第5話 好きの自覚
「とりあえずどうする?」
歩き出したのはいいものの、バトルロイヤル系のゲームなんてやったことがないから中盤から終盤の立ち回りなんて分からない。
個性があるのかもしれないけど、上手く立ち回らないと簡単に死んでしまう。
「ゲームとかだと高いところを取るといいみたいですけど、ここは森で高低差があると言えば木の上ぐらいしかないですよね」
「さすがに木の上は狙い撃たれてすぐ死ぬよね」
「はい。だからやれることと言ったらせっかく着ている迷彩服を活かして隠れるのが一番いいと思います」
確かに私の耳を使えば索敵も出来るから待ちに入るのが一番いいとは思う。
「でもここには化け物がいるんだもん」
「ですね」
さっきの全裸女には待ちなんて効かないと思う。
ああいうのがあいつだけなんて考えるのは早計すぎる。
「それを考えるとやっぱり留まるのは危ないよね」
「そうですね。だから後はこっちが動いて終わらせるか逃げながら漁夫の利を狙うかですかね」
「早く終わらせるなら暴れて集める手もあるけど」
そんなことをしたらさっきの化け物級のが来た時に対処出来ない。
「まぁゆっくりデートをしてようか」
「で、デートって。やっぱりそういう人なんですか」
光亜が頬を赤く染めながら、自分の身体を抱きしめるようにして私から距離をおく。
「うーん、デートって言葉にそんな意味ある? 結局あれってお出かけとかそういう意味でしょ?」
「好きな異性の人とのお出かけですよ」
「私結構光亜のこと好きだけど」
「女の子同士じゃないですか!」
「性別なんて些細なことじゃない?」
「そこが一番大事ですよ!」
私は恋愛感情というものがよく分からない。
そもそも人を好きになるというのがなんなのかが分かっていない。
だから今光亜に感じている感情が友情なのか愛情なのかもよく分かっていない。
でも一つだけ確かなのは。
「私初めて人を好きかもって思ったんだよね。今までは話しかけられてもいつこの話終わるのかなーって思ってたぐらいには人に興味なかったけど、光亜は違ったんだ」
私には今まで友達と呼べる相手がいたことがない。
もちろん話しかけてくる人ぐらいはいた。でもその全てを私は適当に流していたから、相手も諦めたのか話しかけてくることはなくなった。
それでもしつこく話しかけてきたのが夏帆。あれは私がいくら近づくなオーラを出しても気にせず話しかけてきた。
私みたいに人をあえて遠ざける人に諦めないで話しかける人が初めての友達になるなんていうのはよくある設定だけど、私には何も起きなかった。
ただ早く私に話しかけるのをやめてほしいとしか思わなかった。
だからそれを踏まえて、私は光亜に初めての感情を感じている。
「光亜は私のこと嫌い?」
「そんなことないですけど、ただ私は好きって言う人を信じられないだけです。特に女の人の」
光亜が悲しそうな顔をしながら言う。
多分だけど、それは光亜の罪の部分に触れることだろうから内容は聞かない。
「よし。じゃあアレやろうか」
「アレ?」
私は立ち止まって光亜と向き合う。
「私とお友達になってください」
私は光亜に右手を出す。
「何をするのかと思ったら。ほんと乃亜さんって面白いと言うか、不思議な人ですよね」
光亜はそう言いながら私の手を握ってくれた。
「初めて友達が出来た」
「初めてって。大袈裟な」
「いやほんとに。私なんかと一緒に居たいって人いなかったし、私の方も遠ざけてたから、本当に初めての友達」
ただ一緒に居るだけで友達になるなら夏帆もそうだけど、私の中の友達は一緒に居て苦痛を感じない人を言うので、やっぱり光亜が初めての友達だ。
「私が乃亜さんの初めての友達……」
「そう、ヴァージン」
「言い方がちょっと嫌です」
「そういえば私のファーストキスも光亜だね。私の初めて光亜にあげすぎ?」
「初めてだったんですか?」
「私そんなに取っかえ引っ変えしてるイメージ?」
光亜にそう思われているのなら結構ショックだ。
「違います。なんか慣れてる感じだったから彼女さんが沢山いるのかと」
「だから私はノーマルだって。男も嫌いだけど。光亜にならしてもいいって思っただけ」
友達もいないのに彼氏彼女がいる訳がない。
「でも乃亜さん美人だから告白とかされてるんじゃないですか?」
「美人、ね。確かに下駄箱と机に手紙が入ってたこととかあったよ」
「やっぱり」
「読まずに捨てたけど」
「辛辣」
正直に言って人の下駄箱や机を勝手に開ける奴なんかを好きになる方がどうかしてると思う。
そういう奴は付き合ったりしたら人のスマホや荷物を勝手に見るのを当たり前だと思ってる(知らないけど)。
