第21話 光亜の気持ち

「行っちゃった」


 起きた時に隣に居たはずの乃亜のあさんが居なくてびっくりしたけど、ギリギリ「いってらっしゃい」は間に合った。


 乃亜さんからの返事はあったのかは分からないけど、なんとなくあったような気がする。


 後、私に出来るのは観客席に行って乃亜さんを応援することだけ。


 それに意味があるのかは分からないけど、せめて見届けなければいけない気がする。


 私は自室に戻って謎の扉の前に立つ。


 そして扉を開ける前に自室を眺める。


「こんなに再現しなくていいのに」


 私の部屋は引き取られた後の部屋を再現されていて、最初は普通の部屋だったけど、あんなことがあってからは私の部屋は物置にされていた。


 しかも普通に物を置くのではなく、わざと布団の上に置いたり、クローゼットの前に置いたりと嫌がらせじみたことをされていた。


「乃亜さんの部屋は物は少ないけど女の子の部屋って感じで可愛かったのになぁ」


 乃亜さんの部屋は必要最低限のものしか置いてなかったけど、クッションは様々な動物が描かれていたり、枕カバーや毛布、シーツなんかもアニマルプリントで可愛かった。


 乃亜さんにそれを言ったら「クッションはゲーセンで取ったやつで、ベッド関係はなんかセット割されてたから買った」と言っていた。


 乃亜さんらしくて少し笑ってしまったけど、もっと乃亜さんのことを知りたくなった。


 だから昨日の夜は色々話した。


 休みの日は何をしてるのか。学校ではどんな感じなのか。気になる異性はいるのか。なんていうことをいっぱい聞いた。


 ちなみに答えは、休みは寝てて、学校では空気な存在で、異性どころか私と出会うまでは人に一切の興味がなかったと言われた。


 何を聞いても乃亜さんらしい答えが帰ってきてなんか嬉しかった。


 ここを出たらもっと色んな乃亜さんを知りたい。


 たとえ乃亜さんが負けて罪が明かされても私は乃亜さんと一緒に居る。そう心に決めている。


 乃亜さんの話を聞いて一番嬉しかったのが、家がご近所だったこと。


 私の父親が乃亜さんのご両親を轢いたから、前の家から近い可能性あるかもと思っていたけど、まさか近づいているとは思わなかった。


 これならすぐ会うことが出来る。


 でも、どこまでいっても気になってしまう。


 乃亜さんは本当に私を恨んでいないのか、と。


 乃亜さんは優しすぎる。乃亜さんは認めないけど、優しい。


 それはいいことなんだけど、私から見ると私に遠慮しているように見えてしまう。


 私が気にしないようにと自分の気持ちに蓋をしているのではないかと。


 乃亜さんは絶対にそういうのを表に出さないからそれが怖い。


 本当は私を殺したい程恨んでいるのかもしれない。でももしそうなら、私は乃亜さんになら裁かれてもいいと思っている。


 でも乃亜さんはきっとそんなことはしない。だからこそ。


「ちゃんとお話しよう」


 ちゃんと面と向かって話してお互いに納得がいく結果になったらその時は……。


 そんなことを考えながら、私は扉を開けて観客席に向かう。


「え?」


 観客席に着くと、試合は始まっていた。


 始まっているのはなんとなく分かっていたからいい。問題なのは今の状況だ。


 乃亜さんが二体二対一の構図で戦っていた。


「乃亜さんが気にしてたのこれか」


 乃亜さんは試合についてずっと何かを気にしていた。


 それがきっとこの状況だ。


 特に何も言ってはないけど、私達は二人ずつの組み合わせになっていた。


 彩楓さいかさんと叶衣莉かいりさん。未来空みらくさんとあおさん。そして乃亜さんと私。


 だから私が居なくなれば乃亜さんは一人になる。そこを狙われるのは当然と言えば当然だ。


「乃亜さん……」


「あなた、あの狂犬の知り合い?」


 私が乃亜さんを心配していたら、私の隣で席に座っていた女の子……に話しかけられた。


「そうですよ。そういうあなたは乃亜さんに殺された女装趣味の人ですよね?」


「趣味じゃないよ。ただこの格好だと都合がいいだけ」


「人を騙すのに?」


「結構印象悪いね。別にいいけど」


 私はとりあえず女装さんと道を挟んで隣の席に座った。


「あなたは何でここに?」


「私を殺したあいつが死んで罪が明かされるのを直で見ようと思ってね」


「悪趣味な」


「ここに来てる奴らはみんなそんな考えだよ」


 今観客席には数人の人が居る。


 さすがに誰かまでは分からないけど、それでもこの人の言う通りで自分を殺した相手が死ぬのを見に来たのだろう。


「みんな悪趣味なのは分かりました。それで始まりはどうだったんですか?」


「別に普通だよ。刀と全裸があいつに迫って行って、それを小さいの二人が援護してたのをあいつは今も捌き切ってる」


「四対一ってことですよね」


「刀と全裸も動きには警戒してるから完全に四対一とは言えないけど、そうだね」


 あの四人を相手に生き残れてる乃亜さんはやはりすごい。


 でも。


「このまま続いたら確実にあいつは最初に落ちるね」


「ですよね」


 今は乃亜さんが上手く凌いでいるが、それも時間の問題だ。


「乃亜さん……」


「あいつの場合スキルのタイミングも難しいからキツイよね」


 乃亜さんのスキルのことは聞いた。確かに自我が無くなるとなると、一度使ったら解くことも出来るか分からないから安易に使えない。


「それでも突破口を見つけるのがあいつだよね」


 女装の人がそう言うと、未来空さんが死んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る