第8話 自己紹介
「落ち着いた?」
「うん」
しばらく泣き続けた私は、涙が止まったタイミングでソファに移動した。
今私は
「でも手は離さないんだ」
私は光亜と彩楓の手を握っている。
本当は抱きつきたいところだけどそれは我慢する。
「離した方がいい?」
「シラフの時とのギャップがやばいんだけど、可愛すぎか」
「そういうお世辞いらないよ」
「
「彩楓さんでしたよね。彩楓さんも乃亜さんに何か言われたんですか?」
「この眼をかっこいいって」
彩楓がアイマスクを片目だけずらして緋いその眼を見せる。
「綺麗」
光亜が彩楓の眼を見てそう呟く。
「やめろぉ、そんな穢れのない目で見ながら言うな。信じたくなっちゃうだろ」
「ほら、やっぱり彩楓の眼はかっこいいし綺麗だよ」
「くっ。乃亜は乃亜で上目遣いで可愛く見てくるし」
「……」
「ほら猫矢さんが寂しそうな顔してるよ。見ないと勿体ないよ」
私は彩楓にそう言われ光亜の方を見る。
すると光亜が握る手の力を強めた。
「乃亜さんはやっぱり可愛い子だったら誰でもいいんですか?」
光亜が私の目をしっかり見て聞いてくる。
「そんなことないよ。私は確かに彩楓も可愛いと思うし好きだけど、私の一番好きなのは光亜だよ」
「ほんとですか?」
「うん」
私が本心で言っているのが伝わったのか、光亜の表情が少し柔らかくなった。
「私は結局遊びだったの?」
すると彩楓が茶化すように言ってくる。
「彩楓は初対面が特殊だったからキスしたいって思わなかったんだよね」
「ちょいまち。キス?」
「どしたの?」
彩楓が急に頬を赤く染めだした。
「猫矢さん。そこまでやってるの?」
「……ノーコメントで」
「それ答えじゃん!」
「さっきから気になってたけど、誰なの?」
今私達が居る広間には別に私達しか居ない訳ではない。
実はずっともう一人居た。
「失礼。百合成分を補給してたら爆発してしまった。気にせず続けてくれ」
「いや、さっきから気になってたから。ずっと見てくるのやめてくれる?」
もう一人の子に私達はずっと見られていた。
「しかも何故に腹話術?」
この子は最初の広間で質問をしていた腹話術さん。ちっちゃくてとても可愛い。
「教えないって言いたいけど、あんないい百合見せてもらったお返しに教えてあげよう。うちもあなたと同じで『特異体質』みたいなやつだから」
腹話術さんがそう言って彩楓を指さす。
「なるほどね」
「味覚過敏?」
「よく分かったね。そう、口を開くと空気の味で大抵のことは分かるんだけど、それこそ知りたくないことまで分かっちゃうからこうやって口を閉じてられる腹話術してんの」
私が聞くと腹話術さんは素直に答えてくれた。
(そんなに百合百合してたかな?)
