたの祖父と一緒にこの断罪の殺しあむを作った。そして完成したゲームをさせる罪人を探した』


「つまりあんたらが謎の集団?」


『そう。そして私達は願いを叶えるという戯言のせいで知り合いを罪人にしてしまった』


「それを私に殺されたから逆恨みしてんの?」


 そうならほんとにアホらしい。


 自分達が勝手に騙されておいて、それを他人のせいにしてるだけだ。


『違う。お前の祖父は最初からお前を勝たせるつもりしかなかった』


「普通に考えて負けさせる為にこんなゲームに参加させる方が馬鹿でしょ」


『そういう意味じゃない。あいつはお前にだけ特殊な効果を与えていた。だから銃の弾を避けたり出来たんだ』


「……」


『どうした、心当たりがあるのか? やっぱりそうだ。じゃなけりゃお前みたいな小娘に私の旦那が負けることなんて』


「つまんな」


『は?』


「もういいよ。そういう悲劇のヒロインぶるのやめてくれないかな。私が弾を避けられるのは引き金を引く音を聞いてタイミングを先読みしてるからだから」


 正直もう話す気にもなれない。


 こんな馬鹿達のせいでみんなの秘密は明かされて、傷を抉られたのかと思うと殺したくなる。


『何を意味の分からないことを』


「そうやって自分の信じたくないことは信じないで、信じたいことだけを信じる人生はさぞ楽でしょ」


『お前』


「高みの見物決めてれば言いたいことだけ言えるし、あんたらは私達の罪をいつでも明かせられるからって私達より強い存在とか思ってるんでしょ?」


『そうだ。お前だって罪を明かされたら素直になるんだよ』


「じゃあ明かせば?」


 私は自分の罪がなんだか知らない。


 だから知りたいというのもあるけど、そもそも罪が明かされたからといって私は変わらない。


 それで捕まったとしてもそれこそ自己責任だから。


『強がりを。やれ』


 機械音がそう言うと、スクリーンに映像が映る。


「これが私の罪?」


『そうだ』


 スクリーンには私が多分同い年ぐらいの知らない男子と一緒に寝ている映像が映されている。


 寝ているというのはもちろん不健全な意味ではない。ただ隣合って寝ているだけだ。そして男子の方にはモザイクがかかっている。


 毛布の下は知らないけど。


『これでお前は社会的に死んだ。本当はこのゲームで大量の人間の人生を壊したことを明かしたかったけど、このゲームを表に出すのは控えたかったからな』


「……」


『さっきまでの強気はどうした。やっと自覚したか? お前は私達に逆らうべきじゃなかったことを』


 機械音が高笑いをする。


「つまりあのクソ女がこいつを好きで、そいつが私を好きになったから坂恨んで私をこのゲームに参加させたってことか」


 もう名前も覚えていない、というか覚えていたかも覚えていないけど、私をこのゲームに参加させる原因を作った女が私を勝手に恨んで罪をでっち上げたということだと思う。


 つまり今までのみんなの罪もニュアンスだけ合ってて中身は全然違うということの可能性がある。


『なんでそんなに余裕なんだよ。全世界に発信されてるんだぞ』


「それが何? そんな顔も知らない人にどう思われようと興味無いから」


 光亜に嫌われたら嫌だけど、光亜ならきっと話せば分かってくれる。はず。


『ふざけるなよ。人の人生を壊しておいて、自分は興味無いからなんともない? ふざけるなぁぁ』


「ふざけてんのはどっち? 私は被害者。そもそもあんたらがこんなゲームを作ったのが原因でしょ。その罪を私なすりつけないで」


『殺す』


 機械音だから声音は分からないけど、明らかに冷たい声になった。


 なんとなくだけど、こいつのせいで私だけ部屋から出るのが難しくなってたような気がする。


『おい馬鹿』


 私の目の前にいきなり女性が現れた。


「ここじゃ人は殺せないでしょ」


「それは本体との感覚を切ってるからだ。でもそれを繋げてきた。その意味分かるよな?」


「本体と痛覚がリンクすると」


「そうだ。だから今ここで死ねばショック死するかもな」


『あの馬鹿、ロックしてきやがった』


 めんどくさい。同じゲームを作った仲間なら手綱ぐらい引いておいてほしい。


「死ね」


「うわ卑怯」


 女性は手に持つサブマシンガン? を私に向けて放ってきた。


