第19話 最終決戦前夜の懺悔

 光亜が私の部屋に入ってから三十分が経とうとしている。


 ちなみに私が光亜をお姫様抱っこして入った。


 光亜はあれから一言も喋っていない。正確には喋ろうと口を開こうとして閉じるを何回か繰り返している。


 私から何か言ってもいいけど、真面目な話っぽくてなんて切り出したらいいのか分からないから私も何も言えないでいる。


 ちなみに今、私達は床に座っている。


 私の部屋には椅子が無いし、クッションはあるけど一つだから使えない。だからベッドに座ろうかと思ったけど光亜に断られた。


 きっと遠慮しただけで、私の使ってるベッドに触れたくなかった訳じゃない、はず。


 だから結局床に座ることに落ち着いた。


 そして三十分間光亜を眺めながらどうしようかと考えていた。


「乃亜さん」


「なぁに」


 やっと決心がついたのか光亜が口を開く。


「乃亜さんは恨んでいる相手っていますか?」


「いるよ」


「……誰か聞いてもいいですか?」


「直接私に関係ないからあれだけど、光亜達をここに送った奴ら」


「え?」


 私は光亜達をこんなゲームに参加させた奴らに腹が立ってしょうがない。


 そのおかげで光亜達に会えたからなんとも言えないけど。


「どしたの?」


 光亜がぽかんとした顔をする。


 とても可愛い。


「い、いえあの。もっとこう、乃亜さんに関わった感じのやつです」


「うーん。分かんない」


 そもそも大して人に興味がない私が誰かを恨むなんてあるのか?


