第6話 緋眼の刀少女

「誰もいませんね」


「うん」


 結局光亜は敬語をやめてくれなかった。


 私と光亜は手を繋ぎながら森を歩いている。


 結構歩いていると思うけど、全裸女達を見てからは誰も見ていない。


「やっぱり数が少なくなってきてるんですかね」


「多分ね。残り五十人のアナウンスが入ってから私が一人殺して、さっきの全裸さんが一人殺してるから他もそんな感じなら今三十人ぐらいだと思うし」


「それだけ少ないなら隠れるのも視野に入れた方がいいですかね?」


「それはどうだろ。多分十人くらいは隠れてるのいると思うけど、みんなそれしたら終わんないし、逆に隠れるってことは止まるってことだからバレたら一発アウトじゃない?」


「つまり?」


「正解はないから注意して行動しよう」


「私は乃亜さんの耳を頼りにしてるので乃亜さんの言葉を信じます」


 反対意見がないならそれでいいけど、もしなにかあるなら言ってもらった方が私は嬉しい。


 結局私の考えはどっちつかずの考えなので得策とは言えない。


 私の耳があるなら隠れるのが一番いいのかもしれないけど、もし音を消して行動出来る人がいたらそれで終わる。


 だったら二人いることを活かして索敵した方がいいと私は思った。


「って言ってたら前から来るよ」


「隠れます?」


「多分バレてる。全裸さんと似た感じがするから気をつけた方がいいよ」


 私の耳は相手の危険度が分かるなんてことはないが、危ない人はなんとなく分かる。


 そして今、前から来てる人は全裸さんと同じくらい危ない感じがする。


「今思いつく作成は三つ。二手に逃げるか二人で戦うか話し合い」


「成功率が高いのは?」


「どんぐり。強いて言うなら話し合いが一番低い」


 二手に逃げるは成功はするかもしれないけど、どっちかが死ぬ可能性が高くて、逃げられたとしても合流が難しくなる。


 二人で戦うのはやってみなければ分からない。


 話し合いは普通に考えて出来ない。私達が特殊なだけで、普通は話す前に殺す。


「連絡先交換してたら逃げても良かったんだけど。後の祭りだから迎え撃つしかないか。光亜は何かある?」


「バレてるなら今から隠れたところで意味ないから不意打ちとかも出来ないですよね。ならこんなのはどうですか?」


 光亜が私に耳打ちをする。


 なんだか背徳感がある。


「聞いてます?」


「うん。とっても心地よかった。またやってね」


 光亜がジト目を向けてくる。


 とても可愛い。


「ごめんて。聞いてたから。それでいこ」


「ほんとに聞いてました?」


「私が光亜の言葉を聞き逃す訳ないでしょ」


「それはそれでどうなんですか……」


「じゃあ行ってくるね」


 私は光亜の作戦を始める為に光亜と別れて向かってくる人に近づいていく。


「気をつけてくださいね」


「うん。光亜も危ないことしたら駄目だよ」


 私はそう言って前を向きながら後ろに居る光亜に手を振る。


「危ない方決めようとして何も言わずに危ない方に行ってる乃亜さんが何言ってるんですか」


(聞こえてるよー)


 光亜は小声で言ったつもりだろうけど私にはバッチリ聞こえている。


(可愛いやつめ)


 光亜の身体能力が高いのは最初に見たけど、出来るなら光亜に危ないことはしてほしくない。


 このバトルロイヤルが終わったら嫌でも光亜は危ないことをしなければいけないから、何もさせないのは後に光亜の首を絞めることになるから控えなければいけないけど、どうも出来ない。


「多分後少しだけど、これからの課題だな」


「独り言を言う余裕はあるのか」


 分かってはいたが、木の影から人が現れる。


「眼、かっこよ」


 その人の瞳は赤、というより緋といった感じでとても鮮やかで綺麗。そしてかっこいい。


「……」


「どしたの?」


「かっこいいとか初めて言われて動揺してる」


「え、赤い眼ってかっこよくない?」


 赤だけではなく青や黄色もなんかかっこいい。


 私の周りにいないからそう思うのか分からないけど、とてもいい眼だと思う。


「変わった子。私の眼を見た人の第一声は気持ち悪いとかなのに」


「そんなこと言う奴の方が気持ち悪いよ。人を見かけでしか判断しないなんて」


「駄目だな、時間稼ぎなの分かってても嬉しくなっちゃうよ」


「時間稼ぎ?」


「もう一人の子が私を不意打ちするとかいう作戦なんでしょ?」


 やっぱり光亜のことはバレているようだ。


「作戦はあるけどかっこいいって思ったのはほんとだから」


 それだけは勘違いしてほしくない。


 私は別に時間を稼ぎたいからって適当に言っている分けではない。本当にこの子の眼がかっこいいと思った。


「素直すぎて逆に信用出来ないんだけど」


「信じてよぉ。私ってそんなに嘘つきに見えるの?」


 光亜も最初は可愛いっていくら言っても信じてくれなかった。


「そもそもこんな状況で敵であるあなたを信じる方がおかしいでしょ」


「そうだけどぉ。悲しい」


 私は蹲って地面に落ちてる木の枝でお絵描きを始める。


「そんな本気で落ち込まなくても。って絵上手いな」


「でしょ。友達いなかったからこんなにお絵描き上手になったの」


 私は昔から友達がいなかったから、一人遊びをずっとしていた。お絵描きもその一つだ。ちなみに今書いたのは鳥。理由はここは森なのに鳥の鳴き声がしないなーって思ったからなんとなく。


