第18話 寝れない前夜

「おかえり」


「怒ってる?」


「なんで?」


光亜みあを殺したから」


 第五試合の勝者は彩楓だ。


 最後の撃ち合いは、彩楓さいかが弾をギリギリで避けて肩に当たり致命傷にならなかった為彩楓が勝った。


 正確な判定は分からないけど、勝った負けたは実際に撃たれた場合にどちらが先に死ぬかで決まるのかもしれない。


「彩楓も光亜も思いは一緒でしょ。なら光亜を殺したからって彩楓を恨んだりはしないよ」


 彩楓も光亜もルールの上で正々堂々と戦っていたのだから、私がとやかく言えることはない。


 恨むのなら、このゲームを主催した奴を恨む。


「それはそうと、彩楓の刀ってナイフを火で溶かして作ったの?」


「そう。いらないとこは溶かして、くっつけた」


「上手く作るよね」


「手先は器用だし、そんなに綺麗には作れてないから」


 そうは言っても刀として機能はしていたのだからすごい。


乃亜のあちゃぁん」


「なに、未来空みらく


 私が彩楓と話していたら、未来空が何か考えながら私を呼ぶ。


「光亜ちゃんの罪見るぅ?」


「それね。見ないよ」


 私には人の隠し事を盗み見る趣味はない。


 ましてや光亜のものは光亜が言いたくなったら聞けばいい。


「乃亜ちゃんならそう言うよねぇ。じゃああたしもいいやぁ」


「それなら僕もです」


「さいかぁー、あそぼー」


「普通に出来ないのか」


 両手を広げて走ってきた叶衣莉かいりを彩楓が頭を押さえて止める。


「普通だもん」


「急に可愛いな」


「お姉ちゃんが褒めてくれたぁー」


「彩楓なのかお姉ちゃんなのかどっちかにしろ」


「おねぇたん」


 彩楓が無言で叶衣莉の頭を撫でた。


「彩楓喜んでんじゃん」


「うっさいわ」


『はーい、第二回戦はこれで終了。敗者復活戦とかないから残った五人が第三回戦で殺し合うよ』


 罪の発表は終わったようで、第三回戦の説明が始まるようだ。


『第三回戦の説明の前に悲しいお知らせがあるよ。第二回戦で殺された人達は自室に送られてたんだけど、自分の罪が世界に発信されたのを知って十三人がを選んで自分から死んじゃったんだ。あぁ悲しい』


 わざとらしく『しくしく』なんて言っている。


「帰還。つまりここが現実じゃないのは確定かな」


「ここで自殺をしても現実に戻るだけってことぉ?」


「ここでそれを言うってことはうち達に『自殺すれば元の場所に戻れるよ』って言ってるみたいだな」


「そう言ってるんでしょ。そうすれば罪がバレないでここから逃げられるって思わせて」


「でも実際は死ぬのがトリガーじゃないですよね」


 そう。おそらく死んだから罪が発表される訳ではない。


「それだったら最初の人は死んでないからね」


 最初の説明の時に説明の為に一人消された奴がいた。あれは消されただけで別に死んだ訳ではない。なのに罪が明かされた。


 つまり、死んだら罪が明かされるのではなく、この空間? から元の現実? に戻ると罪が明かされるのだと思う。


「つまり自殺は救いじゃなくて、むしろ自分の首を絞める結果にしかならないってことだよね」


「死んだ奴を残したのもこの説明の為なのか?」


「そうかもね」


「胸糞悪い」


 叶衣莉が少し機嫌を悪くする。


『さて、では説明を始めよう。と言っても第二回戦とほとんど同じなんだけどね。違うのは、罪の発表は死んですぐにされるってことかな』


「すぐに?」


「嫌でもうち達に見せる為でしょ」


「なるほど」


『後、第三回戦が決着したら勝者以外の人はみんな強制帰還されるから』


「もう残してる意味もないだろうに」


「帰りたいなら自殺しろってことなんじゃなぁい」


「ほんと胸糞悪い」


 叶衣莉がイライラしているのが伝わってくる。


 そんな叶衣莉の頭を彩楓が優しく撫でる。


『それから第二回戦で言い忘れたけど、ルールは無用だから何してもいいよ。相手に薬を盛ったり、事前に腕を切り落としておいたりもありだし、試合中も何してもありだから』


「薬を盛るって、食べ物ないじゃん」


「腕を切り落とすだってぇ、刃物ないから出来ないよぉ」


「試合中何してもいいのも、今更ですよね」


「いちいち癪に障る」


 叶衣莉の機嫌がより悪くなる。


『ただ、自殺はしてもいいけど、殺しあむ以外で他殺はしちゃ駄目だよ。した場合は死刑だから』


「まぁ寝込み襲われたらアウトだもんね」


「でも部屋入るのって許可いるから寝込みを襲うなんて出来ないですよね?」


「そうなの?」


「はい。僕、未来空の部屋に入ろうとしたら弾かれましたよ」


「うちも。彩楓の部屋入ろうとしたら弾かれたから彩楓に抱っこしてもらって入った」


「僕もです」


(何その可愛い光景)


