第25話 佐鳥 彩楓
「気分悪」
「私と二人っきりになりたいからってやりすぎじゃない?」
「
私は
「私何したの? ずっと考えてたんだけど、
「そうだね。私と乃亜は初対面だ。でも初対面だからって私が知らないとは言えないだろ?」
「そりゃそうだ」
(むかつく)
乃亜はたまに驚いたり焦ったりはするけど、基本的にいつも余裕そうにしている。
そんな乃亜を見ると私は無性に腹が立つ。
乃亜からしたらこのゲームはお遊びでしかないのが見て取れる。
「その余裕な顔を歪ませてあげるよ」
「理由は教えてくれないんだね。まぁいいや。倒してから聞く」
そして私達は合図をするでもなく、同時に走り出した。
今回は乃亜以外に人はいないから乃亜にだけ集中出来る。足を少し怪我してるけど、関係ない。
これなら乃亜を押し切って殺せる。
でも。
「なんでそんな余裕でいられるんだよ!」
「余裕ないって。ギリギリなの」
そう言いながら乃亜は私の刀を避けるか受け流す。
(ほんとに腹立つ)
私は一回距離を置く。
「なんだ、私じゃ本気になれないってか」
「さっきからなにを怒ってんの? 私は本気なんだけど。逆に何も教えてくれない彩楓にキレそうだよ」
「じゃあ私が話せば本気を出すのか?」
「もう本気なんだって。まぁ教えてくれるなら聞くけど」
私は本気の乃亜を殺さなければ意味がない。
「分かった教えるよ。私が乃亜を恨んでる理由を」
私は数年前の出来事を思い出す。
私の父は剣道の道場の師範をしている。
私もそこで剣道を習っていた。
父は相当に剣道が強いようだった。
詳しくは知らないけど、家には沢山のトロフィーやら何やらがあった。
だからなのか道場には沢山の人が通っていた。
父と同じ血が通っているおかげなのか、私は道場の中でも上から数えた方が早いぐらいには強かった。
道場の人ももちろん私と父を尊敬していた。
でもそんな父がある日姿を消した。
最初の日は「武者修行にでも出かけたのか?」なんてことを言う人がいた。
父は未だに現役なので、それも有り得る話だった。
父は普段から無口で、私達家族にも自分のことをあまり話さないからそういうことにして、しばらく様子を見ることにした。
そうは言っても次の日になっても連絡の一つもなければ心配になる。
父は機械音痴などではないから、普通にスマホを使える。だから私と母は連絡をしようとしたけど繋がらなかった。
なので母と私は警察に行こうか悩んでいた。
父は竹刀でなくとも、簡単には折れない木の棒でもあれば襲われても返り討ちに出来る。
だから誘拐や通り魔の類は疑っていない。
なのであるとしたら、自分からどこかへ行ったか事故にあったか。でもその理由が分からないし、事故なら父は界隈でなくとも知ってる人なら知っている程度には有名なので連絡があってもいい。
でもそれもないというなら、やはり武者修行に行ってスマホの電源を切っているのだろう。
そう結論付けてもう少し様子を見ることになった。
そして父の失踪から五日後、父のことがテレビで取り上げられていた。
それは行方不明者の捜索を促す報道ではない。
父は人斬りとして報道されていた。
父は人を監禁して斬り殺していたと言われていた。
確かに家には父しか入らない謎の地下室はある。
でもだからって父が人を監禁して尚且つ斬り殺しているなんて信じられない。
だから私は待った。父に本当のことを聞く為に。
その時はすぐだった。
報道がされて一日も経たないで父は帰って来た。
外には記者や野次馬が沢山居たけど、父の本気の睨みで道を開けていた。
そして父は私と母を見ても何も言わず地下室に向かった。
私は怖くてすぐには近寄れなかったけど、意を決して地下室に向かった。
父にあの報道は嘘だと言ってほしくて。
そして地下室の扉の前に着いた私は深呼吸をしてからノックをする。
でも返事はない。なので私は「父さん、話があるの。開けて」と言った。
でも中からは返事がない。
何か嫌な予感がした。心音がうるさく、息も乱れてきた。
私は「開けるよ」と言って扉を開けた。
薄暗い地下室でも私の目にはくっきりと見える。父が椅子に固定されながら刀で自分のことを刺しているのを。
刀は父を完全に貫いていて、父からは今も血が流れ続けている。