まぁそれ以前に興味がないから付き合う気なんてないけど。
「それ続けてたらなんか私のとこ来ていきなり『好きです』とか言ってきた奴いたね」
「なんとなく分かりますけどどうしたんですか?」
「本当は『は? 死ねよ』とか言いたかったんだけど、それだと言葉が強いかなって思って『そうやって大勢の前で言うのは私に断りづらくさせたいから? そんな考えの奴に興味ないから消えて』って優しく言ってあげた」
「そっちの方が強いですよ」
光亜はそう言うが死ねより強い言葉はないと思う。
死ねは冗談でも使っていい言葉ではない。
「乃亜さん?」
「なんでもない。まぁ要するに、私の初めては光亜に捧げるってこと」
「初めての友達ってことですよね分かってます」
私は別に最後までいってもいいけど、なんて言ったら嫌われるかもしれないからそれは私の心の内だけに留めておく。
「光亜ってさ、歳いくつ?」
「突然どうしたんですか?」
「光亜のことを知りたくて」
「途端に言いたく無くなること言うのやめてください。十六歳です」
「高一?」
「はい」
「同い年かい」
光亜は見た目が少し幼いから中学生かと思っていたが、私と同い年だった。
「乃亜さんもっと年上かと思ってました」
「老け顔でごめんね」
「大人びてるって意味ですよ。私は逆に……」
光亜がそこで言葉を止める。
「私と違って可愛いよね。この柔らかい肌とか。ねぇキスしていい?」
「駄目です」
光亜の柔肌に触れたら、また光亜の唇を奪いたくなってしまったので、今度はちゃんと確認を取ったら断られてしまった。
「残念。まぁそう何回もしてたらマンネリ化しちゃうもんね」
「そんな新婚夫婦の悩みみたいなこと言って」
「そんな悩みも光亜がキスさせてくれたら解消なんだけど?」
「マンネリ化の話はどこいったんですか!」
「私は飽きないよ?」
今まで一つのことに打ち込んだことがないから分からないけど、現状光亜に飽きるなんてことはなさそうだ。
「……ほんとですか?」
「? うん。じゃあキスしていい?」
「じゃあ私を一回守る毎に一回キスしていいですよ」
「やった! 光亜が危険な目に遭うのは嫌だけど、そんな時がきたら絶対守る。そして光亜を堪能する」
キスする為にわざわざ人を探すなんてことはしない。
そんなことをして、もし光亜を守れなかったら元も子のない。
「ほんとに嬉しそうですね」
「光亜にキスしたいから」
「そんな真面目な顔で言わなくても……」
私が真面目に言ったら、光亜に引かれてしまった。
「でも嬉しいです」
「やっぱり可愛い」
可愛いはあまり言わないようにしていたが、光亜の笑顔を見たら可愛いと言わずにはいられなかった。
「乃亜さんのバカ」
光亜はそう言って私の手を握ってきた。
「え、何このご褒美。私をドキドキさせて殺す気?」
それなら策士だ。私は五分で死ねる自信がある。
「死なれたら困るので離しますね」
「いや離さないけど」
光亜が手の力を抜くので、私は逆に光亜が痛がらない程度に力を込める。
「そう言うと思いました」
光亜の方も手を握り返してくれた。
「至福」
「乃亜さんほんとに喜んでます?」
「すっごい喜んでるよ?」
「乃亜さん、表情変わらないから分からないんですよね」
それはよく言われた。感情が顔に出ないから話しかけられても「ごめん、つまらなかったよね」と言われて私に話しかける人はいなくなった。
実際つまらなかったのだけど。
感情が出ないから、嫌という気持ちも伝わらないことがある。そういう時はそのまま伝えるようにしていた。
「でも顔に出ないだけで行動には出てるでしょ?」
「確かに」
最初のキスなんかは、考えるより先に身体が動いていた。
「てか、それよりだよ。光亜とのお話が楽しくて脱線したけど、同い年なら敬語やめて」
私がさっき歳を聞いたのは、年下なら追々で、同い年か年上なら敬語をやめてもらう為だ。
「ほんとすごい脱線ですね」
「だからやめて。光亜に敬語使われるのなんかやだ」
今までは何も気にしなかったが、光亜に敬語を使われると何故か分からないが嫌だ。
「でもこれやめようとしてやめられるやつじゃないんですよね。敬語は使わない、と」
光亜の表情が暗くなる。
「そこは引かないよ。追々でもいい。少しずつでも、私は光亜と敬語なしで話したい」
私は光亜と向き合い、握る手の力を強めて言う。
「……が、頑張り。ううん。頑張る」
「好き」
私は私の為に頑張る光亜が愛おしすぎて思わず抱きついた。
生まれて初めて好きを自覚した瞬間だった。
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