それなら是非私も見たかった。
「彩楓さんは目がいいんですか?」
「そう。私の目は結構見えるよ。例えば銃の引き金を引くタイミングとか」
私が撃った弾を斬ったのはそれのせいのようだ。
「そういえば猫矢さんは私と乃亜が戦ってた時なにしてたの?」
「あぁ、それはですね」
「あたしに喧嘩売ってたぁ」
私達が話していると光亜の肩に顎を乗せながら布で全身を覆っている女性が話しかけてきた。
「ひっ」
「おい変態。光亜を脅かすな」
「変態呼ばわりは酷い。今は着てるしぃ」
「その下着てんのか?」
「確かめるぅ?」
布女もとい全裸さんが布を捲り上げようとしたのでそれを止める。
「痴女行為は一人の時だけにして」
「人に見られてなんぼでしょぉ」
「変態じゃないか」
「乃亜完全復活ですか」
「何言ってんの? 私はずっと元気だよ」
さっきまでのは演技だから。演技だから。
「それより。せっかくだから自己紹介でもしようよ。あだ名で呼んでいいならそれで呼ぶけど」
「これから殺し合うのに呑気だねぇ」
そう言いつつも全裸さんは腹話術さんの隣に腰掛ける。
「別に仲良くしたくないなら仲良くしなくてもいいけど、名前くらいは知っててもいいでしょ?」
「そうだね。なんか私達共通点があるみたいだし」
「よし決まりね。じゃあ私から。兎束 乃亜。仲良くなってくれるなら乃亜と呼んでくれて構わないよ。まぁ呼ばせるんだけど」
「歳は?」
「十六。まだ若いって言える歳」
「十分若いよ」
腹話術さんが質問係になるようだ。
「次は私。佐鳥 彩楓。歳は乃亜と同じ」
「そうなの?」
「うん」
彩楓はてっきり年下だと思っていた。何故かは言わないけど。
「今目線が顔から下にいったよな。どこ見た?」
「女の子の大事なところ」
「そこまでいってないだろ」
「え、胸は大事にしなきゃ駄目だよ。それとも別の場所想像した?」
「こいつ絶対に殺す」
彩楓が私を睨みながら言う。
「夫婦漫才は済んだ?」
「夫婦じゃねぇよ」
「そうだよ。私のお嫁さんは光亜だから」
「振られたな」
「うっさいわ」
「でも彩楓を旦那にしてもいいのか」
そんなことを本気で考えていると彩楓が「次早くしろ」と何故か怒った様子で腹話術さんに言う。
「うちは
「二十歳だと。そんな可愛い見た目して中は真っ黒なのか」
「どういう意味だよ」
「大人はみんな腹が黒いって相場が決まってない?」
「偏見が過ぎるだろ。うちの心はピュアッピュアだよ」
「下の方は──」
全裸さんが何か言おうとしたけど叶衣莉の人睨みで押し黙った。
「下?」
「光亜。純粋は時に人を傷つけるんだよ」
光亜が叶衣莉の地雷を踏み抜きそうだったので肩に手を置いてやめさせる。
「さん付けと敬語いる人?」
「可愛い子からはいらない」
「じゃあ叶衣莉はやっぱり綺麗なのが悩み?」
「こいつ自分のことを可愛いって思ってやがる」
彩楓が失礼なことを言ってくる。私は別に自分のことを可愛いって思ってるんじゃなく、光亜と彩楓が可愛いって言ってくれたからそれを信じたにすぎない。
「可愛くない?」
「可愛い」
「ありがと」
「だから夫婦漫才やめろっての」
「それでどう?」
「……そうだよ」
(幼女体型極まれり)
「おい今絶対失礼なこと考えたろ」
「そんなことないよ。叶衣莉は可愛いなーって思っただけ」
実際に叶衣莉はちっちゃくて可愛い。
「なんか調子狂うな」
「分かる」
「彩楓だって自分のこと可愛いの自覚してんじゃん」
「私は元から敬語なんて使わないだけ」
「目上の人には使おうね。今はまだ若いからって許されるかもしれないけど」
「乃亜がまともなこと言うとなんか嫌だけど、それは分かってる。高校卒業までにはきっと」
彩楓のことを全て知ってる訳ではないから強くは言えないが、時と場合の敬語は使えた方がいいとは思う。出来るなら私も敬語は使いたくない。めんどくさいから。
「じゃあ次」
「あたしぃ?」
「そそ」
「あたしは
(ドM)
「今ドMって思ったでしょぉ。失礼するよぉ、否定はしないけどぉ」
