断罪の殺しあむ 〜社会的死を防ぐ為に殺し合う〜

第14話 優しい子

「なんかすごい虚無感」

　試合を終えた私は、試合前に居た場所に戻されていた。

　そして何故か記憶が曖昧になっている。

「最後どうなったの？」

　私は確か、スキルを発動したはずだ。人格が崩壊すると書いてあったけど、ほんとに丸ごと入れ替わっていたように何も覚えていない。

「乃亜（のあ）がバカ笑いしてた」

「彩楓（さいか）、面白くない」

「ほとんど合ってるぞ」

「叶衣莉（かいり）まで彩楓の冗談に乗らなくていいの」

　私がバカ笑い？ そんなのする訳がない。

　こんな立てば芍薬（しゃくやく）座れば牡丹（ぼたん）、歩く姿は百合（ゆり）の花を体現したような私が。

　私は「真実を言って」という目を光亜（みあ）に向ける。

「えっと、その。わ、笑ってはいました、でもバカって言うよりは怖かったです」

「未来空（みらく）再現」

「えぇー。ひゃは、ひゃははははは」

「未来空どうしたの？ 怖いよ」

「さっきの乃亜さんにそっくりですよ」

　蒼（あお）ちゃんが曇りなき眼で私を見ながら言う。

「私、スキル封印します」

「スキルなしで私達に勝てると？」

「もち。全員殺す」

　傍から聞いたらとんでもないことを言っているが、ここでらそれが普通のことだから、何ら気にならない。

「舐められてるね。乃亜がさっき優位を取れたのは耳があったからなのに」

「ふっふっふ。甘いぞ彩楓。私を耳だけの女と思ってもらったら困る」

「他に何かあんのか？」

「ない！ なんて正直に言ったら秘密にならないから言わない」

「言ってるよな」

「乃亜ちゃんのそういうとこ好きぃ」

「みあー」

　私はいじめっ子から逃げて光亜に抱きつく。

「大丈夫ですよ。素直なのは美点ですから、伸ばしていきましょ」

「みゃーがそう言うならそうする」

「みゃー？」

「みゃー」

　光亜だからみゃー。なんとなく思いつきで言っただけで意味はない。

「どしたの光亜」

「あ、いえ。なんでも」

　光亜が何故か少しだけ寂しそうにする。

「乃亜ちゃんの天然さぁん」

「なにが？」

「教えなぁい」

「教えろぉ」

『さてさてさて。罪の発表にいくよ。興味のない人はスルーでいいから』

　私が未来空を尋問（未来空なら喜びそうだからしないけど）をしようとしたら、最初に聞いた機械音声が聞こえた。

「みらくぅ」

「乃亜ちゃん興味無さすぎぃ」

「逆に人の隠し事に興味ある人ここな居る？」

　みんなお互いに顔を見合わせる。

「彩楓は興味津々？」

「私を何だと思ってる」

「……変人？」

「乃亜にだけは言われたくない」

「まぁいいや。みらくぅ」

　私はまた未来空に迫る。

　いくら興味が無いと言っても私の耳には聞こえてしまう。

『まず最初に呆気なく死んだ男は、DVの常習犯のようだね。そして次に死んだ男は、うわ、教師のくせに女生徒と鍵のかかった部屋に閉じこもって襲ってたみたいだね。次の女は時には身体を使って男を騙し、金を奪って生活してたと。最後の子は……。自分を女だと思って近寄ってきた男にはわざとセクハラさせて証拠を見せて脅したり、女なら着替えを一緒にしたり、トイレも一緒。総じてクズ』

