第16話 考察と既視感
「ただまぁー」
「叶衣莉、私に言うことは?」
「ご褒美のキスを懇願する」
「分かった」
私は叶衣莉の頬をキスをする。
「ってそうじゃないんだよ」
「でも、ちゃんとしてくれる乃亜のこと好きだよ」
「好きって言われたからって簡単に喜ぶと思わないでね」
私は叶衣莉から目線を外す。
「乃亜は可愛いなぁー」
叶衣莉がそう言いながら私の胸を叩いた。
「どこを触ってんじゃ」
「うるさい。頭に届かないんだよ、察しろ」
何故か私が怒られた。
「さいかぁー、叶衣莉が怒ったぁー」
私は彩楓に抱きついて胸に頭を押し付けた。
「知らんわ。てか私の胸に頭押し付けんのやめろ、無性に腹立つ」
「心音が近いせいかな、落ち着くんだよ」
「喧嘩売ってんな、そこに直れ」
「や、お姉ちゃんは私が嫌い?」
「その悲しそうな目やめろ。なんか罪悪感が芽生える」
彩楓はそう言って私の額にデコピンをした。
「いいもん。みぁー」
今度は光亜に抱きつく。
「彩楓がいじめた。怖かった」
「楽しそうでしたけどね……」
「光亜?」
「なんでもないですよ」
「ほんと乃亜ちゃんって感じだよねぇ」
未来空が蒼ちゃんにもたれ掛かりながらそんなことを言う。
「ほんとに分かってないんですもんね。光亜さん大変そうです」
「蒼ちゃんまで。みぁー」
「乃亜さんはそのままでいいんです。というかそのままでいてください、せめて私が死ぬまでは」
「どゆこと?」
「教えない」
光亜がそう耳元で囁いた。
「光亜のタメ口ってぞくぞくする。これからもそれがいい」
「善処します」
「私の為に頑張って」
あんまりこの言い方は好きではないけど、敬語は使うのも使われるのも苦手だから頑張ってほしい。
「光亜は叶衣莉の試合見てた?」
「あ、はい。光亜さんがまた見逃しそうだったので」
「好き。どうだった?」
「どう、と言われると難しいですけど、叶衣莉さんが『お前らは死ぬ』って言ったらみんな死んじゃいました」
私は光亜の言葉を少し考える。
結果。
「どゆこと?」
「私に聞かれてもそれがそのままなんです」
「つまり叶衣莉のスキルは命令系ってことか」
人を言葉で殺せる人はいるけど、さすがに一言言っただけで殺せる人はさすがにいやいはずだ。
なら、スキルと考えるのが妥当な考えだ。
「合ってる?」
私は叶衣莉に聞く。
「まぁあれ見たら隠せないよな。そうだよ、うちのスキルは命令系。でもそれ以上は教えないぞ」
「言っただけでそれが本当になるなら勝ち目ないよね。でもそんな強いだけのスキルはパワーバランスが崩壊するからデメリットもあるよね」
「乃亜って意外と頭が切れるよな」
「意外ってなにさ。私は頭いいもん」
私は頭が良くも悪くもない。
勉強に関しては特に頑張る気も無かったから普通を目指していた。
「そういえば未来空ってスキル使ってる?」
「使ってるよぉ。あたしのはぁ、分かりにくいんだよねぇ」
「つまり身体強化系か」
「教えなぁい」
さすがの未来空でも、スキルの内容は教えてくれないようだ。
「なんか私のスキルだけ使いづら過ぎない?」
「完全に自我を失ってるからな」
「僕のスキルも使いづらいですよ」
「どんなの?」
「それはお楽しみです」
やはり蒼ちゃんは天性のサディストかもしれない。
『第四試合、二分後でーす』
「ほんとやる気ないよな」
「それね。じゃあ次は誰でしょうクイズー」
「こっちもやる気がない」
「あるじゃん。名前を変えて新鮮味を持たせてんの」
本当は前、なんて言ったか覚えてないだけだけど。
「私は蒼ちゃん」
「僕ですか。じゃあ僕は彩楓さんで」
「私も犬井さん」
「うちは彩楓って言いたいけど、光亜だな」
「私は蒼さんで」
「あたしはぁ、光亜ちゃんかなぁ」
「今度はバラけたね。次の試合は絶対に見る」
私はそう決意を決めて次の試合を待つ。
そして消えたのは。
「蒼ちゃんか。てことは」
「最後は私と猫矢さんだね」
「……はい」
私は緊張している光亜の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だよ。光亜は強いから」
「でも私の強いは乃亜さんのスキルと似ているんです」
「私のスキルと?」
光亜が頷く。
つまりあの間は自我はないということになる。でもおそらくあれはスキルとは関係ないと思う。
(てことは、光亜は……)
「そんなことより乃亜さん。早く見ないと試合終わっちゃいますよ」
「……うん。そうだね、一緒に見よ」
私は光亜のことは一旦置いておいて、蒼ちゃんの試合を見に行く。
「ってどゆこと?」
私が見に行くと残りは蒼ちゃんともう一人の男だけになっていた。
そしてその男が蒼ちゃんをナイフで斬り続けている。