 私はそれを避ける。


 ちなみに私に武器はない。


「これが難易度スペシャルってやつかな」


 私はゲームが得意ではなかったから、出来ても難易度ハードぐらいまでしか出来なかった。


「当たれば即死だろうし、本当に死ぬ可能性もあるならスペシャルよりも上か」


 ゲームに詳しくないからよく分からないけど、これはクソゲー認定していいと思う。


「なんで当たんないんだよ」


「でも武器がすごいだけで使ってんのが雑魚だから難易度だだ下がりだ」


 正直避けるだけなら今までの誰よりも簡単だ。


 何せ真っ直ぐ私に向かって撃ってくるだけだから。


「じゃあ攻めるか」


 このまま避けて弾切れを待ってもいいけど、おそらく弾切れはないと思うから攻めに転じる。


 私は弾を避けながら女性に近づく。


「来るな」


 私は更に近づく。


「来るなぁー」


 女性が二丁目の銃を取り出した。


「これが弾幕ゲーか。そう考えれば難易度イージーか」


 私は目を閉じて弾を避けながら近づく。


 そして女性とすれ違いざまに左腕を持ち、そのまま女性の足に向ける。


「がぁぁぁ」


「攻撃は最大の防御って言うけど、攻撃をどうにか出来たらなんでもないんだよ?」


 女性が足を押さえながら地面を転がる。


「意外。ちゃんと自分のも切ってきたんだ」


『それはこちらでやった』


「なんで?」


『君のことを逆恨みしてるのは分かってる。だから少し痛い目を見せたら私達は自首、は出来るか分からないけど、相応の報いは受けるつもりだった』


「ふむふむ」


『だけどそいつはやり過ぎだ。だから報いを受けさせる為にそうした』


 少しはまともな頭を持った奴が居てほっとした。


 全員この女性のように頭のネジが飛んでいたら今頃私は死んでいたかもしれない。


「じゃあこのゲーム壊すよ」


『神の子がそう言うのなら』


「神の子?」


『私達からしたら、君のおじいさんは神なんだ。このゲームだって神一人でも作れた。でも早く作りたかったのもあるだろうけど、私達にチャンスをくれてたのかもしれないな』


「裁けない罪を裁く?」


『ああ。でも私達はそろチャンスを棒に振って、私欲に走った。だからこれから私達に起こる報いは神からの天罰なんだろうな』


 私には誰がどうなろうと知った事ではない。


 でも。


「まぁうちの神は家では惚けたおじいちゃんだから、案外軽い天罰になるかもね」


『ふっ、そうだといいな』


 実際は軽い罪になんかならないだろうけど、それはそれだ。


「じゃあ私をそっちに」


「死ね」


「聞こえてんの」


 倒れていた女性が私の背中に銃を放とうとしていたので、その手を踏んで銃を落とさせる。


「こいつログアウト出来ないの?」


『いや、出来る』


「な、待て。私はまだ──」


 女性はそこで姿を消す。


「借りるよ。そっち送って」


 私は落ちていた銃を拾って転移を頼む。


「おお、機械だらけ」


「どうするつもりだ? ここはどうやっても壊せないようになってるけど」


「それはそういう設定にしてるだけでしょ、その設定が無くなったら?」


 私は機械に向かって銃を向ける。


「もしかして」


 私はそれには答えず銃を放つ。


 そしてあらかた撃ち終えると、アラートのようなものが流れる。


「これは」


「破壊される予定なんてなかったから警告文とかはなくて音だけなんだ」


 これは祖父から聞いたこのゲームの壊し方。


 言ってしまえば簡単だ。このゲームを中から操っている場所を壊す。


 そこは完全に破壊不能エリアで、本来なら壊すことは絶対に出来ない。


 だからこそ、そこにはこのゲームを維持する為の全てがあったらしい。


 そしてそんな場所を壊してしまえば、このゲームは維持が出来なくなり、勝手に壊れる。


「そんでじい様がここの破壊不能って設定を外から無くせば全部完了」


「さすが神だ。拘束された程度じゃ苦にもならないか」


「って話してる場合? 私達はどうなんの?」


「じい様が言うには、ログアウト用のコンソールからログアウトしろ、って」


 私はそのログアウト用のコンソールらしきものを見る。


「おいまさか」


「一緒に壊しちゃった♪」


