第12話 第二回戦(説明)

「目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった」


「何言ってるんですか?」


「気にしないで、独り言」


 私達は今、闘技場に居る。


 事の経緯? そんなの昨日寝て、今日起きたらここに居た。


 そして私の光亜みあセンサーが発動して、光亜と話している。


「闘技場だよね?」


「そうですね。このゲーム的に言うならコロシアムなんでしょうけど」


「そうじゃん。なんか厨二くさい名前ついてたね」


 今ならなんとなくは分かる。


『断罪の殺しあむ』裁けない罪を裁く場所。最初のバトルロイヤルは予選で、これが本戦。


「観客はいないみたいだけど」


「まぁ見せられるようなものじゃないですからね」


 この闘技場もといコロシアムは、観客席がちゃんとある。でも人は居ない。


 私達はコロシアムを見下ろせる、いわゆる実況席のあるような場所に居る。


「つまりこれってスポンサーとかいないってことになるの?」


「どうなんでしょう。この規模のものを個人でやってるとは思わないですけど」


「あぁー、乃亜のあちゃんだぁ」


「乃亜さん、光亜さんおはようございます」


 私達が話していると、未来空みらくあおちゃんがやって来た。


「おは。私としたことが気づかなかった」


「乃亜さん耳栓付けてるからですよ」


「これはお恥ずかしい」


 私は基本的に耳栓を付けている。付けていても周りの音は普通に聞こえるからちょうどいいのだ。


 ただいつも付けているから、付けていることを忘れてしまう。


「まぁつけっぱにすんだけど」


「乃亜さんは専用の対策出来ていいですよね」


 蒼ちゃんが羨ましそうに私を見てくる。


「蒼ちゃんって嗅覚?」


「はい。マスクである程度は大丈夫になるんですけど、それでも辛いです」


「じゃあ私が一番平気なのか。彩楓さいかってどうなの?」


「なんで私には気づく」


 未来空と蒼ちゃんとは反対側から彩楓と叶衣莉かいりがやって来た。


「長年の付き合いだからな」


「会って一日だろ。で、何?」


「彩楓の目ってアイマスクしてても見えるみたいだけど、透視してんの、エッチなの?」


「馬鹿にしてんな。私の目は良すぎるからアイマスクの生地の隙間も見えるんだよ。だから周りも見えんの」


 アイマスクの生地の隙間が見えるということは。


「つまり服も透けて見えるということか!」


「興奮しながら言うな。……そうだよ」


「私もそんな世界を見てみたいけど、多分大変なんでしょ?」


「そこは乃亜だよな」


 彩楓が少し嬉しそうに笑う。


「普通はこの目のこと知って言うことは『変態』とか『その目ほしいな』とかなのに」


「まぁ私も耳で嫌な気分になったことだってあるからね。多分耳がいいってだけを伝えたら『いいなぁ』とか言うんだろうけど、耳栓ないと結構辛いよ」


「そこは特異体質持ちの悩みとして分かってもらえるのか」


「未来空以外ね」


「あたしだって分かるよぉ。あたしも最初は辛かったからぁ。でもぉ、逆にそれを快感にしただけぇ」


 そう出来たらどれだけよかったか。


「叶衣莉は、まぁ辛いよね」


「そうだな。うちの場合は食べ物も選ばないとたまに吐くからな」


「みんな苦労してんだね」


 特異体質は一般には羨ましいと思われることが多いのかもしれないけど、良すぎるのも考えものなのだ。


「でも対抗策が一番無いのって未来空?」


「そうだろうな。全身覆ったところで布が擦れるのには変わらないし。逆に脱いだところで何も当たらない場所なんてないしな」


 それを考えると、未来空がドMになったのはしょうがないことなのかもしれない。


 逆になってなかったら、毎日苦悩していたかもしれない。


「そんなことよりぃ、なんか始まりそうだよぉ」


 未来空が蒼ちゃんにもたれながら、コロシアムの方を指さしながら言う。


「蒼ちゃんにもたれかかるな、ってかあれって」


「乃亜も見た事あるか」


「彩楓もってことはやっぱりそうか」


 私と彩楓、それに叶衣莉も見たことがあるならそうなのだろう。


 コロシアムの真ん中には、私を襲った集団が居た。


 私にしては珍しく人を覚えていた。すごい。


「さてさてさて。何が始まるのかな」


『さぁ、バトルロイヤルを生き残った二十五名の皆さん、これから第二回戦が始まります。二回戦はランダムに選ばれた五人ずつによる殺し合い。持ち物はバトルロイヤルで集めたものだけしか使えません。その試合中に拾ったものなら使えますが、三回戦では持ち物がリセットされます』


(なるほどね)


 一回戦でただ隠れるだけの人は、弾なんかが無くて苦労するようになっているようだ。


『ちなみに対戦相手は試合が始まるまで分からないようになっています。後今回は死んでもすぐには消えないでその場に残ります。後、降参とかはないので。それと罪の発表は最後の一人が決まったタイミングでされます』


 つまりは死体を盾にでも使えということか。


『最後に、今回死んでも試合が終われば生き返ります』


 これで無人の観客席の理由が分かった。


 わざわざ見る奴がいるのかは分からないけど。


『では、五分後に試合が開始されます。それでは』


 謎の集団は言い終わると姿を消した。


「なんで五分後?」


「心の準備とかじゃないの?」


「それが変なんじゃん。今までは急に始まってたのに」


 今まで何の準備も無しにいきなり転移させられていたのに、今回は猶予がある。


「考察の時間とか不安を募る為とかじゃないの?」


 彩楓がめんどくさそうに言う。


「不安を募るのはともかく考察の時間はないんじゃない?」


「知らないよ。例えば最初の説明に何かあったとか」


「最初ね。ってそういえばここに居るのって私以外最初に質問してた人だよね」


 今更ながらに思い出す。最初の部屋で質問をしていた五人がここに居る。


「よく覚えてるなって思ったけど、乃亜は耳が良いんだもんな」


「叶衣莉は結局スキル使わなかったの?」


「別にうちは使わないなんて言ってないだろ」


「蒼ちゃんに言ってただけと」


「あれ叶衣莉さんだったんですか。僕も使いましたけど」


 みんなちゃんとスキルを使っているようだ。


 私も一回は使って効果を確かめればよかった。


「未来空は以外だよね、自分でみんなの心配して」


「んー、別にぃ、あたしは思ったこと言っただけだよぉ」


「未来空っぽくていいや。光亜は叶えたいことがあると」


「はい。本当に叶うなら」


 光亜が真剣な表情で答える。


「それで彩楓は……」


「何だよ」


「忘れた。最初に言うから印象薄いんだよ」


「知るか」


 それから少し雑談をしていたら五分が経った。


 そしていきなり私はコロシアムの中に居た。


 みんなの姿はない。


 彩楓の質問を忘れた訳ではない。


 ただ不思議に思っただけだ。


 何で彩楓は説明前の死なないことを知っていたのかを。


 今はそれを置いておいて、目の前の試合に集中する。

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