第51話 生徒会長とあの日の女の子
掲示板の下あたりに、缶ジュースやらペットボトルやらが無造作に置かれている。
中でも、プレミアムゴールデンカフェの輝きは一線を画す。
350mlなのに、220円もする代物だ。
その隣で、俺は桜小路先輩の横で、彼女と一緒にポスターを貼っている。
「ちょっといいかな」ではなく、「ちょうどいいかな」と言ったのは、きっと桜小路先輩は俺が手伝ってくれるのかどうかではなく、俺に手伝わせるかどうかを思案していたからだと思う。
そういうところはほんとに楽々浦にそっくりだ。上手く言えないけど、自分を中心に世界が回っていると思ってるまでは行かないけど、歴史シミュレーションゲームで例えるなら、足軽ではなく、侍大将のような性格をしている。
「君さ」
「はい」
「意外と金持ちなんだね」
急に桜小路先輩に呼ばれて、作業を止めると、どこをどう見たらそういう判断が下せるのかってくらいの結論が出された。
「ほら、あの缶コーヒー、校内でも一部の金持ちの生徒か、物好きしか買わないよ?」
佐藤!! なんというものを買わせやがったんだ!!
お前って絶対真白のこと好きなんだろう!!
「いや、その……」
「物好きそうな顔をしているけど、そんな大量のジュースを買うあたり、やはり金持ちなのかなって思ったんだ」
聞いてくれ!! 物事の経緯を!!
心の中でそう叫びながら、ほんと、楽々浦と同じく人の話を聞かない人なんだねと思ってしまった。
しかも、物好きそうって……楽々浦といい、俺のイメージどうなってるのかな。
「そうですね、金っていいですよね……」
桜小路先輩に半分諦めて、相槌を打つに徹しようと、ついに適当な文章が口をついて出てしまった。
これじゃ、変人じゃないか。
「君って面白い人なんだね」
「お褒めに預かり光栄です」
「ふふっ」
「今笑いましたね」
「君って女たらしなんでしょ」
変人だと思われてないみたいでほっとしたけど、次の瞬間新たな悩みの種がすくすく育っていく。
桜小路先輩のほうを見ると、彼女の凛とした顔にそぐわない無邪気な笑みが浮かべられていて、小さな手が口元に添えられている。
すごく、意外だ。
「会長こそ、笑うんですね」
「私をなんだと思ってるの? 普通の女の子だよ?」
「そうなん……ですね」
「あっ、今の間、信じてないやつの反応だね」
「いや……」
「あと、私を苗字で呼ぶことを許可する」
笑いこそすれど、桜小路先輩はやはり桜小路先輩だ。
『会長』で呼ばれるのが嫌なら、「私は会長じゃなくて、望愛だよ」らへんの言葉が出るはずが、苗字呼びを許可されたレベルで終わってしまった。
じゃ、苗字呼びすら許可されなかった時は、桜小路先輩は生徒会長じゃなかったら、なんて呼べばよかったのだろう。
「おい」とか? さすがに怒られるよね……。
「ぼーっとしてないで、手を動かして」
「あっはい……その、桜小路先輩」
「あら、会長から格下げ?」
「からかわないでください……」
「ふふっ」
不本意だが、また桜小路先輩を笑わせてしまったみたい。
なんというか、彼女は楽々浦と似てはいるけど、根本的に別人だと不思議とそう思った。
それもそうか、同じ人なんて居やしない。
桜小路先輩と楽々浦は違う人間だ。
そう考えると、何かが
「……小夏が世話になった」
「え?」
少しの沈黙のあと、不意をつかれたように、急に
桜小路先輩の口から、楽々浦のことが……。
いや、楽々浦だよね? 楽々浦の下の名前って確かに小夏だったよね……。
こういうとき、もっとクラスメイトの下の名前をちゃんと覚えとけば良かったと思ってしまう。
だが、入学当初の俺には、クラスメイトってのは、同じクラスにいるアニメのキャラクターのように見えたから、それも無理な話だと思う。
「文化祭の劇見たよ。すごく良かった」
「劇を見たんですか?」
「そりゃ生徒会長だもの、我が校の生徒がちゃんと生命活動しているか見て回る義務があるからね」
「そんなに至近距離で見たんですか!?」
「うわー」
この時ほど、自分の本能を恨む瞬間はない。
咄嗟に出た桜小路先輩の冗談に、すかさず勢いよくツッコミを入れてしまった。
その勢いに気圧されたのか、びっくりしたのか、桜小路先輩からは驚嘆の声が出ていた。
すごく、居心地が悪い。
「というと?」
「その……至近距離じゃないと、息してるかどうか分からないので……」
ついに自分のツッコミを解説する羽目になってしまった。
真白のボケにいつも真剣に変化球を打とうとしている弊害がここに来て形を現したというものだ。
正直、辛い……。
「君はやはり面白いんだね」
「それはどうも……」
気恥しさのほかに、なんだか桜小路先輩に茶化されたような感覚が残る。
彼女が楽々浦の下の名前を出したのは、もしかして不本意だったのかもしれない。
思わずその名前を言ってしまったから、まずいと思って、冗談で誤魔化した。
俺にはそう感じられなくもなかった。
だが、そのことに思考をめぐらせるのは次の瞬間までだった。
「桜小路先輩……この人は……」
次に貼ろうとしているポスターに映っている人物を見て、心が締め付けられていた。
昼休みも残り少し。
ジュースを抱えながら、校舎を出てみた。
とにかく外の空気を吸いたかったのだ。
さっきの写真、そのことについてばかり考えてしまう。
そして、
「そこの君!」
そう、まさしくこの声だ。
あれ? この声?
「気になったら私の勝ちだよ?」
声のするほうを見ると、春休みに出会った渚紗にそっくりの女の子―――桜小路先輩が名前を教えてくれた、うちの高校の一年生、
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お待たせしました!
手の調子がよくなったので、少しずつ連載を再開しようと思います。復帰に際し、☆で応援して頂けると思います!!
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