私は驚いた。父が死んでいることにではなく、自分がそれを何の感情もなく見ていることに。
さっきまで心音がうるさく、息も乱れていたのに、父の最期を見たら急に全てが凪いだ。
だから父よりも私は地下室が気になった。
ここにはテレビで見る、人一人をしまえるサイズの黒い袋? みたいなのが沢山あった。
他には一冊のノートがあった。
そこには、人の名前とその人の情報が書いてある。おそらく今まで殺してきた人のものだろう。
そして最後のページにはこう書いてあった。
『断罪のコロシアムなんてふざけたゲームに私を招いたのは
私はあいつを許さない。
そして
断罪のコロシアムなんて初めて聞く言葉だった。スマホで調べても何も出てこない。
三嶋というのは父の道場に通っている、私のいわゆる弟弟子だ。でも父が言っているのはその父親のことだろう。
私の弟弟子の三嶋の父親は、私の父とライバルに当たる人だったらしい。でも三嶋(子)が父の道場に通うものだから恨まれていると聞いたことがある。
そんなことより気になったのが戸塚 乃亜という名前だ。
私はもちろん、道場に通う人達も父の強さは知っている。
そんな父が化け物という戸塚 乃亜に興味が湧いた。
私は一度も父には勝てなかったけど、この戸塚 乃亜に勝てたら父に勝ったことになる。
だから私はそのページを破り、母に父のことを知らせに行った。
それからは大変だった。毎日家の外には記者が群がり、母はどんどん沈んでいった。
でもそんなのはどうでもよかった。
私は戸塚 乃亜のことで頭がいっぱいだった。
だから私はとりあえず断罪のコロシアムについて調べることにした。
ネットに載ってないならもっと確実な方法で探す。
私は三嶋(父)に話を聞きに行った。
三嶋(父)は私に怯えながら知っている全てを話してくれた。
どうやら三嶋(父)の元に謎の集団が来て「憎い相手の罪を裁きたくないか?」と言ってきたらしい。
それに対して三嶋(父)は怪しかったけど、頷いたと言っていた。
つまり断罪のコロシアムに出るには、表には出ていない罪を抱えて尚且つその罪は少なくとも一人には知られていて、それでいてその人が断罪の殺しあむの運営のような人達に目を付けられなければいけないらしい。
だったら話は簡単だ。
私は三嶋家に火を放った。
小火程度で済ませたけど、これは三嶋(父)に許可を取ってやったことだ。
私が断罪のコロシアムに参加出来たら色々と黙っておくという条件で。
火を放ったのは三嶋(子)の部屋。
これで上手くいけば私は断罪の殺しあむに参加出来る。
そして更に上手くいけば戸塚 乃亜と戦える。
そんな期待を胸に刀の使い方の勉強をしたりして時を待った。
「それで今に至るって訳」
「うん」
「でも最初は分からなかったんだよ。なんせ字が違ったから」
父のノートには戸塚と書いてあった。でも乃亜の名字は兎束だ。でも参加してみて分かったけど、このゲームは名前を出したりしないから、書かせない限り名前の漢字なんて分からないからしょうがないのかもしれない。
だから最初は同姓同名なのかと思った。というか今も少し疑っている。
手を抜いているとはいえ、乃亜では父に勝てる訳がない。
「それが彩楓が変だった理由なのは分かったけど、それ多分私じゃないよ? 私これに参加したことないし」
「やっぱりか」
ここまで生き残っているからもしかしたらとは思ったけど、やはり違ったようだ。
でもそれはそれとして。
「乃亜を殺して優勝すれば私の探す戸塚 乃亜が見つかるかもしれないから、どっちにしろ乃亜は殺す」
「私も叶えたいことあるから彩楓を殺すけど、話を聞いてよかった」
「なんで?」
「私、彩楓は運営側だと思ってたから」
「いやなんでよ」
「だって彩楓第二回戦の私達の順番全部当ててたから」
それを言うなら乃亜もだけど、おそらくそれは私を運営だと思って同じのにしてただけなのだろう。
「私昔から勘はよかったから。だから乃亜も私の探してる戸塚 乃亜かと思ったんだけど」
「そっか」
私が刀を構えると、乃亜もナイフを両手に構える。
これで全部終わる。
最後の戦いが始まる。
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