「未来空って感覚過敏?」
「よく分かったねぇ。そうだよぉ。だから本当はこの布も脱ぎたい」
「感覚過敏がどういうのか知らないけど、空気に触れるのは平気なの?」
「布よりはそっちのがイイ」
今まではとても語尾が緩かったのに対して、今のはとてもハッキリしていた。
きっと気の所為だ。きっと。
「乃亜も何かあるんでしょぉ」
「なんのこと?」
「あたしのこと気づいてさっさと隠れてたからぁ」
「それ私の時もあった。私の時は向かってきたけど」
さすがにバレていた。
別に隠す気もなかったけど、みんなのに比べると劣るからあんまり言いたくなかった。
「私は耳。でもそんなでもないよ、数十メートル先の音が聞こえる程度だから」
「それ相当すごいでしょ」
叶衣莉が何故か驚いた表情をする。
「そうなんだ」
「数メートルならまだしも、数十メートルって」
「自分じゃ凄さって分からないものなんだよ」
彩楓がアイマスクを触りながら言う。
「って私のことはいいんだよ。ほら光亜、未来空は変態なだけで悪い人では……、ないから」
「今の間なぁにぃ。別に怒ってないから気にしないでいいのにぃ」
「むしろ?」
「いっぱい見られて襲われて興奮したぁ」
やっぱりただの変態だった。
「分かりました。私は猫矢 光亜です。私には皆さんみたいな『特異体質』はない、こともないですけど、言わなくていいなら言いたくないです」
「聞きたい人ー」
「別に言いたくないならいい」
「うちも別に。可愛いし」
「あたしは興味無いからいぃ」
光亜がほっとした様子で息を吐く。
「ところでずっと気になってたんだけど、乃亜は恋人が光亜で愛人が彩楓なのか?」
「は?」
「んー、ちょっと違うかな。光亜は結婚を前提にお付き合いしてる人で、彩楓は友達以上恋人未満。なんで?」
「ずっと手握ってるからどういう関係なのかなーって」
叶衣莉がそう言うと彩楓が勢いよく手を離そうとしたので、強く握って離さない。
「おいこら離せ」
「やだよ。光亜の手がやわっこくて気持ちいいのに対して彩楓の手は硬めで安心するから」
「意味分からないし。離せし」
「そう言いつつも本気で抵抗はしない彩楓はツンデレね。ごちそうさま」
叶衣莉が手を合わせてお礼を言ってくる。
「誰がツンデレだ」
「ツンデレ彩楓可愛い」
「乃亜は黙れ」
「乃亜は天然か。光亜は大人しい系。未来空はドM。色んな属性があってうちは大変満足」
叶衣莉がとても幸せそうな顔をしている。
「叶衣莉は腹黒?」
「喧嘩売ってんのか?」
「腹黒天使」
「それならいいや」
「いいのかよ」
「彩楓はツッコミの才能あるよ」
「うっさいわ」
「……乃亜さん」
光亜がいきなり深刻そうに声をかけてきた。
「どしたの?」
「私ってそんなに肉付きいいですか?」
「なして?」
「私の手を柔らかいって言ってたので」
光亜が悲しそうな顔をするので彩楓から手を離して光亜の手を私の頬に当てる。
「あ……」
「違うよ光亜。やわっこいってのは触れてて気持ちいいってことで、深い意味はないよ。変な言い方してごめんね」
「い、いえ。私の方こそ邪推してしまってすいません。付き合いはまだ短いですけど、乃亜さんが私の嫌がることをしないのは分かってるつもりです」
「ありがと」
私はそう言って光亜から少し離れる。
「え、ごめんなさいのキスは?」
「それは部屋に戻ってから」
「しないですよ!」
「残念。それより彩楓が寂しそうだよ。手を離した時に残念そうな声まで出してたし」
叶衣莉がそう言うので、彩楓の方を見る。
「出てないわ」
「私の耳にはちゃんと届いてたよ。でもそれよりも光亜を優先してごめんね」
「謝るなし。別に何も思ってないし」
私は彩楓の手を優しく握る。
「抵抗しない彩楓であった」
「変なナレーションつけんなし」
「仲良しさんだねぇ」
照れる彩楓をみんなで
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