第20話 第三回戦前哨戦とスタート

「行ってくるね」


 私はベッドに眠る光亜みあにそう言い部屋を出た。


「まぁ行ってくるねとか言っといて転移待ちなんだけど」


 第二回戦の時は朝起きたらコロシアムに居たから今回もそうなのかと思ったら違った。


 光亜の話では殺された人達は、部屋に新しく扉が出来ていて、そこを開けるとコロシアムの観客席に繋がっていると言っていた。


「どうしよっかなー」


「一人で何言ってんだ?」


 私がどうするか考えていたら、広間のソファに座る叶衣莉かいりに声をかけられた。


「お嬢さん一人かい?」


「誰がお嬢さんだ。彩楓さいか未来空みらくあおも居るだろ」


 広間にはみんな揃っていた。


 もしかしたら私だけ転移をされなかったのではないかと心配していたのでよかった。


「おはようございます。昨晩はお楽しみで?」


「どこの宿屋だよ」


「ちなみに私は楽しかったよ」


 やったことは健全に手を繋ぎながら光亜と寝ただけだけど、いずれは……。


「光亜は大丈夫だった?」


 彩楓が気にしてないようで気にした様子で聞いてくる。


「うん。少なくとも私から見た感じでは大丈夫。今もぐっすり寝てるよ」


「自分の部屋に連れ込んでるのは普通に言うんだ」


「あなた達だって同衾してるでしょうが」


 私が言うと叶衣莉が目を逸らす。


「未来空と蒼ちゃんはしてること想像出来るけど、彩楓と叶衣莉って何してんの? 乳繰り合い?」


「そう。お姉様にうちの身体を楽しんでもらってる」


「叶衣莉の彩楓の呼び方安定しないよね」


「うちの年齢設定で変わるからね」


「なんか普通に流してるけど、別に乳繰り合いとかしてないから。叶衣莉に説教したりしてるだけだから」


 彩楓が無表情のままに言う。だけど私は見逃さなかった。彩楓の頬が少し赤らんだことを。


「何をニヤついてる」


「いやぁ、彩楓も叶衣莉には優しいんだなって」


「うっさいし」


 彩楓の頬が分かるくらいに赤くなった。


「そんなんじゃないし」


「なんて?」


「何も」


 彩楓が元のツンツンモードに戻ってしまった。


「それよかずっと気になってたんだけど」


「乃亜もか、うちもだ」


「私も少し気になってた」


 何にと言うと、未来空と蒼ちゃんが手を繋いでるのはいい。それよりも気になるのは蒼ちゃんなら分かるけど、あの未来空が恥ずかしそうにしている。


「あれ絶対何かあったよね?」


「一線越えたか?」


「乃亜が聞けばいいじゃん。そういうの得意でしょ」


「失礼な」


 さすがの私も未来空と蒼ちゃんの関係が崩れるようなことはしたくない。


 付き合いたてのカップルは親や友達に冷やかされるのを嫌う。最悪だとそれを気にしすぎて疎遠になったりする。かもしれない。


 私に経験がないから分からないけど。


「聞こえてるからぁ」


「だよね」


 未来空が私達に頬を膨らませてジト目を向けてくる。


「え、可愛いんだけど」


「蒼が睨んでるぞ」


 私の言葉を聞いた蒼ちゃんがこちらもジト目で睨んでくる。


「これはこれでいい。蒼ちゃん。好きな人が可愛いって言われるのは取られる心配するんじゃなくて、誇るんだよ」


 自分達の関係に自信があれば取られる心配なんてしないで、むしろ『私の可愛い彼女を見ることを許す』みたいにしてればいい。


 まぁこれも経験がないから光亜に同じことをされた私がそう出来るか分からないけどを


「僕は未来空をいやらしい目で見てる人がいないか見てるだけです」


「可愛いなぁって目で見るのは駄目?」


「乃亜さん。未来空を見てもらえます?」


「いいんだ。じー」


「自分で擬音つけるんだ」


 私はじっと未来空を見る。


(私目悪いな)


 輪郭は分かるけどしっかりとは見えない。


「近づいてよろし?」


「はい」


 私は未来空に近づいて至近距離で顔を眺める。


(まつ毛ながーい。肌も綺麗だし。)


