第4話 バディ
「おーい」
十分に満足した私は可愛い子から唇を離し落ち着いたか確認しようと思ったら、可愛い子は気絶していた。
「やりすぎちゃったか」
本当は目線を合わせるだけのつもりだったけど、目を合わせたら自分を抑えられなくなってしまった。
私は別に百合とかではない。
ただこの子が可愛かったから身体が動いただけで、誰かを好きになるとかいう感情を持ち合わせていない。
「どうしようかな。あんまり長居してたら人が……まぁ来るよね」
私達の右側から人が向かってきている。
「こんな可愛い子を殺すのはなんかあれだからどうせ殺されるなら私以外にしてね」
私は可愛い子をその場に寝かして、向かって来る人に注意を向ける。
「そういえばセクハラのスキルってどんなのだろ。やっぱり女性特攻とかかな」
今まで殺してきた四人はスキルを使わずに死んでいったからどんなスキルなのか分からない。
ただ罪は全員セクハラなので、おそらく同じスキルになるはずだ。
「でも私に簡単に殺されてるから違うのかな」
私だって一応女なので、女性特攻が発動するはずだ。
「もしもの時の為にスキルも見といた方がいいかな」
二回戦からは五人ずつの戦いと言っていたから、もしかしたら平らなフィールドで戦わされる可能性もある。
それだとほぼ確実にスキルの使い合いになるはずだ。
だったらその時の為にスキルを使った相手の戦闘にも慣れておかなければいけない。
「なら銃は封印だね。ナイフでいこう。」
私は銃をホルスターにしまってナイフを取り出す。
(私のスキル的にはナイフの方があってるよね)
私のスキル狂気は絶大な力を得るというスキルだからおそらく筋力増加的なやつだと思うので、銃とは相性が悪い。その代わりにナイフとは相性がいい。
問題は銃相手に私の動体視力で近づけるかどうか。
気絶しているこの子のは真似出来るようなものじゃあなかったし、それなら私の特技を使うしかない。
(距離は十メートルぐらい。さっきと同じ距離)
この子に出来たことぐらいは出来ないと勝ち残るなんて夢のまた夢だから、殺る。
私はターゲットを目視し、視線を正面から逸らしたタイミングで駆け出した。
視線を逸らしたといっても、草木の当たる音ですぐに私の存在に気づかれた。
でもそれでいい。
相手はまた男だが、男は咄嗟に持っていた銃を構えて私に狙いを付ける。
(震え、撃つのは初めてか)
男は銃を持つ手を震えさせながら構えている。私もさすがにただ真っ直ぐ進むなんて馬鹿なことはしないで、狙いから外れるように走る。
(そしてここで撃つ)
私は男に後数歩で斬りかかれるタイミングで真っ直ぐ走り、銃を敢えて撃たせた。それをタイミングよく躱して喉にナイフを突き刺す。
「終わり。やっぱりスキルは使ってくれないか」
これは殺したことのある人にしか分からないことだけど、罪がバレたくないからとスキルの出し惜しみをしたところで、殺した相手の罪は見れてしまう。
そもそも死んだら世間にばら撒かれるのだから、死にそうになってまでスキルを隠す必要はない。
「さてマガジンだけ貰って、後はいいや。さぁこい」
私が殺した男は粒子になり消えて、私の頭の中にはその男の罪が流れてくる。
「今回は不倫ですか。しかも三股」
これには慣れそうにない。罪が流れてくる時は頭痛に見舞われるし、そほ挙句に人間の汚いところを見せられるなんて。
「不倫のスキルってなんだ? 魅了とかかな」
考えたって分からないから、考えるのをやめて、寝かした可愛い子の元に向かう。
「あ、起きてる。おはよ」
私が戻ると可愛い子が目を覚ましていた。
そして私を見るなり後ずさってナイフを構えた。
「んー、それは私が敵だから警戒してるの、それともキスしたから?」
「ど、どっちもですよ」
(あぁ、声も可愛い)
私はこの子の全てを愛おしく思える。きっと私だけではなく、全人類が。
「あなた、なんなんですか、変態さんですか!」
(変態さん。可愛い)
「固まってたから身体をほぐそうと思って。そしたら、ね」
「ね、ってなんですか! いきなり可愛いとか嘘まで言って」
「嘘?」
あれは私の嘘偽りない心からの言葉がつい出てしまっただけなんだけど。
「嘘ですよ。私は可愛くなんてない。そう散々言われ続けてきたんですから」
「そいつここにいないの? 私が殺して社会的にも殺す」
こんな可愛い子を可愛くないなんて言う人間を私は許しておけない。
小学生の男子が好きな女の子にそういうことを言うとは聞いたことはあるけど、相手を傷つけてる時点で好きなんて思うことがおこがましい。
「いないですよ。だってその人が私をここに送ったんですから」
「ちっ。まぁでもこれだけは言っておくね、私は心からあなたを可愛いって思ってるから。信じる信じないは勝手だけど」
「……やっぱり変な人じゃないですか」
「変態と変な人は違うと思うけど」
私が顎に手を当てながら首を少し捻りながら言うと、可愛い子は少しだけ笑った。
「ほら笑顔なんてもっと可愛い」
「分かりましたから可愛いって言うのやめてください」
「分かってくれたならいいや。ところでどうする、殺る?」
「見逃してくれるんですか?」