「ふざけんなぁぁぁ」


「どうすんの?」


 ほんとにどうしようか。


 祖父が言うにはそれしかログアウトの方法はないらしい。


「あるにはあるのか」


「どんな?」


「うーん、その前に。じい様、助けて」


 私は試しに祖父に助けを求める。


「駄目か」


「いくら神でもそんな簡単にこの場所に干渉するのは厳しいと思う」


「じゃあこれしかないじゃぁん」


 私は思いついた最後のログアウト方法のしたく無さに項垂れる。


「だからそれは何なんだ?」


「一つ確認ね。ここにあったログアウトのコンソールって誰用?」


「それは私達、いわゆるゲームマスター用だけど」


「じゃあログアウト出来るよ」


 ほんとにやりたくないけど。


「だからその方法は!」


「自殺」


 このゲームで自殺した者は現実に帰ったようだから、自殺をすれば少なくともこのゲームからは解放される。


「確かに自殺なら私達も現実に帰れる。でも……」


「そ、あなた達は感覚が実際の身体と繋がれてないけど、私はちゃんと繋がってるから下手したら死ぬ」


 だけどこの方法しかないのも事実。


 もしかしたら祖父の助けが間に合うかもしれないけど、それを待って時間切れになったら元も子もない。


「ちなみにこのまま何もしないで残ってたらどうなるの?」


「多分一生身体に戻ることはない。そしておそらくずっと何も無い空間で漂うだけの可能性もある」


「それはやだな」


 もしかしたら強制的にログアウト出来るかもと思ったけど、そんなことならこの人達も焦ってない。


「じゃあやっぱりこれしかないか」


「自分で出来るか?」


「私の運命は私のものだからね」


「分かった。なら私から死のう」


 そう言って男の人が私から銃を受け取り頭に向ける。


「これは怖いな」


「あんたが怖がってどうすんの」


「そうだな。じゃあな」


 そう言って男の人は引き金を引いた。


 そしてしばらくして姿が粒子に変わる。


「成功だよね」


「多分」


「じゃあ次は私。ほんとごめんね、私達の逆恨みのせいで」


「謝らなくていいですよ、許さないんで」


「辛辣。でもそうだよね」


「はい、だから現実で文句言いますから」


「……そうだね。じゃあまた」


 そう言って女の人が銃の引き金を引いた。


 そしてしばらくすると姿が粒子に変わる。


「私の番か」


 私は銃を拾って、眺める。


「ここで怯えてもしょうがないよね。……あれ?」


 ここで初めて私の手が震えてるのに気づく。


「はは、怖いんだ。死ぬかもしれないんだからね」


 誰だって死ぬのは怖い。私だってそれは例外じゃない。


「でもこれは死ぬのが怖いってよりかは光亜みあと会えなくなるのが怖いのかな」


 死ぬのは怖いけど、多分死そのものが怖いんじゃなくて、死んだせいで光亜と会えなくなるのが一番怖い。


「でもこのまま何もしなかったら結局光亜に会えないんだよ」


 私は自分にそう言い聞かせて銃を頭に向ける。


「ふぅ、落ち着け。私なら大丈夫だ。は駄目か死亡フラグってやつだよね」


 こういう時は何も考えないのが一番いい。


乃亜のあさん』


(駄目だよ)


『乃亜さん』


(今は出てきちゃ駄目)


『大好きですよ乃亜さん』


(私だって、私だって)


 私は膝から崩れ落ちる。


「死にたくないよ……」


 私は気づくと涙を流していた。


『乃亜さんなら大丈夫です。絶対に私のところに来てくれますよね』


「行くよ。でも」


『もしも死んじゃったら私もついていきますから』


「それは駄目」


『じゃあ死なないで私のところに来てください。もし何か後遺症なんかが残ったら、私が一生乃亜さんの面倒を見ます』


「それは楽しみ」


 光亜のおかげで少し身体が楽になった。


『私と一緒なら怖くないですよね』


「うん」


 これが幻覚なのは分かってる。でも光亜の手が私の手を包み込んでくれてる気がする。


『いきますよ』


「よし来い。女は度胸だ」


 そして二人で引き金を引いた。


 私の意識はそこで無くなる。

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