　コロシアムの客席の真ん中のところには大きなスクリーンのようなものがあり、そこにはさっきの人達の罪が映像になって映し出されている。

「みらくぅ」

「乃亜ちゃんってほんといい子だよねぇ」

　私は未来空の包容力のある部分に顔を埋める。

　未来空はそんな私の頭を優しく撫でてくれる。

「罪悪感ですか？」

　蒼ちゃんが不思議そうに聞いてくる。

「ううん。ああいう人の汚いとこ見んの嫌いなだけ」

「優しいんですね」

「優しくないよ」

　全員私が殺したから罪が明かされているのだから、私は優しくなんてない。

「乃亜さんは優しいですよ」

「光亜？」

　光亜が私の制服の袖を指で摘みながら言う。

「乃亜さんは何も出来ない私を守ってくれたり、私なんかを好きだって言ってくれたり。乃亜さんのそんなところが私は優しいと思います」

「そうそう。乃亜は私にいい百合をくれるしな」

「叶衣莉」

「うん。乃亜ちゃんはぁ、自分に気づかれないようにぃ、みんなに優しいんだよぉ。今だってぇ、あたしを抱いて興奮させてくれるしぃ」

「ごめん未来空。痛かったよね。包容力がすごくて」

　私は未来空から離れて、包容力（胸）ナンバーツーの蒼ちゃんを抱きしめる。その際に未来空が残念そうな顔をしたけど無視した。

「ふふ。乃亜さんは甘えたさんですね。僕からも言いますね。乃亜さんは一人で居た僕を心配してくれました。そんな人が優しくない訳がないです」

「蒼ちゃん」

「なんかみんな言ってるから次いでに。乃亜は優しいよ、てか甘いとも言える。みんな敵なのに仲良くなろうとして。普通こんなゲームに参加させられてんのに、仲良くなろうなんて思わないだろうし」

「彩楓」

　みんなに優しいなんて言われても、私には自覚が持てない。

　私がしてるのはどこまでいっても自己満足だ。

　光亜のことは単純に可愛いからやってることで、叶衣莉のは必然で、未来空のは不可抗力で、蒼ちゃんのは私のお節介。彩楓のは自分でもよく分からない。

「とにかく。乃亜さんは優しいんです。分かりました？」

　光亜が私の顔を覗き込みながら言う。

「今はうんって言っとく。でもみんなの罪を暴いたら、またこうなるけど」

「そう簡単には殺られませんよ。皆さん強いですから」

　確かにみんな強い。特に未来空。

「私、未来空に勝てるかな？」

「無理だよぉ。いくら乃亜ちゃんに武術の心得があったとしても、かじった程度じゃあたしには勝てないよぉ」

「分かるの？」

　私はここに居る誰にも武術の心得があるなんて言っていない。

「いくらぁ、このゲームの弾が遅いからってぇ、弾を避けるのは簡単じゃないからぁ」

「じゃあさっき私が最後に殺した子は？」

「あれもぉ、多分やってたぁ。けどぉ、長続きしなかったんじゃないかなぁ」

　もしかしたらそれがあの子が女の子になったきっかけなのかもしれない。

　まぁ別に興味はないけど。

「よし。未来空の試合見て対策考えよ」

「出来るといいねぇ」

『そろそろ第2試合始めます』

　スクリーンの映像が終わり、機械音声から第二回戦の説明をしていた人の声がした。

『試合開始まで後二分です』

「さすがに五分はくれないんだ」

「尺的にねぇ」

「次は誰か予想する？」

「私が殺る」

　叶衣莉が手を挙げて宣言する。

「光亜は誰だと思う？」

「一人じゃない可能性だってあるんですよね」

「いや、一人じゃない？ 知らないけど」

　彩楓が何の確証もないことを言う。

「じゃあ一人を予想しよう」

「なら、蒼さんで」

「僕ですか？ 僕は彩楓さんかなって思いますけど」

「私は蛇目さん」

「じゃああたしは光亜ちゃんしかいないじゃぁん」

「別に同じ人にかけちゃいけないルールないけど。ちなみに私も未来空」

「なんでぇ？」

「それは単純明快。次は未来空フラグを立てまくったからな」

　これだけ未来空の話をしておいて未来空じゃなかったら。

「これで未来空じゃなかったら恥ずかしいやつだな」

「うっさいよ叶衣莉」

　そんなことを話していたら二分経ったようだ。

　そして未来空が消えた。

「ほら見たことか。ふぅ」

「すごい安心してんじゃないか」

「叶衣莉が変なこと言うからでしょ」

「それより乃亜さん。見なくていいんですか？」

「あ、見る見る」

　私は未来空対策の為にコロシアム内を観に行く。

『第二回戦、第二試合決着』

「は？」

　私が観に行く前に試合が終わってしまった。