第27話 兎束 乃亜
「なんも無いな」
転移先は特に何かある訳でもなく、ただ黒い空間だった。
多分暗い空間ではなく、黒い空間だ。
特徴と言えばそれだけで、他には何もない。
「また脱出ゲームとか言う?」
それだと今回は難易度が上がりすぎだ。
この何もない空間から何かを探すのは無理と言ってもいい。
「
彩楓だけではない。
動いているのは別として。
「どうしよっかなー」
とりあえず歩いてみるけどやっぱり何もない。
「意外と狭い?」
壁に手を当てて歩いていたけど、広さはだいたい一軒家の一部屋分ぐらいの広さしかない。
「出来るかな」
私は壁を叩いてみる。
反響音から何かないか探そうと思ったけど、壁が固くなかったから音が反響しなかった。
「これはあれか、私に『ここから出せー』みたいなことを言わせて『願いを叶えよう』とか言って願いを叶えた判定にする狡いやり方か」
『違うぞ』
(やっときた)
馬鹿にすれば反応あるかなーと思って言ってみたけど、結構あっさり反応してくれて助かる。
「じゃあ言い訳をどうぞ」
『少し観察していただけだよ』
「観察て」
声をかえているが、どことなく優しい声音だ。
「それで願いは叶えるの、叶えないの?」
『なにを望む? 無くなった記憶でも戻すか?』
「なんでも願いを叶えるとか言っといて誘導するんだ」
無くなった記憶になんて興味はない。
そもそも記憶が無くなってるなんて初耳だ。
「私の願いは……」
ここで少し困ったことが起こる。
(私の願いってなんだろう)
今思うと、私は叶えたい願いが無かった。
(どうしよっか、な?)
一つ思いたくないことを思ってしまった。
「叶えたい願いが無かったから、その私の記憶ってやつを教えて」
『分かった。全てを見せよう』
そうして私の頭の中に昔の記憶が蘇る。
これは確かまだ祖父が生きてた頃の記憶。
私は祖父から自衛の術を教えられ、そしてよく両親の話を聞かされていた。
でも両親の話をした後、祖父は必ず泣いていた。
泣くぐらいなら話さなければいいのにといつも思っていた。
そしてそんな祖父は死んだ。
正確には消えた。
ある日を境に祖父はどこかへ行ってしまった。だけど祖母は祖父の捜索依頼も出さず、ただ私に謝っていた。
その理由は祖父が作った断罪の殺しあむというゲームに参加させられていたから。
それは祖父が私の両親を殺したのにその犯人が未だに捕まっていないのか、軽い罪になったのかは知らないけど、そんな犯人への恨みから作ったらしい。
祖父は機械に弱いと思っていたけど、それは違って、実は現役でも働けるぐらいのプログラマーだったらしい。
祖父は私の前で機械を使えるところなんて一切見せたことが無かったから驚いた。
そして私は祖父が失踪する前の日に「ゲームをやらないか?」と言われた。
私は特段ゲームが好きとかでは無かったけど、別に断わる理由もないから了承した。
そして私は昨今流行っている、フルダイブ用のゲーム機を頭に付けた。
そうすると、いきなり薄暗い部屋に居た。
数名の人が居て、みんな戸惑っている様子だった。
私は特段好きでないだけで、ゲームが嫌いな訳ではないから誰もが知るゲーム用語ぐらいなら分かるから、あれがNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と言うやつなのかと思った。
祖父からはこのゲームを一人用だと言われているから、他のプレイヤーという発想はなかった。
そして最初の説明が始まった。
このゲームは格闘ゲームのようなものみたいだ。
トーナメント方式で戦っていき、最後に残った者の願いを叶える、そして負けたら罪が明かされるという設定らしい。
そしてチュートリアルも無しにゲームは始まった。
始まって分かったけど、このゲームはリアル過ぎてチュートリアルが必要ない。
装備はナイフ一本と銃が一丁。
私の初戦は相手が撃ってきた弾丸を全て弾いてから、私が銃を撃って終わった。
というか決勝以外はそれで全て終わった。
