第26話 決着

 私達の最後の戦いが始まった。


 正確には始まってはいたけど、私と彩楓さいかの本当の戦いが始まった。


 でも始まる前から今に至るまでずっと彩楓は不機嫌だ。


 彩楓の口ぶり的に、私に恨みがある感じではないから、なんで不機嫌なのかが分からない。


 彩楓はずっと私に「本気を出せ」と言っているけど、私はずっと本気だ。


 本気に見えないのならそれは私の感情が動いてないだけだから、諦めてほしい。


 そんなことを考えながらもう何度目かの刀とナイフの当たる音を聞く。


「スキルなしで勝たないと父さんに勝ったことにはならないって思ったから使わなかったけど、私も本気でやらないと乃亜のあも本気を出さないってことか」


「だから、……なんで分かってくれないのさ」


 彩楓が私の言葉を聞かないで刀に炎を纏わせる。


「私のスキルは『発火』効果はそのまま。これなら本気を出してくれるよね」


 彩楓はそう言って私に肉薄した。


「聞き分けの悪い子にはお仕置が必要だね」


 私は彩楓の燃える刀を両手のナイフで受ける。


「熱いよー」


「私だって熱いさ。だから早く本気を出してくれ」


「本気出したからって関係ないでしょ」


「それもそうか」


 だんだん腹が立ってきた。


「ほんとさっきからなんなの? 信じる気がないなら最初から本気かどうか言ってこないでよ」


「信じる信じないじゃないでしょ。見たら分かるんだから」


「私が本気かどうかなんてなんで分かるのさ」


 彩楓にあおちゃんや叶衣莉かいりのように感情を見抜く力があるなら分かるけど、さすがに見ただけで相手が本気かどうかなんて分からないはずだ。


 それに分かるなら、今私が本気なのが分かってないから嘘だ。


「もしかして気づいてないの?」


「なにが!」


 彩楓が少し戸惑った様子で距離を取る。


「乃亜ずっと耳栓してんだよ?」


「そんなわけ」


 私はナイフを二本とも左手に持ち、右手で耳を触る。


(……うん)


「ふっふっふ。ついに私が本気を出す時がきたな」


 私はそう言いながら耳栓を外す。


「乃亜。天然なのは知ってたけど、ほんとに大丈夫?」


「は? 知ってたけど。わざとに決まってるじゃん。なんか耳が聞こえづらいなとか思ったけど、よくよく考えればいつも通りかって納得してたし」


「それはいつも外し忘れてるってことじゃん」


 そう、私は日常生活を送っている時は常に耳栓をしている。


 だからそっちに慣れて耳栓を外すのを忘れる。


 最初の説明を受けた時はちゃんと聞く為に外して、そのまま始まった第一回戦は耳栓無しでやっていたけど、第二回戦と今の第三回戦はずっと耳栓を付けたままだった。


「あぁ、この聞こえなくてもいい声まで聞こえる感じ……、ほんとに嫌」


 だけど聞きたい音も聞こえた。私はその音の発信地である観客席を見る。


「分かるよ。私だって見たくないものまで見えちゃうから」


「よし決めた」


「なにを?」


「音を聞きたくないから、スキルの私を使う」


 そう言って私はスキルを発動させる。


「これでやっと本気の乃亜と、ってやば」


 彩楓との距離を一気に詰めて彩楓の喉元をナイフで斬り裂くつもりが、ナイフが触れる直前で刀が間に入った。


「燃えろ」


 私が空いている左手のナイフを彩楓の首に刺そうとしたら、足元に火が出てきたので少し距離を取る。


「なにがスキルの私に、だよ。乃亜、自我あるだろ」


「……」


 私は彩楓に銃を放つ。


 今の私には自我というものは確かにない。


 だけどスキルの私である訳でもない。


「無視というかは、話せない感じ」


 彩楓が観客席の方を見る。


「そういうことね」


 私はまた彩楓に近づいてナイフで斬りつける。それを彩楓が刀で受ける。


「ルール無用で観客席があるってそういう意味だったのね」


 そう、私は今観客席に居るおとこの娘に操られている。


 昨日の夜、私は部屋を回りあの子を見つけた。


 そして交換条件で私に手を貸してくれた。


 私はスキルを使うと戦いが雑になる、と思う。


 だから彩楓達相手にただスキルを使うだけでは勝てないと思ったので、人を操るスキルを持つあの子に声をかけた。


 あの子に頼んだのは、私がスキルを使う前に観客席を見るからその時に操ってもらうこと。そして私を操作してもらうこと。


 別に殺すまで操ってもらう訳ではない。それにあの子曰くそんなに長い時間は操れないそうだ。私のせいで。


 あの子のスキルは自分を可愛いと思った相手を操る効果。だから私が自分を誤魔化してあの子を本気で可愛いと思わなければいけない。


 可愛いとは思えたけど、どうしても私は光亜みあと比べてしまうからあのこのスキルがかかりづらかった。


 昨日の夜に試した時は持って二分。


 だからそれまでに彩楓を殺せたらそれでいいけど、それが無理なら……。


「刀を折るのが目的か」


 彩楓の持つ刀が折れた。


 彩楓が刀に炎を纏わせれば刀は柔らかくなる。だからそこにスキルの力でパワーを上げた私が攻撃し続ければきっとすぐ折れると思った。


 だから私がスキルを使った目的は武器破壊。


「戻った戻った」


 そして私のスキルは自分での解除方法が分からないから、その解除も頼んでいた。


「ぶっつけ本番で成功してよかった」


 シラフの状態では試しに操られてみたりしたが、スキル発動中は今初めてやった。


 だから出来ない可能性があったけど、結果的に成功したからそれでよし。


「刀を折った私相手ならスキル使ったら簡単に殺せるんじゃないの?」


「そうかもだけど、それは私の女の子の部分が、あれで」


「そんなに笑い方いやだった?」


「やだよ! あれを光亜に見られたと思ったら恥ずかしいもん」


 正直に言うと、私があの子に操ってもらった本当の理由は、あの笑い方を光亜に見られたくないからだ。


 自分では見たことはないけど、未来空みらくの真似を見ただけでも、なんか恥ずかしくなった。


「そのせいで負けても知らないから」


 そう言って彩楓は銃を構える。


「銃じゃ私を殺せないよ」


「知ってる、でも」


 私と彩楓は見つめ合う。


(やっぱり綺麗な目)


 それを最後に私は目を瞑る。


 そして彩楓が放った銃を私が弾いたのを合図に私は走り出す。


 彩楓の放つ弾丸を全て弾き、最後に彩楓の首にナイフを突き立てる。


「かはっ。これ、が化け物?」


「化け物か。なんか前にも言われた気がする。こんな幼気な少女に」


「幼気とか……。優しいことは認めるよ」


 そう言った彩楓の身体は地面に倒れる。


「別に優しさじゃないよ」


『第二回断罪の殺しあむ決着』


「終わりか」


 私が目を開けるとそこは知らない場所だった。

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