「私的にはどうせ殺されるなら私以外に殺されてほしいんだよね。私はあなたに殺されても別にいいけど」
もちろん殺ると言われたら殺るが、出来るならこの子は殺したくない。
「じゃあ見逃してください。あんまり戦うのとか好きじゃないんで」
「にしてはすごい動きだったけど」
「あれは私じゃないんで」
「あなたじゃない? どうい」
「どうしたん、むぐ」
人の近づく音がしたので、私は可愛い子の口を手を塞いだ。
(あ、柔らかい)
手に当たる感触が気持ちよすぎて離したくない。
(とか言ってる場合じゃないんだよ)
「あっちとあっちから人が来る。どうする隠れて漁夫の利狙う?」
私達の居る場所の右側と正面からおそらくさっきの戦いの銃声を聞いた人が近づいてきている。
このまま動かなければ先にその二人がぶつかるので、ここで漁夫の利を狙ってもいい。
「んー、んー」
「あ、ごめん。手が離れなかった」
私は聞いておきながら手を離していなかった。もちろん無意識に。
「もう。よく分かりますね。私にはなんにも分からないですよ」
「まぁ、昔から耳いいんだよね。さすがに歩き方の音で男女の区別がついたりはしないけど」
「そこまでいったら引きますよ」
よかった。ほんとはたまに分かる時があるけど、それは黙っておこう。
「で、どうする?」
「待ちましょうか。もしかしたら共倒れするかもしれないですし」
「分かった」
別にこのバトルロイヤルは殺した数を競ってる訳でもないから、率先して殺しに行く必要はない。
「正面の方が気づいたみたい」
正面から来る人の歩き方が変わった。右側から来る人に気づいたようだ。
「じゃあ私達は正面の人を狙えばいいんですね」
「ううん。これは多分何もしないのが正解な気がする」
「え?」
「見てて」
私は可愛い子と一緒に木の影に隠れながら戦いを見守る。
正面の人は私達からも見える場所で銃を構えている。そしてそろそろ右側の人も見えてくる。
「ちょっと失礼」
「〜〜〜〜〜〜」
私は可愛い子の口をまた押さえた。絶対に叫ぶと思ったから。
そして案の定叫んだ。なんでか、それは全裸の女が歩いているから。
「叫びたいのは分かるけど、バレちゃうから叫ばないで。意味ないかもしれないけど」
「す、すいません。でもなんでは、裸なんですか? ほんとに変態さんしか居ないんですか?」
「さっきも思ったけど、変態さんって可愛いよね。でも私は変な人でしょ、あれは変態かもしれないけど」
もしかしたら何か理由があって全裸なのかもしれないけど、傍から見たらただの変態だ。
「あっちの人も全裸なのには気づいてなかったみたいだから、すっごい動揺してるよ」
正面の人は女の人なのでそこはなんとなくよかった。
「そりゃ動揺しますよ。女の人が裸でなにも隠さないで歩いてるんですから。しかも胸が……」
そう、全裸女はすごい巨乳だ。ほんとに男が居なくてよかった。居たら私が全員皆殺しにしていたところだ。
「多分すぐ終わるからちゃんと見といた方がいいよ」
「はい」
正面の人も落ち着いたようで、銃を構え直した。そして一発発砲。
でもその弾は当たらなかった。
外した訳ではない。撃つ瞬間に全裸女が盛大に避けた。
そして全裸女は目の色を変えて走り出す。
それからは一瞬だった。
その後にも何発か撃たれた弾はどれも全裸女には当たらず、全裸女が手の届く範囲に着いた瞬間に右手で顎の当たりを左手でつむじの当たりを掴み首を捻って殺した。
「すご」
「躱しただけでもすごいって思ったのに、あの手際の良さ。正直戦いたくないです」
私も同感だ。おそらく銃は効かないからこちらも近接戦闘をしなければならない。いくら武術の心得があるからといっても、勝てるかは微妙だ。
「行ったね」
「はい。バレなくてよかったです」
「いや、バレてたよ」
「え?」
「多分向かってくる相手だけ殺してるんだろうね。一瞬だけどこっち見てたから」
向かってくるなら殺す。向かってこないなら別に興味はないといった感じだ。
「世界は広いね。で、どうする?」
「どうするとは?」
「あんなのが居る森で個人行動で大丈夫?」
「私達敵同士ですよ?」
「別に一回戦は予選みたいなので、二回戦からが本番でしょ? それに一緒に行動したら駄目なんて言われてないし」
「そうですけど」
私だって何も考えないでこんな提案をしている訳ではない。この子は何かすごい力を持っているはずだから、それを近くで見たい。
それを見れば私の動きも変わるかもしれない。
「私があなたを殺しちゃうかもしれないですよ」
「その時はその時だよ。この状況で私を殺すのは得策じゃないとは思うけど」
私の耳はこういう戦いでは役に立つ。それなら利用しない手はないはずだ。
「確かにそうですね。分かりました。と言っても後少しでしょうがよろしくお願いします」
「こちらこそ。じゃあ名前教えておこうか。私は兎束 乃亜です」
「乃亜さん。私は
「光亜ね。最後が同じなんて運命かな」
「ちょっと何言ってるのか分からないですけど、よろしくお願いします」
新しくバディが組まれた瞬間である。
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