「結局、あおちゃんと叶衣莉って朝まで未来空と彩楓の部屋に居たの?」


「……はい」


 答えるのに間があったのは昨日の夜のことを思い出したからなのか。それならどんなことをしたのか気になる。


「うちは途中で追い出された」


「彩楓ひどーい」


「仕方ないだろ。叶衣莉が私の服を脱がそうとしたんだから」


「叶衣莉えろーい」


「お姉ちゃんと仲良くなりたくて」


 叶衣莉が彩楓の服を掴みながら上目遣いで言う。


「そういうのは仲良くとは違うだろ」


「裸の付き合いってやつ?」


「知らんし」


「ほんと仲良いよね」


 彩楓と叶衣莉を傍から見てると本当の姉妹のように見える。


 未来空と蒼ちゃんは未来空が女で蒼ちゃんが男の恋人な感じ。それで普段は蒼ちゃんが未来空に手玉に取られてるけど、二人きりになると蒼ちゃんが未来空を手玉に取ってる感じがする。


「その空間の壁になりたいな」


 もちろん両方の。


「乃亜の意味分からんが始まった」


「気にしないで。百合の花が咲き乱れてるからお花見してるだけ」


「百合でお花見するんですか?」


「そんな健全な目で私を見ないで。浄化される」


 蒼ちゃんの純新無垢な瞳で見られると、色々と浄化されていく。


「いいことじゃん」


「彩楓はすぐそういうこと言う」


「彩楓はツンデレだからな」


「デレあんの?」


「ベッドの上ではやさ、がっ」


 叶衣莉が何か言おうとしたところで、彩楓のアイアンクローが叶衣莉を止めた。


「彩楓痛い」


「痛くしてんの」


「それは認めたことになるぞ、いいのか。早くやめないとうちの頭がぁ」


「じゃあ今日は寝かさないからな」


「なんか怖いけど、興奮する」


 二人が仲良さそうで良かった。


『なんかお楽しみみたいだから説明終わりにする。第三回戦は明日だから今晩は楽しんでねー』


「こっちの声聞こえてんのかい」


「律儀に待ってたんだねぇ」


「そんな律儀さはいらないよ」


「それよりうちらってどうやって帰んの?」


 ここには転移で来たから部屋への戻り方が分からない。


「待ってれば戻れんじゃない?」


「それとも脱出ゲーム再び?」


「脱出ゲーム?」


「自分の部屋から出るのに一苦労しなかった?」


 私の言葉に全員首を傾げる。


「ちょいちょいちょい。え、出んのに苦労したの私だけ?」


「普通に開いたけど」


「私も」


「あたしもぉ」


「僕もです」


「なんでよ! 私の部屋扉開かなかったから部屋に何かあるんだって思って探したら壁に隠しスイッチあったから押してみたらやっと開いたのに」


 私だけハードモードでやらされている気がする。


「ほんとに普通に戻ったし」


 私が話終えると、場所が私達が最初に集まった広間に転移した。


「なんか疲れたから帰る」


「あたしも帰るぅ」


「僕も」


「うちも彩楓の部屋に帰ろ」


「よく分かってるじゃないか。説教してやる」


 未来空と蒼ちゃんは未来空の部屋に、彩楓と叶衣莉は彩楓の部屋に向かった。


「私は一人寂しく自分の部屋行こ」


 私が自分の部屋の扉を開けようとノブに手をかけた時。


「乃亜さん」


「光亜」


 光亜が隣に立っていた。


 もちろん近づいて来ているのには気づいていたが、光亜が話しかけてくるまでは気づかないフリをするつもりだった。


「乃亜さんのお部屋に入らせてもらってもいいですか?」


「もちろん。むしろ一緒に住もう」


 冗談で言おうと思ったけど、それもいいなと思ってしまった。


 私は真面目な表情の光亜と部屋に入る。

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