第22話 蛇目 未来空
(
今はあたしと彩楓ちゃんが乃亜ちゃんを攻めている。
もちろん彩楓ちゃんがいきなり裏切る可能性も考慮して警戒はしてるけど、今のところはそんな素振りがない。
「すごいねぇ」
「喋る余裕ないから」
とか言いつつちゃんと返事を返してくれる乃亜ちゃん好き。
正直驚いている。あたしと多分彩楓ちゃんがお互いに気にしてるから集中しきってないとはいえ、あたし達の攻めを全部凌いでいる。
彩楓ちゃんの刀は避けたり、ナイフで受け流したりして、あたしの掴みは彩楓ちゃんの刀の攻撃範囲に入って掴み難くしている。
「むしろ二人の方が殺りにくいのぉ?」
「そうだな。邪魔だから殺す」
「危なぁい」
彩楓ちゃんがあたしの首目掛けて刀を振り抜いた。
「やっと仲間割れた。疲れ、ちょい」
乃亜ちゃんが気を抜こうとしたところで
「今度は未来空を攻める番でしょ!」
「知らん。気を抜いてんのが悪い」
「叶衣莉殺れ」
「全く扱いが雑なんだよ。『彩楓以外は死ぬ』……ありゃ?」
あたしと
叶衣莉ちゃんのスキルは相手に言ったことを実行させる系のスキルだから、耳を塞いで聞こえなくすれば対処出来る。
「彩楓がタイミング言うから」
「うっさい。なら自分でタイミングずらせ」
「出たよ彩楓の逆ギレ。可愛いからって何でも許されると思うなよ」
「ほんとうっさいわ」
あたし達は何を見せられているのだろう。
「頑張れー」
「なんで乃亜は効いてないんだよ」
乃亜ちゃんは耳を塞いでいなかった。
そもそも乃亜ちゃんと叶衣莉ちゃんは相性が悪いはずだ。
乃亜ちゃんなら聞きたくなくても聞いてしまうはずだ。
だからもし叶衣莉ちゃんと初見で戦っていたら乃亜ちゃんは即負けていたはずだ。
「私の耳は特別だから聞きたくない音は聞こえないように出来るのさ」
「でも長時間は出来ないのか」
「そ。でも叶衣莉のスキルもインターバルがあんでしょ」
「……」
それはあたしも思ったことだ。そんな言った者勝ちなスキルを連発出来るなら最初からやってるだろうし、何より強すぎる。
「だから狙うなら今だよねぇ」
「ちっ。叶衣莉凌げ」
「無茶言うな」
叶衣莉ちゃんがあたしに銃を撃つがあたしはそれを全部避ける。
「終わりぃ」
「いいのか? 蒼のことほっといて」
あたしが叶衣莉ちゃんの首を落とそうと手を伸ばした時に叶衣莉ちゃんがそう言った。
分かっている。空気の流れから彩楓ちゃんが蒼ちゃんの方に行ってないのは。
それに蒼ちゃんのスキルなら簡単には死なないのも分かっている。
でも咄嗟にそんなことを言われたら振り向いてしまう。
「優しいな
あたしが振り向くのと同時に彩楓ちゃんの刀で首を斬り落とされた。
「蒼ちゃん。頑張って」
「未来空。いや……いやぁー」
約束破ってごめんね。先に逝くね。
どうやら死んでも意識だけは残るようで、あたしの罪が映されるのが見える。
あたしの罪は全裸徘徊のようだ。
まぁそうだろうとは思っていた。
何せあたしのスキルは『羞恥』効果が『全裸に近い程身体能力が上がる』というもの。
だからあたしは戦闘中は常に全裸に近い格好をしていた。
今までのあたしは傍から見たら全裸に見えるのだろうけど、実は全裸ではない。
蒼ちゃんと多分乃亜ちゃんも知ってるけど、これはコスプレなんかをする人が使う肌色のインナーをちゃんと着ている。
罪で映されているあたしももちろん着ている。
ただあたしの罪はそれだけじゃないようだ。
あたしは興味の無いことはすぐ忘れるから忘れてたけど、徘徊をしていたとある日に少し年上ぐらいの男に襲われそうになったことがあった。
あたしの家は何故かあたしに護身術を教え込んできた。
あたしからしても別に苦ではなかったからちゃんと続けた。
その結果あたしは並の男には負けない程度に強くなっていた。
だから襲われた時も何かされる前に相手を絞め落としていた。
何か嬉しそうだったからそのまま放置して帰ったけど。
でも思い出してみたら、あたしを襲ってこのゲームに参加させたのはあの男だった気がする。
確かまた、あたしが徘徊をしていたらあの男と変な集団がやって来て全員返り討ちにしたけど、そのせいで人を集めちゃって、あたしは動けなくなった。
その隙を突かれてスタンガンで気絶させられた。
そして起きたら最初の部屋に居た。
その時は配慮なのか布をかけられていたからそれを使わせてもらって目隠しをしていた。
でもやっぱり人の目には慣れてなくて、身体が少し震えていた。
蒼ちゃんには話したけど、あたしは別に自分の身体を他人に見られたい訳じゃない。
ただ服を着ると常に何かが触れていて嫌だから服を着るのが嫌なのだ。
インナーに慣れてからは服を着ても少しは平気になったけど、それでもやっぱり服を着るのは嫌だった。
だからインナーだけで外に出たのはほんの出来心だった。
そのはずだったのに、二回三回と気がつくとあたしはインナーだけで外に出るのが日課になっていた。
乃亜ちゃんにドMなんて言われた時は意味が分からなかったけど、確かにあたしは蒼ちゃんや乃亜ちゃんにいじめられるのが好きだった。
蒼ちゃんと一緒に過ごした夜は楽しかった。
あたしの言う事を何でも恥ずかしがりながらもやってくれる蒼ちゃん。
見ててとても愛おしかった。
このゲームで初めて人に興味が持てた。
最初はあたしを利用した光亜ちゃん。でも光亜ちゃんに指示出ししてたのが乃亜ちゃんだって聞いて乃亜ちゃんにも興味を持って、叶衣莉ちゃんは目付きがいやらしくて苦手だったけど……。彩楓ちゃんは何か隠し事をしてそうで、少し怖かった。
そしてやっぱり蒼ちゃんだ。蒼ちゃんは他の誰よりも好き。大好き。
あたしが人の目が苦手って言ったら守ってくれたし、あたしの徘徊のことを言っても優しく受け止めてくれたし、何よりあたしなんかと一緒に居てくれた。
だからあたしは約束をした「絶対にあたしが蒼ちゃんを勝たせる」と。
いつも語尾が伸びる癖もその時だけは出なかった。
あたしは別にこのゲームで勝ちたかった訳ではない。
ただ死にたくなかった。罪が明かされるのが怖かった訳ではない。ただ死ぬのが怖かった。
ほんとに社会的に死ぬだけなのか、もしかしたら本当に死ぬんじゃないのか、なんてことを考えて死なない為に向かってくる相手を殺し続けた。
だけど蒼ちゃんは違った。
蒼ちゃんには勝ちたい理由があった。
だからあたしは蒼ちゃんの為に乃亜ちゃん達を殺して蒼ちゃんを勝たせると決めた。
結果はこのザマだけど。
(消えてく)
罪の発表が終わったようで、あたしの身体が消えていく。
どうやら罪の発表が終わったら今回は消えるようだ。
最後に見えたのは、とても怒っている蒼ちゃん。
消える一瞬で見えてしまった。
蒼ちゃんの頭が撃ち抜かれる瞬間を。
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