「乃亜さん」


「なに」


「乃亜さんのお父さんとお母さんを殺したの、私の父親なんです」


 光亜が目を瞑って身体を震わせながら言う。


「……」


「言い出しにくいからって乃亜さんに言わせようとしたのはごめんなさい。やっぱり私は乃亜さんに可愛いって言ってもらえるような人間じゃないんです」


「んっとね。今の沈黙は別に責める為のじゃなくて、『それがどうしたの?』ってやつね」


「え?」


「前も言ったけど、私からしたら両親の記憶なんてないからその両親を殺したのが光亜の父親だからって『そうなんだ』としか思わないんだよね」


 本当ならもっと責めるのかもしれないけど、私は本当にそこまで興味がない。


 両親のことは祖父から聞いたぐらいにしか知らないからそこまで思い入れがない。


「後、光亜の父親が私の両親殺したからって光亜が可愛いのには変わりないから」


 私はそう言って光亜の頭を撫でる。


「乃亜、さん」


「これは伝説のあれが出来るか? おいで」


 私は両手を広げて光亜を呼ぶ。


 光亜は少し戸惑っていたが、私の胸に顔を落とした。


「泣かないですよ。私が泣くのは違うと思うので」


「そうなの? ここは泣いた光亜を私が優しく慰めるとこかと思ったんだけど」


 そう言いながら光亜の頭を優しく撫でる。


「光亜はさ、きっといっぱい悩んだりしたんだよね。それなのにごめんね、私こんな性格だから何も気にしないで」


「いいえ。私が回りくどい言い方をしないで話しちゃえばよかったんです。乃亜さんに嫌われたくないからって先延ばしにして」


「私の光亜に対する愛足りない? 私が光亜を嫌うことは絶対にないよ」


 たとえ光亜にどんな過去があったとしても、私は光亜を嫌わない。恋は盲目ってやつだ。


「乃亜さんは私の罪を見てどう思いました?」


「見てない」


「え?」


 光亜が顔だけ上げて私を見る。


「光亜が知られたくないことなら私が一方的に知るのは違うじゃん?」


「そっか、まだ知らないんだ」


 光亜が身体を震わす。


「言いたくないならいいんだよ」


「いえ。乃亜さんには全てを知ってほしいです」


 光亜が私をちゃんと見ながら自分の罪を告白する。


 内容は引き取り先の親戚の人に襲われたこと。


「それ光亜の罪じゃなくない?」


「映像では私の罪にされてましたよ。私が誘惑したって」


「言ったもん勝ちかよ」


 ずっと気になっていた。このゲームの主催者がどうやって私達の罪を知ったのか。


 簡単な話だ。私達をこのゲームに参加させた奴から私達の罪を聞いた訳だ。


 それが嘘かほんとかなんかは関係ない。


 光亜の話だって世間に明かされれば、嘘でもほんとになり光亜が悪者になる。


「こんな汚れた私でも乃亜さんは一緒に居てくれますか?」


 光亜が涙を浮かべて、震えながら私を見て言う。


「ごめんね」


 私はそう言って光亜から少し離れる。


「そう、ですよ」


 光亜が悲しげに何か言いそうだったのでその口を塞いだ。私の口づけで。


「光亜が汚れてるって? そんなの知らないから。そうだとしても、私は今の光亜しか知らないし今の光亜が好き。この気持ちは光亜にだって否定させない」


 私はそれだけ言って、また口づけをする。


 今度は最初の時のような触れ合うだけのではない。もっと深く、光亜を感じれるように。


 そしてどれぐらいそうしてたのかは分からないけど、いつの間にか押し倒していた光亜を起こしながら唇を離す。


「光亜?」


 光亜が顔を真っ赤にして、私にもたれ掛かる。


「ご、ごめんなひゃい。ちから抜けちゃって」


「可愛い。もっかいしていい?」


「だめれす」


 どうやらほんとにやばいようなので抱きしめるだけにしておく。


「光亜の過去は光亜にしか分かんないから私が大丈夫とかは言わないけど、私は今の光亜が好き。多分これからどれだけ光亜のことを知ってもそれは変わらないのだけは私が保証するから」


「乃亜しゃん」


 光亜が私の胸に顔を埋めた。


 たとえ光亜が人を殺したなんて言われても私は光亜への気持ちは変わらない。


 ただ駄目なことは駄目と言うだけで終わりそうな気がする。


 まぁ人を殺したって言うなら私なんかこのゲームで何人を社会的に殺してるか。


「そういえば光亜ってこのゲームで誰か殺した?」


「いえ。乃亜さんと会うまで誰とも会わなかったので」


(乃亜しゃん終了か)


 少しガッカリしてしまう。


「それなら私よりも綺麗な手じゃん。それに光亜は私なんかよりよっぽど心が綺麗だよ」


 私は相手が傷つくかもなんて思って人と話したりなんかしない。


 光亜達相手なら少しは考えるかもしれないけど、それでも光亜程にはなれないと思う。


「乃亜さんは優しいです。甘えちゃいますよ?」


「いいよ。むしろウェルカムだし」


「私甘えたことがないので限度とか知らないですからね」


 ここで部屋に入って来て初めて光亜が笑った。


 とてもいい笑顔だ。守り続けたい、この笑顔を。


「っと、お楽しみはやることやってからしないとね」


「何かやることあるんですか?」


「そそ。やっとかないと明日負ける可能性大だから」


「やっぱり乃亜さんでもあの四人は厳しいですか?」


「うん」


 正直一体一なら未来空には勝てないし、彩楓も多分勝てない。叶衣莉のスキルが連発出来ないで叶衣莉に戦闘力が無ければワンチャンある。蒼ちゃんはスキルが私の読み通りなら勝てるかもしれない。


「まぁでもそれ以上にやばいことがあるんだけどね」


「なんですか?」


「始まれば分かるよ。それじゃ行って……、光亜も行く?」


 私は立ち上がって部屋を出ようと思ったけど、光亜が寂しそうな顔をしていたので、光亜にも聞く。


「いえあの、まだ立てそうになくて。そのえっと……」


 光亜が私のベッドに視線を向ける。


「ベッド? 使っていいよ。むしろ使って。よく眠れそう」


 と言いつつ今日は光亜を帰すつもりはないが。


「それでは、その。……ん」


 光亜がいきなり両手を広げてきた。


「あ、そっか立てないんだよね。いきなり甘えてくれて嬉しいよ」


 私は顔を真っ赤にしている光亜をお姫様抱っこしてベッドに寝かせる。


「ごめんなさい」


「次謝ったら怒るね。いや、怒るよりいじめた方が私が楽しいか」


「そ、そんなぁ」


「私だってずっと我慢してたんだよ。ごめんなさいって好きじゃないから」


「ごめんなさい。あ」


「夜楽しみにしてて」


 私は光亜に触れ合うだけのキスをして部屋を出た。


 どうやら部屋に入ることは出来ないけど、開けることは出来るようなのだ


 なので未来空と彩楓の部屋以外の部屋を開けていく。


「なんか罪悪感」


 人のプライベート空間を覗くのは悪い気がするが、それでもこれはやらないといけないことだ。


 そして十数個の扉を開けたところで。


「見つけた」


 私のお目当てが見つかった。


 用事が済んだ私は部屋に戻って光亜と楽しい夜(エッチなことはしてないよ。そういうのはここを出てからにするって決めたから)を過ごした。


 そして最終決戦の日を迎えた。

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