「なんでそんな誇らしげなの……」


「絵上手なのって誇れない?」


「そっちじゃなくて……、っていいや。なんか疲れる」


「私はお話楽しいけど」


 出来るならもう少ししていたい。


 もう少し。


「素直な子なのは分かったから殺すよ」


「なんてバイオレンス」


「そういう場所でしょ、ここ」


「じゃあずっと気になってたけど何も言わなかったそれについて聞いていい?」


 私は赤眼の子の腰にあるを指さして聞く。


「刀」


「だよね」


「実は興味ないな」


「あるある。じゃあ詳しくどうぞ」


「私のスキル使って作っただけだよ」


「スキル。そういえばそんなのあった」


 今までの相手が誰一人として使ってなかったから私も使わなくて忘れてたけど、そういえばそんなシステムがあった。


「スキルなしで生き残ってるの?」


「うん。って言ってもまだ五人しか殺してないけど」


「負けた。私スキル使って四人しか殺してないのに」


 刀少女が四つん這いになって落ち込んでいる。


「いや、遭遇率とかあるから、ね」


「敵に慰められた。惨め」


「ほら立っちして」


 私は刀少女の脇に腕を入れて立ち上がらせる。


「今度は赤ん坊プレイとか。泣きそう」


「ほら、強さは殺した数じゃないから」


「だよね!」


「急に元気。でもその笑顔可愛い」


 私が適当にフォローしたら、とても可愛い笑顔で喜んでくれた。


「よし、元気出たから殺ろうか」


「あれ、間違えたかな?」


 刀少女が刀を抜いて構える。


 確かに刀だ。所々凹みがあるが遠目で見たら分からない程度のものだ。


「殺る前にお名前教えて」


「何故に?」


「可愛い子の名前を知りたくて! じゃなくて、ほら武士って殺り合う前に名前言わない?」


「確かに。私は佐鳥さとり 彩楓さいか


「字は字は」


 私は持っていた木の枝を彩楓に渡して、何故かジト目を向けてくる彩楓に地面に名前を書いてもらった。


「テストとかで名前書くの大変そう」


「分かってくれる?」


「うん。私のは難しそうに見えて画数はそんなに多くないから」


 そして私は木の枝を受け取って元の場所に戻る。


「ん、あなたは名乗らないの?」


「実は名乗ってるんだなー」


「は?」


「聴き逃したの? もぉ、じゃあちゃんと言うよ。兎束 乃亜」


「絶対言ってないでしょ」


「言ったもん。私のは難しそうにってとこで」


 別に狙った訳ではなく、話してたら(私さりげなく名前言ってんじゃん)って思ったから言ってみただけだ。あじゃなくてわになってるけど、似てるからいいかな。


「あなたに友達がいない理由がなんとなく分かった気がする」


「つーん」


「ほんとめんどくさい。兎束」


「名字嫌い」


 別に名字に好き嫌いはないが、可愛い子には名前で呼んでほしい。


「ほんとめんどくさい。乃亜」


「やった。佐鳥さん、よろしくね」


「……」


「今『私のことは名前で呼んでくれないんだ、寂しい』って思った?」


「寂しいとか思ってないし」


「じゃあそれ以外は思ったんだ。可愛いなぁ、彩楓は」


 私は彩楓の名前を呼ぶと彩楓の肩がビクついた。


「嬉しかった?」


「うっさい。早く構えろ。お前を殺してなんか色々晴らす」


「名前は?」


「絶対殺すから、乃亜」


(これぐらいでいいかな)


 私もそろそろちゃんと戦おうと銃を構える。


「刀相手に銃とか卑怯って思う?」


「別に。銃の弾ぐらい斬れるし」


「やば、かっこよ」


 私はその言葉が本当か確かめる為に一発撃ってみた。


 見事弾は真っ二つになって後ろの木にめり込む。


「すご」


「だから言ったでしょ。次はあなた、乃亜を斬るから」


 彩楓がまた私の名前を呼ばなそうだったのでジト目を向けたらちゃんと名前を呼んでくれた。


「その嬉しそうな顔ごと斬る」


「顔は女のなんとやらって言うの、ってほんとに顔狙い」


 私が喋っていたら彩楓が私の顔を横に斬りにきた。


 私はそれを後ろに仰け反って避ける。


「見えてるの?」


「全然。強いて言うなら聞こえてる」


 私は相手の動きを聞いて行動している。


 会話をしてこなかったから説明が出来ないけど、人は右に動く時や左に動く時に音を出す。その様々な音を聞いて私は避けたりしている。


「よく分からないけど、そう何度も避けられると思わないでね」


 そして彩楓が斬る、斬る、斬る。


 私はその全てを避けるが、ここは森。後ろに避ければいつかは。


「木に当たるんだよね」


「もらった」


「残念あげない」


『断罪の殺しあむ、第一回戦バトルロイヤル残り人数が二十五人に達した為しゅーりょー』


「な!」


「決着は二回戦か三回戦で、じゃあね彩楓」


「次は殺す。だから私に殺されるまで死ぬなよ乃亜」


「愛の告白された」


「ちが」


 私達はまたどこかへ飛ばされた。

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