第7話 脱出ゲームの後は

「さてと」


 私は起き上がり今起きる前の記憶を遡る。


彩楓さいかと別れた後だよね?」


 私の最後の記憶は彩楓と戦って、私が逃げ勝ったところだ。


「んでんで、ここどこだろ」


 私は今居る部屋を見回す。


 私の寝ていたベッドの他にはテーブルとクッション。それからテレビがある。制服は制服に戻っている。


「なんか私の部屋みたい」


 私の部屋もこんな感じでテーブルとクッション。テレビがある。違うところは私の部屋にはクローゼットがあることぐらいだ。


「まぁ備え付けだから別にろくなもの入ってないけど」


 私のクローゼットの中にあるものといえば少しの服と人には見せられないものくらいだ。


「とりあえずテレビでもつけますか」


 この部屋で唯一アクションが取れるのはテレビだけなので、私はテーブルの上に置いてあるリモコンでテレビをつける。


「って、つかないんかい」


 リモコンの電源ボタンを押してもテレビがつくことはなかった。


「飾りかい。私の部屋をイメージしてるんだよね?」


 その為に置かれただけのようだ。


「うーん。光亜みあに会いたい。彩楓でも我慢出来るけど」


 私は基本的に人と居るのを苦痛に感じるタイプの人間なのに、今は無性に光亜に会いたい。


「これが恋。……とか言ってないで外出てみるか」


 私は部屋の出入口に向かう。


 そして部屋を出ようとドアノブを回そうとしたら。


「開かないし。今度は監禁ですか」


 鍵がかかってる感じでもなく、開ける術がない。


 最初は広い部屋に百一人で閉じ込められたと思ったら、次は森に放り出され、今は自室に監禁。


「なんか腹立つな。とりあえずなにか探すか」


 もしかしたらこれはデスゲームの合間の小休止のようなもので、脱出ゲームなんかなのかもしれない。


 なので私は部屋の中を隅々まで探す。


「部屋でものを隠すなら」


 私はベッドの下を確認する。


「安易すぎか」


 そこには何も無かった。


 今度はテーブルの裏、テレビの裏など普段見ることのないようなところを探す。


「ない。ということは」


 私は自分の部屋のクローゼットがある場所に行き壁を触る。


「はい、正解」


 クローゼットがあった場所に凹む場所があったので押してみた。


 すると出入口から「カチャリ」と音がした。


「ないことには気づくけど、ないからこそそこは探さないっていう先入観を使ったゲーム?」


 そんなこと考えてもしょうがないのでとりあえず私は部屋を出てみることにした。


「あ、彩楓が居る」


 私が部屋を出ると真ん中に大きな広場があり、その広場を囲うように扉(おそらくここのように部屋)がある。


 そしてその広場のソファに彩楓(アイマスクをしている)が座っている。


「さ・い・か」


 私は音を立てないように彩楓に近づいて耳元で彩楓の名前を呼ぶ。


乃亜のあ。そういうのやめなさい」


 でも彩楓は驚いた様子もなく、平然とソファに背中を預けている。


「やっぱり見えるの?」


「まぁね。逆に見えすぎるから普段はアイマスクして視界閉じてるの」


 私の耳栓と同じように、抑えないと気分が悪くなったりするのかもしれない。


 私は耳がいいから聞きたくないことまで聞こえてきて、話の内容で気分を害し、更に色んな声が同時に入ってくると気分が悪くなる。


 だから私は人が多いところでは耳栓をしている。


「それに私の場合は眼を見られたくないんだよね」


「かっこいいのに」


「みんながみんな乃亜みたいな特殊な感性持ってる訳じゃないの。私の眼を見てうざい反応取られたら……」


「殺したくなっちゃう?」


「乃亜のそういうとこ好きだよ」


「ごめんね。私には好きな人がいるから彩楓の気持ちには応えられない」


 私はさっきからその好きな人を探しているが、まだ出てきていないか、出る気がないようでここには居ない。


「なになに、乃亜でも人を好きになるとかあるの?」


「私だってうら若き乙女ですよ?」


「それって一緒に行動してた人?」


「そう。彩楓のせいで離れ離れになっちゃったの。二人の愛を引き裂くなんて酷い。それとも略奪系?」


「それはそれは、失礼した。ちなみにどんな人? 人が居るのは分かったけどどんな人かまでは見えたかったんだよね」


(おや)


