第15話 二人の関係

「ただいまぁ」


 未来空みらくが目の前にいきなり現れた。そして早々にあおちゃんに抱きついて体重をかける。


「おかえりなさい、未来空」


「終わるの早くない? 私何も見れなかったんだけど」


「だってぇ、人なんて近づいて首をへし折れば死んじゃうんだよぉ」


 未来空は簡単に言うが、それには相当の技術が必要だ。そんなのは日常生活では普通得られない。


「凄かったよな。全員瞬殺」


「見たの叶衣莉かいり?」


「見たぞ。銃弾を全て避けて首を捻る。やったのはそれだけだけど、凄いのは分かった」


「私も見たかったのにー」


 私は叶衣莉に後ろから抱きつく。


乃亜のあお前……」


「どしたの?」


「ちょっと揉ませろ」


 叶衣莉はそう言うと私の服の中に手を入れた。


「ちょっ、何? くすぐったいんだけど」


「お前、実はそこそこあるな?」


「んー、CよりのB」


「くっ」


 叶衣莉が謎のダメージを受けて胸を押さえる。


「叶衣莉はちっちゃくて可愛いんだからいいじゃん」


「ちっちゃいのはいいんだ。それも使いようだから。でもそれはそれとして、おっきい胸は揉みたいだろ!」


「力説されても。てかいつまで揉んでんのさ。恥ずかしいからそろそろやめて」


 私が言っても手を抜こうとしないので、無理やり引き抜いた。


「ご無体な」


「未来空じゃ駄目なの?」


 あそこに自分から胸を揉ませにきそうな、というかさせる子がいるのに。


「未来空はやだ。なんか親子みたいで私が親離れ出来ないちっちゃい子みたいに見えるから」


「納得」


「納得されたらされたでなんかあれだな。さいかぁー」


「おい。胸の話が終わったら私のとこ来んのやめろ。そして毎回私の胸に顔を埋めんな」


「埋める谷はどこに」なんて酷いことは言わないで、心に留める。彩楓さいかに睨まれたけど、きっと気のせい。


「未来空」


「なぁに?」


「揉ませて」


「いいよぉ」


 私がそう言うと布をたくし上げようとしたのでそれは止める。


「直でやってよぉ」


「それは昨日蒼ちゃんとやったでしょ」


「やったけどぉ。乃亜ちゃんにもやってほしいのぉ」


「未来空!」


 蒼ちゃんが顔を真っ赤にして未来空の腕を掴む。


「可愛かったよぉ、必死に責めてくる蒼ちゃぁん」


「超見たい。でも私が居たら出来ないよね。今度動画撮って見せてよ」


「いいよぉ」


「よくないですよ!」


 蒼ちゃんが今にも泣き出しそうなのでこれくらいにする。


「じゃあ揉ませて」


「直じゃないならだめぇ」


「強情な。じゃあ私が入る」


 私はそう言って未来空の布の中に入った。


(ほんとに何も着てないよ、ん?)


 布の中は未来空の一糸まとわぬ姿がある。


「ねぇ」


「んっ」


「ごめ」


「んっ〜」


 声を出したら吐息が当たるから気をつけようと思っていたのに、つい喋ってしまった。


 それだけ未来空の身体は綺麗だった。うん。


(そういうやつか)


 私はそこから意識は無かった。


 少しの時間は経っていたようだけど、何も覚えていない。


 ただそこに未来空が顔を真っ赤にして、ビクつきながら倒れていた。


「のあちゃん。しゅき」


「やば、可愛い」


「分かります。未来空はこうなると可愛くって、もっといじめたくなるんですよね」


 蒼ちゃんがそう言うと、未来空に覆いかぶさり耳元で囁く。


『僕以外の子にそんなにされて、お仕置が必要だね』


「ひゃい」


『乃亜さんの方が良かったの? それなら僕以外見れないくらいにいじめてあげるね』


「ひゃぁい」


 未来空の目にハートマークが見える。


(蒼ちゃんって実はサディスト?)