ゲームをよくやらない私でも分かるけど、これはクソゲーと呼ばれるものになるのではないかと思った。
私の耳があるせいなのかもしれないけど、簡単すぎる。
だから最後は縛りとしてナイフしか使わなかった。
決勝の人は何かやっていた設定なのか、ナイフの扱いや立ち回りは上手かったけど、今までの人と同じように銃に慣れてないのに銃に頼るから結局死んだ。
そして私はゲームをクリアした。
クリアした時に全ての話を聞いた。
このゲームで私が戦った相手はNPCなんかではなくて、私と同じようにゲームに参加していた人間だということ。
そしてその人達はみんな断罪の為に無理やり集められた者達。
そして私は執行人としてこのゲームに参加させられたこと。
そして私が最初に殺した男が両親を轢き殺した犯人であり、その男を殺す為だけにこのゲームを作り、他の人間を集めたこと。
それを祖父兼ゲームマスターから聞いた私は特に何も思わず、願いの話に移った。
けどそこでゲームから強制的に追い出された。
私は目を覚ますと自室に居て、祖母が隣で泣いていた。
私はそこで、五日間寝ていたことと祖父が失踪したことを聞いた。
そして私には断罪の殺しあむなんてゲームをしていた記憶は無かった。
「思い出した」
私は全てを思い出した。
このゲームが本当にゲームで、断罪のコロシアムではなく殺しあむという名前ということも。まぁそれはどうでもいいんだけど。
「それでじい様はまたこのゲームを初めてなにがしたかったの?」
『……気づいていたのか』
「うん。私の耳を舐めないでほしい。あ、ぺろぺろじゃないよ、それしていいのは光亜だけだから」
『少し変わったか。昔は人間味のない子だったのに。いい出会いがあったんだな』
昔の記憶を思い出す中で、昔の自分を必然的に思い出させられたけど、確かに機械のように感情がなく、大抵というか全てのことに関心が無かった。
「うん。このゲームで
私は胸を張ってそう言える。
光亜との出会いは私の全てを変えた。
光亜がいなければ私は今もなんとなくで生きていた。
『そうか。このゲームも役に立ったのか』
「うん。でもなんで始めたのかだけは教えて。これのせいでみんなバレたくない秘密がばらされ、て」
自分で言っていて、人の心配をしていることに自分で驚いた。
(これも光亜の、いや、みんなのおかげかな)
『一つ認識の違いを正そう。今回の断罪の殺しあむに私は関わっていない』
「じゃあやっぱり私の記憶を戻させる為だけにこの空間作って引っ張りこんだの?」
『そうだ』
この空間は他と違って部屋だけを作った感じがした。
だからおそらく、この空間は今この瞬間の為だけに、私達がゲームをしている間で作られた空間だと思う。
「じゃあ今回のゲームはじい様の協力者が勝手にやったこと?」
『そうだな。私は
「それがじい様が失踪した理由?」
『ああ。私は監禁されていた。だがこのゲームに集中している間に抜け出し、ゲームの間にこの空間を作ってゲームにねじ込んだ』
おそらくすごいことなのだろうけど、簡単に言うからすごさが分からない。
「それでじい様は私になにをさせたいの?」
『昔から話が早くて助かる。このゲームを完全に壊してほしい』
「それ私に何か出来んの?」
『乃亜にしか出来ないことだ』
そして私は祖父からなにをすればいいのか聞いた。
「おけおけ。やってみる」
『頼む。それと次いでにばあ様にすまなかったと伝えてくれないか?』
「え、やだ。自分で言えし」
そういうのは自分の言葉で伝えた方がきっといい。知らないけど。
『そうだな。ばあ様にはちゃんと自分で謝らないとな』
「そうそう。がんば」
私がそう言うと今居る部屋に亀裂が入る。
『時間か。後少しでこの空間は無くなって乃亜が本来行くはずだった場所に行く。そうしたら頼む』
「うん。またね」
『……ああ』
それを最後に空間は壊れ、気づくと最初の部屋に居た。
(頑張るよ、じい様)
私は決意を決めて、本当の最後の戦いに挑む。
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