第23話 犬井 蒼士
僕が頼りないから。
いつもそうだ。僕が何も出来ないからみんなが離れていく。
もう嫌だ。
「そんなに後悔してるならさっさと同じ場所に送ってあげる」
(このまま何もしなければ未来空と同じところに)
「な」
「何もしないで逝ったら、未来空に顔向け出来ないですよ」
僕は彩楓さんの刀をナイフで受け止めて、足を払う。
「未来空の仇ぐらいは討たせてもらいますよ」
「やば」
彩楓さんが何かする前に殺す。
ナイフを彩楓さんの首目掛けて振り下ろす。
「ちっ」
「おぉ、
僕はそれをナイフで弾く
「嘘でしょ。銃を避けたり弾いたり出来ないのうちと光亜だけかい」
「邪魔をするな」
「くっ」
「外した」
先に邪魔をする叶衣莉さんを殺そうと思ったけど、僕は銃の扱いに慣れてないから外れて足に当たった。
しかもその隙に彩楓さんには逃げられた。
「叶衣莉、戦える?」
「無理すれば立てる。歩けるかは微妙」
「分かった」
彩楓さんが叶衣莉さんの前に立って僕に刀を向ける。
「殺す。それで未来空の仇を打つ」
「まさに狂犬か」
狂犬、懐かしい。
母親にそう言われたことがある。
まぁそんなのどうでもいいけど。
「死ね死ね死ね死ね」
「くっ」
僕は彩楓さんに一発銃を放ち、刀で弾かせその隙にナイフの距離に近づく。
後ろに叶衣莉さんがいるから避けることは出来ないから刀を使わせることは簡単だ。
そしてこの距離になれば刀は使いづらいだけで利点はない。
「このまま押し切る」
「今の
「揺さぶりなんて効かないよ」
僕は彩楓さんのお腹に銃を突き付ける。
「終わり」
「そっちがね」
「ぁ」
僕が引き金を引く前に彩楓さんが頭をずらした。
そしてそこに叶衣莉さんの撃った銃弾が飛んできた。
「うちを忘れられても困る」
もちろん忘れてた訳じゃない。注意もしていた。
ただ、未来空の仇が討てると思って油断した。
「最後の最後で焦ったね」
彩楓さんが倒れている僕を見下ろしながら言う。
(まだだ、まだ身体は動く)
もう狙いなんて付けられないから運任せだ。
左手に持つ銃を適当に放つ。
(やった)
僕が撃った弾は彩楓さんの左足を掠めた。
動きを封じは出来ないけど、機動力ぐらいは奪える。
(一矢は報いたよ)
これで未来空に胸を張れる。
どうやら罪の発表中は意識があるようだ。
僕の罪が映される。
僕の罪は親殺し。
文字通りの意味で、僕は実の父親を殺している。
僕には弟と妹がいる。
僕よりも五歳年下の双子でとてもいい子だ。
でも父親はそんな弟と妹が嫌いだったようで、事ある毎に怒鳴りつけた。
理由は様々だったけど、一番の理由は自分が双子だからという同族嫌悪だったみたいだ。
父親には双子の姉がいて、子供の時に似ていることなどで色々と言われてきたそうだ。
だから弟と妹を見るとその時のことが思い出されて腹が立つんじゃないかと父親の姉、叔母さんが言っていた。
でもそんなのは僕達には関係ない。
弟と妹が産まれる前は普通だった。僕に何かすることもなく、優しい父親だった。
それが毎日罵詈雑言を飛ばす最低男になっていた。
それでもまだ暴力には出てないから弟と妹も耐えられた。
それも時間の問題だった。
父親はついに弟と妹に手を出した。
僕がそのことに気がついたのは暴力が振るわれてからしばらく経ってからだった。
少し前までは一緒にお風呂に入っていた妹が入ってくれなくなって少し寂しかったから、妹が一人で入っているお風呂に突撃した。
そこで初めて見た。妹の身体が痣だらけだったのを。
妹は泣きながら痣の理由を話してくれた。
僕が分かるのは感情だけだから、いつもの恐怖と区別がつかなかった。
父親は僕が居ないところで二人に暴力を振るっていた。その理由は分からなかったけど、そんなのはどうでもよかった。
その日は反抗期になりつつある弟も無理やり連れて来て三人で寝た。
そしてその日から僕は極力二人と一緒に居ることにした。
どうやら僕が居れば暴力は振るわないようだったのでこのまま見張ることにした。
でもそれだって常に見れる訳じゃない。
その日は来年には受験があるからと、参考書を買いに行っていた。
大学に行くかは決めてないけど、高校はいいところに行っていい仕事に就いて早く独立したかった。
そして弟と妹と暮らしても大丈夫なぐらいに稼いで二人を守りたかった。
だから少し分厚い参考書を買った。
もちろん既に参考書は持っているし、何冊も参考書を買うのは意味がないのも知っている。
でも僕が持っている参考書は内容を全て暗記出来るぐらいには読んでしまったから、新しいものを買いに来た。
参考書を買った僕は急いで帰った。