 それならあの二人はいいコンビと言える。


「蒼さんが何言ったか乃亜さんなら聞こえてます?」


 私が一人でそんなことを考えていると、光亜みあが私の服の袖を摘みながらそんなことを聞いてくる。


「うん。蒼ちゃんがより好きになった」


「ちなみになんと?」


「駄目です!」


 蒼ちゃんが私の口を両手で塞ぐ。


 その際、私の方が少し身長が高いせいで首が後ろ少しに折れる。ちょっと痛い。


「忘れてました。乃亜さん」


 蒼ちゃんが手を離して、私の手を引いて隅へ連れて行く。


「今聞いたことは内緒にしてください」


 蒼ちゃんが顔を真っ赤にして頭を下げる。


「んー。そうだ」


 私は蒼ちゃんの顎に指を当てて顔を上げる。


「じゃあ、私に鞍替えしたら言わないであげる」


 私は蒼ちゃんの耳元にそう呟く。


「お断りします。私は未来空が大事なので」


「即断即決好きだよ。いいよ、内緒にしとく」


「ありがとうございます。でもなんでですか?」


 そもそも最初から言う気も無かった。


 私が言いふらしたせいで二人の関係にヒビが入るのは避けたかったから。


「私は蒼ちゃんと未来空の関係が好きだから。だからもし自分の発言の為に私に鞍替えするなんて言ってたら、なんて話はいいよ。とにかく私はさっき何も聞いてないから。でもたまにさっきの可愛い蒼ちゃんを見せてね」


 私は最後だけ耳元で呟いて蒼ちゃんの頭を撫でた。


「いつもは駄目ですか?」


「言葉のあやちゃん。いつも可愛いけど、別のベクトルで可愛いって意味」


「よかったです」


「それより未来空が物欲しそうにしてこっち見てるから遊んであげて」


「ふふ。はい」


 私達は元の場所に戻る。


 光亜に「何話してたんですか?」と聞かれたが「乙女の秘密」と返すと「内緒話、秘密。……爛れた関係?」とすごい妄想力を展開していたので、とりあえず頭を撫でておいた。


 すると。


『第三試合始めます。二分後に』


「だんだん説明適当になってない?」


「尺がねぇ」


「未来空復活?」


「蒼ちゃんが優しく介抱してくれたぁ」


 当の本人は顔を真っ赤にしている。


 もちろん何をしていたのかは聞こえていたが、それは言わない約束だ。


「さて、次は誰だ選手権」


「乃亜さんも適当になってます?」


「二分しかないから早くしないと。私は叶衣莉で」


 理由は手を挙げてぴょんぴょんしてるのが可愛かったから。


「うちはうちだ」


「ブレないね」


「私も叶衣莉」


「じゃああたしもぉ」


「それなら僕も」


「じゃあ私もです」


 何故か流れでみんな叶衣莉に投票してしまった。


「オッズが」


「何も賭けてないでしょ」


「賭けなんていいことないからね」


「そもそもこれなんの為にやってんの?」


「二分の暇つぶし」


「すごい納得した」


 彩楓が何故か呆れている。


「そろそろ二分だね」


「うちの番が来るぞ、刮目すると」


 そこまで言って叶衣莉が消えた。


「当たったー」


「みんな当たってるから」


「彩楓はすぐそうやって冷めることを言う」


「うるさい」


 なんだか彩楓の機嫌が悪い。


「そうか。叶衣莉が居なくなったから寂しいのか」


「うっさいし」


 彩楓が照れて後ろを向いてしまった。


「そんなんじゃないんだよ」


「え?」


 彩楓が後ろを向きながらそう呟いた。


「さい」


『第二回戦、第三試合決着』


「え?」


 私が彩楓に話しかけようとしたらそんなアナウンスが聞こえた。


「また見逃したぁー」


 私の悲痛な叫びがこの場に響く。

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