 彩楓が身体を私の方に向けてソファに膝立ちしながら言う。


 彩楓は思いのほか恋バナが好きなのかもしれない。


「どんな人、か。可愛いよ。眺めてるだけで愛おしくて、抱きしめたい。出来るならキスも……」


 それを言って思い出す。


(私って光亜のこと彩楓から守った?)


 光亜のことを守ったらキスしてもいいと言われたから、あれが守ったに入るのなら私はキスする権利を貰っている。


「溺愛してんねぇ。それでそれで?」


「それでとは?」


「他にはないの? 好きなとこ」


「んー。全部好きだよ。肩ぐらいで切り揃えられてる茶髪も綺麗な黒い眼も透き通るような白くて柔らかい肌、それにあの華奢な身体。抱きしめたら折れちゃうんじゃないかって心配になるのと同時に守りたいって思わせるんだよ。あとね」


「分かったもうお腹いっぱい。ってかそれよりその相手って」


「乃亜さん。何の話してるんですか?」


「君のこと」


 私はちょうど今出できた光亜に声をかけられたので近づいて光亜の顎に手を当てて口づけをした。


「照れてる。可愛い」


「の、乃亜さんのバカー」


「どうしたの? やっぱりさっきのは守ったに入らない?」


 その確認をする前に光亜への愛が爆発してしまった。


 もし違ったのならちゃんと光亜に謝らなくてはいけない。


「違いますよ。あれは私も守ってもらったからき、キスしなきゃなって思ってましたけど、いきなりすぎてびっくりしたんです」


「よかった。光亜に嫌われたら私このゲームで優勝してやり直しを願うところだった」


「私に嫌われてない前提なんですね」


「ごめんなさい。調子に乗りました。そうですよね、友達いた経験がないから知らなかったです。私みたいなのが光亜さん……、いや猫矢さんに嫌われてない訳ないですよね。ほんと今まで調子に乗ってすいませんでした。部屋で自害してきます」


 私は知らなかった。どこからが友達なのか。


 今までは光亜の優しさに甘えてただけ、ただ自分の思いを光亜に押し付けてただけ。


 そんなのは私の一番嫌いな人種だ。


 私は部屋に戻ろうと歩き出す。


「乃亜さ、あ」


 光亜に手を掴まれた私は光亜の方を見る。そしたら光亜が悲しそうな顔をした。


「どうしたんですか?」


「乃亜泣いてる」


「え?」


 ソファから見ていた彩楓が言って初めて私が泣いてることに気づいた。


「ほんとだ。涙なんてまだ流せたんだ」


「乃亜さん」


 光亜が背伸びをして私の頭を抱きしめる。


「ごめんなさい。ちょっとしたイタズラのつもりだったんです。心配しなくても私は乃亜さんのこと大好きですよ」


 光亜が私の頭を優しく撫でながら言ってくれる。


「ほんとに?」


「……ほんとです」


「やっぱり嘘なんだ」


「ち、違いますよ。その、あの」


「今の乃亜可愛すぎ。私でもキュンとしちゃったじゃん」


 彩楓がよく分からないことを言い出した。


「それです。今言うことじゃないかもですけど、可愛すぎて言葉を失いました」


「んー」


 私は光亜の胸に顔を押し付けて顔を見せないようにする。今見せたら絶対に馬鹿にされる。


「これがギャップ萌え。やばいドキドキしてきた」


「猫矢さんだっけ。私も見てていい?さっきのお返し次いでに可愛い乃亜見てたい」


「可愛い乃亜さん独り占めしたいですけど、おすそ分けしてあげます」


 なんだか私のことを勝手に決められた気がするけど、今は何も言えない。絶対に鼻声になって馬鹿にされるから。


 だから私は光亜にしばらく甘えることにした。

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