 未来空は私と一緒で肌の手入れとかは気にしないタイプだと思っていたのに、なんだか裏切られた気分。


「未来空ってちゃんと見ると女の子の欲しがるもの結構備えてんね」


「知らないよぉ」


 未来空が何故か照れて顔を伏せる。


「どうしたのほんとに。昨日もたまに可愛い時あったけど今日はずっと可愛いんだけど」


「乃亜さんは未来空を見てもいいですよ。僕と同じ考えみたいで嬉しいです」


 蒼ちゃんがやっと笑顔になった。


「うちは?」


「駄目です」


 と思ったら叶衣莉に対しては急に冷たくなった。


「なしてさ」


「叶衣莉さんは未来空の身体しか見てないですもん」


「だっていい身体してんだもん」


「彩楓さんは興味なさそうなんでいいですけど、叶衣莉さんは駄目です」


 おそらく昨日の夜に何かあったのは確実だけど、蒼ちゃんの叶衣莉に対する視線が変わりすぎて見てて面白い。


「さいかぁー」


「言うと思った。自業自得でしょうが」


 そう言いつつ彩楓は叶衣莉の頭を撫でる。


「それで二人の馴れ初めは?」


 私はお楽しみ中の彩楓と叶衣莉を放置して、蒼ちゃんに聞く。


「馴れ初めって言うか何と言うか、ちゃんと話し合っただけですよ」


「やっぱり相互理解が仲良くなる秘訣か」


「そう言う乃亜さんはどうなんですか?」


「私? 私は……、同じだね。って言っても私はずっと光亜のこと好きだったけど」


 私は一目見た瞬間から光亜のことを好きだった。でも光亜は私のことを一枚壁を隔てて見ていた。


 それが昨日やっとその壁を壊すことが出来た。


 やっぱり仲良くなるにはお互いにちゃんと話すのが一番いい。


「蒼ちゃんの鼻ってやっぱり感情まで分かったりするの?」


「はい。だから叶衣莉さんみたいに未来空をいやらしい目で見る人は分かりますから」


 蒼ちゃんはそう言って叶衣莉にジト目を向ける。


「しゃいかぁー」


「変化つけても変わんないからな」


 そう言いつつ彩楓の撫で方が優しくなった。


「蒼ちゃんの鼻って試合中使ってる?」


「前の試合だと、カウンターのタイミングを計るのに使いました」


「そっか」


 相手の感情が分かるのなら「このまま続けて大丈夫なのか?」みたいな感情を読み取って動きを止める瞬間を待つことが可能だ。


「叶衣莉の舌は?」


「うち? うちは使ってないよ。あ、一回戦でなら使った。うちの場合相手を舐めないと詳しくは分からないから」


「叶衣莉が美少女じゃなかったらただの変態だよね」


「褒めんなや」


 褒めてるようで褒めてないんだけど、叶衣莉が嬉しそうなので何も言わないでおく。


 彩楓も察したようで、叶衣莉の頭を優しく撫でている。


「人の聞いといて自分は言わんの?」


「え、だって私と未来空と彩楓は使ってんの分かりやすいじゃん」


「まぁそうか。うちのは特に使ってる感ないよな」


 私の耳は相手の足音から銃の引き金を引く音などを聞いているし、未来空の肌は空気の流れを感じているだろうし、彩楓の目に至っては相手の行動が全て見れる。


「最強の五感が決まるな」


「そうとは言えないでしょ。だって」


『和気あいあいと話してるとこ悪いけど第三回戦始めるから殺しあむに転移するから。あ、でも今回はスタートの合図あるから始めたら駄目だからな』


 いきなり高圧的なアナウンスが流れた。


「何か一番ちゃんとしてる」


「確かにです」


 そして私達の身体から粒子が漏れ出る。


 転移はぱっと行われるのかと思っていたら、こんな無駄な演出があったらしい。


「さて終わりの始まりだね」


「厨二乙」


「叶衣莉にいじめられた、彩楓後で怒っといて」


「知るか」


 そう言いつつも彩楓ならきっと言ってくれるはずだ。なんか褒めてるように見えるけど、きっと気のせい。


「いってらっしゃい」


 転移する直前に私の部屋の方からそう聞こえた。


「いってきます」


 転移は始まってたからきっと聞こえないだろうけど言わなければいけない気がした。


 そして私達はコロシアムに転移された。


『さぁ、第三回戦スタート』


 号令と共に全員動き出す。


「転移に悪意ありすぎでしょ!」


 最初から分かってはいたけど、いざ見ると酷い。


 私が今からするのは三つ巴の五人バージョンなんかではない。


 彩楓と叶衣莉、未来空と蒼ちゃんがコンビを組んで一人の私を襲うちょっとしたいじめだ。


 それは昨日の時点で分かってはいたけど、転移した場所が彩楓と叶衣莉、未来空と蒼ちゃんが隣同士で始まった。


「そっちがその気ならやってやる。リア充爆発しろやー」


 私は叫び声と共に四人に向かって行く。

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