第3話 口づけ

「森?」


 瞬きをした訳でもないのに、なにが起こったのか分からなかった。


 さっきまで室内に居たはずなのに今は鬱蒼とした森の中に居る。


 だけどこれがさっきの説明通りバトルロイヤルなら、のんびりしている時間はない。


「まずは持ち物の確認しないと」


 さっきの声は始まりを告げていた。ならもういつ襲われてもおかしくない。それならこれからどう動くかを考えなければいけない。


 持っていた物は耳栓とスマホこれは私の私物だ。それから服装は制服から迷彩服になっていた、そして私物以外の持ち物はサバイバルナイフと……。


「拳銃か」


 さすがに初めて見る。でもなんとなくで使い方は分かる。


 弾の数は五発のみ入っている。


 他にはなにもない。


「水と食料がないのは必要ないのか、それとも自分で手に入れろってこと?」


 最後の質問で聞いておけばよかったのだろうけど、そんなの事前に分かる訳がない。


「んで、私のスキルとやらは?」


 スキルのことを考えたら、頭の中にスキルの使い方や、効果が浮かんできた。


 スキルは『狂気』効果は『人格が崩壊する代わりに絶大な力を得る』


「なるほどね。スキルは分かったけど私の罪って何?」


 ずっと考えていた。私の罪について。


 私は別に善人ではないから罪という程ではないにしろ、悪い事ぐらいはしている。


 でも罪と言われてもなにが選ばれたのかが分からない。


「バーサーカーって言えば狂戦士だよね。狂ってるってこと? なにが」


 考えても分からない。私がおかしいのは自分でも分かってるけど、それが罪になるのかは分からない。


「ま、いっか。とりあえず」


「な、んで……」


 私は後ろで銃を構えていた人にノールックで銃を放った。


「一発で死ぬんだ。それなら楽でいいや」


 私は殺した男の荷物を探る。


「もしもの時の為に銃とナイフは貰って、私物は取れない仕様なのか」


 死体の持ち物からナイフと拳銃を取り、残りの私物であるタバコやスマホなんかを取ってみようとしたら触れなかった。


 他にも取れそうなものを探したけど、ナイフと拳銃しか取れそうにないので諦める。


 そして私が死体から離れると、死体は粒子になって消えた。


「ちょっと綺麗な、くっ」


 粒子を見ていたらいきなり頭の中に映像が流れ込んできた。


 さっきの男が部下らしき女の人にセクハラをしている映像が。


「これ、は?」


 さっきの男の罪が流れ込んできたようだ。


「殺す度に見せられんの?」


 いちいち人の見せられるなんて迷惑極まりないからやめてほしい。


「言っててもしょうがないか」


 私は諦めて歩き出す。その道中でも何人か殺した。そしてその度に殺した相手の罪を見せられた。


「ほんと男って生き物は」


 私が殺したのは全員が男。しかもセクハラ、セクハラ、セクハラ。


 キモイったらない。


「気分悪い」


 私は殺した相手から銃のマガジンだけ抜いて後は放置した。


 これで弾の数は最初のマガジンに残った一発と奪った四つのマガジンで二十一発。これだけあればしばらくは戦えそうだ。


「後は数が減るまで篭ってもいいな」


 殺して回ってもいいけど、それだと自分の死ぬ確率も高くなってしまう。


 だったら数が減るまで隠れて、たまに近づいてきた人を殺すだけでいい。


「でも問題は隠れる場所がないってことなんだよね」


 迷彩服で目を一瞬誤魔化すことは出来るかもしれないけど、それだってよく見れば分かる。


 洞窟なんかがあればいいけど、望み薄だ。


 それに逃げ道のない場所には行きたくない。


「やっぱり動き続けるしかないか」


 結局それが一番安全だと思い、私は歩みを進める。


 そして誰とも出会わないまま歩いていたら、アナウンスが入った。


『えー、ただいま残り人数が半数を切りました、後半分頑張ってください』


「以外と早いな」


 そうは思ったが、考えてみれば私で四人殺していんのだから、同じように四人程度は殺している人はいるだろう。それが十人もいれは約半数は死んでいる。


「でもこれから減る時間は遅くなって、とか言ってたら見つけたよ」


 私の前方、距離はだいたい十メートル先ぐらいにキョロキョロして怯えながら歩いている子がいる。


「あれでよく生きてられたな」


 あんなの殺してくださいって言ってるようなものだ。


「いや、むしろ誘ってるのか?」


 弱者のフリをして油断して寄ってきた相手を確実に殺す。人によっては有効的な作戦だ。


「辺りに人いないな」


 有象無象が多かったさっきと違い、もう安易に銃声を響かせる訳にはいかない。


 銃声が届く範囲に人がいないのを確認してから私は銃を構える。


「不意打ちだけど、ごめんね」


 私は隙だらけの後頭部目掛けて銃を放つ。


 でもそれは躱された。


「嘘でしょ」


 私は即座にマガジンを入れ替えるが、その一瞬の隙に十メートル先に居たはずの女の子が目の前でナイフを振り下ろそうとしている。


(うわー、死んだ)


 簡単に死ぬつもりはないけど、死ぬ確率で言えば七十パーセントってところだ。


「ってさっきの可愛い子か」


 この子はさっきの説明の時に最後に質問をしていた可愛い子だ。


 私が無意識に出した言葉を聞いた可愛い子が固まった。


 私はその隙に銃をホルスターにしまって、ナイフを構えながら後ろに下がる。


(動かない?)


 なぜか可愛い子はナイフを構えたまま固まっている。


 なんか悪い気がするけど、私は注意しながら可愛い子の手を捻ってナイフを落とさせる。


 そしてあっさり拘束出来た。


「あの、殺しちゃうよ?」


 いちいち聞く必要はないけど、なんかこれだけ無抵抗だと罪悪感が湧いてしまう。


「震えてるの?」


 自分の身が危険だったのもあり気づかなかったけど、可愛い子は小刻みに震えている。


 普通の子は実際は死んでないとはいえ、ここまでリアルに人が死ぬ状況で普通にいられないのは分かる。


 でもこの子の身のこなしから、明らかに殺すことに関しては躊躇いはなかったように見えた。


(ってことは可愛いに対してか)


 私の発言を聞いた途端に動きが止まったことを考えると、それしか考えられない。


 そしておそらくだけど、『可愛い』がこの子の罪に関係しているのだろう。


「んー、よし」


 私はこのまま殺すのもなんか味気ないと思ったので、可愛い子の正面に座って目を合わせる。


(やっぱり可愛い)


 可愛い子は目を逸らすけど顔を手で優しく押さえて逃がさない。


「ごめんね」


 私は可愛い子に一言謝罪を入れてから顔を押さえていた手を後頭部と背中にを回して顔を近づけ、目を瞑って口づけをした。


 可愛い子は驚きやなにやらで必死に抵抗するが、私はそれを離さない。


 さすがに舌を入れるのはやめておいたが、許されるならそこまで……、まぁいい。


 そして私は顔の向きを変える為に一瞬唇を離してからまたすぐに口づけをしてを繰り返し、約二分程口づけを続けた。

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