「あの男が蒼以外を全員瞬殺した。蒼は大人しそうな見た目してるから最後でいいと思ったんだろうけど、多分蒼のスキルで攻撃が一切効いてない」
蒼ちゃんは目を瞑りながら右手でガードするようにして左手は背中側に回している。
「防御系のスキルか。ああいうスキルって時間制の試合だと強いけど、こういう相手を殺すまで続く系だと結構辛いよね」
「確かに。自力で殺す手段がないと勝ち目がまず無いからな」
「未来空はどうなるか分かってる?」
私は退屈そうに見ている未来空に声をかける。
「んー、分かるよぉ。後少しで決着着くからぁ」
「どっちの勝ちで?」
「聞く意味あるぅ?」
「無いね」
『第二回戦、第四試合決着』
試合が終わって少しすると、蒼ちゃんが戻ってきた。
「怖かったぁ」
蒼ちゃんが涙を流しながら未来空に抱きついた。
「頑張ったねぇ」
その蒼ちゃんの頭を未来空が優しく撫でる。
「私は最後の蒼さんが怖かったですけど」
「光亜言うな。あれはあれでありだ」
最後がどうなったかと言うと、いくら斬っても死なない蒼ちゃんに痺れを切らした相手が手を止めて心を壊そうとしたのか、蒼ちゃんの服に手を伸ばした瞬間に左手のナイフを男の首に突き刺した。
「防御系スキルならカウンターが一番効率いいよな」
「私には無理だなー、焦れったくて」
「乃亜さんは行動力すごいですからね」
「褒めても抱きしめるぐらいしか出来ないよ」
私はそう言って光亜を抱きしめる。
「不安なのは分かるけど、そんな状態じゃ勝てるものも勝てなくなっちゃうよ」
「乃亜さんにはお見通しなんですね」
次は光亜と彩楓の試合が決定している。
その不安からか、光亜は緊張で身体が強ばっていた。
『大丈夫』や『頑張って』は敢えて言わない。
大丈夫なんて保証はないし、頑張ってなんて言ったら彩楓に負けろって言ってるようなものだから。
「私に勝てると?」
そんなことを話していたら彩楓が来た。
「勝てる勝てないじゃないよ。勝つ気でやらないとその時点で負けてるでしょ」
「まぁそれもそうか。でも私は勝つ。そして一回戦の雪辱を晴らす」
「なんかあったの?」
「乃亜に勝ち逃げされたことだよ。あれは絶対に許さない」
彩楓がアイマスクを取って私を睨む。
「やっぱりかっこいい。まぁなんか逆恨みされてるみたいだけど、私を殺したかったら光亜に勝ってからだよ」
「首を洗って待ってろ」
「そういえばここお風呂ないよね。不快感もないから気にしてなかったけど」
ここでは何故か汚れが付かない。
だからか知らないけど、お風呂に入りたいという気にはならない。
「風呂もそうだけど、結局食事も取ってないし、トイレだって行きたいと思わないな」
「女の子がトイレとか言わないの。お花摘みと言いなさい」
「乃亜は普段なんて言ってんの?」
「WC」
「なんか乃亜っぽいな」
普段といっても、そもそも人と話さないから言ったことはない。
「まぁそれも全部ここがVRなら説明がつくんだけどね」
「でも死んだ人ってどうなったんだろうか」
「そういえば観客席誰も居ないね」
第二回戦は死んでも観戦が出来るという話だったけど、誰一人として観客席には居ない。
「それもそうだけど、一回戦の方も」
「ここがVRって話で進めるなら、現実に戻ったんじゃない?」
「普通はそうだよな」
叶衣莉が何か煮え切らないことを言う。
「要するになにが言いたいの?」
「現実に戻るのはうちも同じ意見なんだけど、その後ってどうなんのかなって」
「後?」
「うちらの罪はどうゆう方法かは分からないけど、明かされてるんだろ? ならセクハラやパワハラなんかの罪の奴らは制裁を受けるよな」
「そういう話ね」
つまりここで死ぬということは、元の場所に戻った時に裁かれる証拠が出てきてしまう。
最初に『身体は死なない』と言っていたのは、罪が明かされて心が死ぬという意味かと思ったが、彩楓の質問の『死なないんじゃないのか』と合わせるとここでは身体は死なないになる。
心が死んだ人は簡単に命を捨てる。
だからここでは死なないけど、ここを出たら死ぬかもねみたいなことかもしれない。
それと同時に思い出すのは。
「彩楓は」
『五試合目始める。今』
私が彩楓に話しかけようとしたら、彩楓と光亜が姿を消した。
(タイミングよ)
「よし、それはそれだ」
私は切り替えて光亜と彩楓の試合を見に向かう。
「既視感」
私が見に行くと光亜以外の人は全員真っ二つに斬られ、光亜は蒼ちゃんと同様に斬られ続けていた。
「最後まで見てるよ」
私は届くはずはないけど、届くといいなと思いながらそう呟いた。
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