今日は家にみんな居るから危ない。
妹は痣がバレたくないと言って学校以外では家に引きこもるようになっていた。弟は反抗期と言ってもそんな妹を放っておけないようで一緒に居る。
本当は外に居て欲しかったけど、それを強要は出来なかった。
そして僕が家に着くと泣く妹とお腹を押さえて倒れる弟、そしてその弟に手を伸ばす父親が居た。
僕の身体は咄嗟に動いた。
手に持つ参考書の入った袋で父親の顔面を殴っていた。何度も、何度も。
父親が意識を無くす直前に「ごめんな」と言っていたように聞こえたけど、今更だ。
そして全てが終わった時に泣きじゃくる妹が僕に言った「お姉ちゃん、違うの」と。
僕は意味が分からず何のことか妹に聞こうとしたら「随分と派手に」と言って母親が来た。
母親は言った、弟と妹に暴力を振るってたのは自分だと。それをいつも父親が止めていたと。そして暴力を振るっていたのは父親だと僕にバレたら言えと言っていたと。
父親は弟と妹を嫌っていた訳じゃなかった。ただ自分と同じようになっても大丈夫なように慣らす意味を込めて怒鳴っていたんだと思う。
やり方がやり方すぎて納得は出来ないけど、理解はした。これこそ今更だけど。
母親はずっと僕と父親が嫌いだったようだ。承認欲求の塊のような人で、自分より弟と妹に構うものだから気に入らなかったと。
だから僕を使って父親を殺させた。
そうすれば父親は死んで居なくなるし、僕は少年院に送られて居なくなる。
これで邪魔者は居なくなって、尚且つ周りからは可哀想なお母さんみたいに見られて欲求も満たされる。
それを全て聞いた僕は絶望なんかしないで、もう一度凶器を持っていた。
どうせ少年院送りにされるなら、あいつも道連れにする。
残された弟と妹には苦労をかけるけど、あいつと一緒に居させるよりはいい。
僕は一気に距離を詰めて振りかぶる。
でもそれが振り下ろされることはなかった。
僕は変な人達に身体を押さえつけられた。
押さえつけられながらも僕は母親を睨む。
そんな僕を見て母親はこう言った「ほんと狂犬」と。
そこで僕の意識は途絶えた。
そして目が覚めると最初の部屋に居た。
僕はこのゲームで勝って叶えたかった。
弟と妹がちゃんと生きられる場所を作ることを。
だけど第一回戦は完全に守ることに徹底した。
僕のスキルは『守護』効果は『自分が守りたいと思ったものを守る』これは物でも使えるから、後ろにナイフでも何でも持っていて、それを守りたいと思えば守ることが出来る。
それは絶対で、守っている間はどんな攻撃も効かなくなる。
だから第一回戦はずっと隠れていた。
そして第二回戦が始まる前に自分の部屋を模した部屋に居た時は、色々と思い出すものがあったからさっさと部屋を出た。
それでも思い出すものはあって、一人うずくまっていたら、
最初は「この人も自分を認めてくれる人でも探してんのかな」とか思ったけど、乃亜さんはあいつとは違った。
あいつみたいに、他人からの承認なんかに興味はなく、常に我が道をゆくみたいな感じで好感が持てた。
でもそれ以上に好きになったのが未来空。
最初は僕でも感情が読めなくて怖かったけど、一緒に居る内に可愛く思えてきた。
未来空はただ無意識に自分のして欲しいことを頼んでいる。
無意識だから感情も読みにくいけど、逆に言えば全てが素ということになる。
そう思ったら愛おしくなった。
だから未来空の求めることは恥ずかしかったけど何でもした。未来空に僕の罪を話すのは怖かったけど、未来空の方がちゃんと話してくれたから、僕も話した。
そしたら未来空が僕を優しく包み込んでくれた。
そして言った「絶対にあたしが蒼ちゃんを勝たせる」と。
僕は嬉しかった。大好きな人が僕の為に行動してくれるのが。
だから僕はその夜、未来空のして欲しいことを全てやった。
最後には未来空が「もうだいじょぶだよぉ」と涙目で言ってきたのが悪かった。
僕の理性がおかしくなって未来空を堪能し続けた。
そして決めた。未来空が僕の願いを叶えてくれるなら、それまでは僕が未来空を守ると。
正直言って『守護』なんてスキルは嫌いだった。
だって僕は何も守れていないのだから。
だから未来空を守って弟と妹に顔向け出来るぐらいにはなりたかった。
でも結果はこれだ。
未来空を僕のせいで死なせて、結局僕も死ぬ。
どこまで行っても僕は変わらない。
罪の発表が終わって、僕の身体が消えていく。
最後に見える光景は、彩楓さんが叶衣莉さんを殺す場面。
(ざまぁみろ)
僕はこの最後の黒い感情と共に消えていく。
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