第44話 どうしようもなく可愛い女の子
「今日の晩御飯はホワイトシチューなんですね〜」
「なんでうちの献立を知っている!?」
「凪くんのお母さんって専業主婦なんだー」
「俺のスマホのセキュリティをどうやって突破した!?」
真白の家の最寄り駅から電車で二駅移動して、コンビニの駐車場が見えるところまで歩いたところで、真白がこれから食べられるであろううちの晩御飯について思いを馳せている。
結局、俺は浮気をしていないことを証明するために、真白を家に連れていくことを
真白を入れることに躊躇する俺の家に。
春休みに真白の家に泊まらず自宅に帰った時も彼女にちゃんと理由を言えなかった。
ただでさえ、今まで勘のするどい真白を、渚紗へのマーガレットを飾ってる自分の部屋から遠ざけるために、家に招待することを避けてきたのに、彼女が花言葉に詳しいのを知ってから、余計に真白がうちに来ることを拒んだ。
真白がマーガレットを見て、何を思うのかは分からないが、彼女が傷つく可能性が少しでもあるのなら、俺としては避けたい。
真白を傷つけたくない。まして、俺自身の行為によって。
「そういえば、ここで真白に助けられたね」
「私はそんな大それたことなんてしてませんよ」
「それでも、真白に会いたかった時に、真白が目の前にいたことは、すごく嬉しかった」
「凪くん……」
「ところで、なんであのとき、真白がここにいたんだ?」
コンビニの駐車場を右に曲がって、思い出の場所にすぐたどり着いた。
そこで、真白にずっと感じていた疑問を投げかけてみる。
「私が凪くんに無視されただけで、諦めてしまうような女の子だと思われたんですか?」
「あんなに真白のことを避けてたのに……?」
「ええ、たとえ『ベーカー』の最後に私の公開告白に
「やはり根に持ってませんか!? 真白さん!!」
えへへ、と笑って、真白は顔を上げて俺を見つめる。
その真白の仕草がとても可愛らしくて、愛しく感じられた。
「私、ちょうどあの日、凪くんに直接話を聞こうと思ったの」
「だから、うちに向かおうとしてたの?」
「学校では私に話せなかったことも、私の家に来て直接私に話す勇気のないことも、私から聞いたらちゃんと答えてくれると思ったんです」
「そこまで信頼されていたんだね、俺……」
「はい、信頼してますよ……とても」
なんだか恥ずかしくなって、俯いたら、それは逆に真白との視線が交差することになり、二人の身長差を恨めしく思った。
「俺の家の場所知ってたの?」
「ううん、でも、ここを通るかもってなんとなく思ってた」
「それはまたなんで?」
「ひみつ、です」
真白に対して疑問に思ってることがずっとあった。
なぜ、あの日、彼女は渚紗を知っているかのように話したのだろう。
――そうか……あの子は渚紗というのね……。
彼女の話しぶりは渚紗を知っているようで、知らないようだった。
渚紗のことを知っているけども、名前を知らない。
それはどういうことなのか、俺には分からない。
だから、渚紗へのほんとの気持ちを、俺は真白に隠すことにした。
俺が決して過去形で渚紗を語ることをしない理由は、真白に気づいて欲しくない。
渚紗への気持ちが恋だったから、真白を拒絶したことを、真白はあの場で理解したと思う。
でも、真白と付き合っている今も、それが続いてるなんて彼女に知られたら、真白はきっと傷つくだろう。
どうしようもないことだけど、渚紗への想いが、彼女が死んだことによって、俺の中では完成されたものになっていた。変わらないものになっている。
皮肉にも、それは誰にも変えられないもので、真白への想いを認めても、彼女をもっともっと好きになっても、渚紗への想いは俺の心の中にちゃんとあって、動かないんだ。
それは俺の心臓と一体化したように、俺の心に溶け込んだように、俺の存在の一部になっている。
だから、真白に負い目を感じていないわけではない。
真白に後ろめたさを感じることはなくはない。
そして今、彼女が何故俺がここを通るかもしれないと思ったのだろう、という謎がまた一つ増えてしまった。
「真白の秘密な場所は全部見たのにな……」
「いきなりセクハラですか!?」
「それは俺が真白に手を出す前の自分のことを言ってるんだよね!?」
「私の脚は魅力的じゃなかったのですか!?」
「豚足にしてはすらりと長くて美しかったよ!!」
「その美しい豚足にあんなことやこんなこ―――」
「―――すみません!! 俺が悪かった!!」
「分かればよろしい!!」
やはり、真白が愛しい。
これもやはり変わることのない、確かに俺の胸の中に存在する想いだ。
こんなにも一言で言い表せないような可愛い女の子に、魅力を感じない男の子がいるのだろうか。
真白のことを思うだけで、真白とこんなやり取りをするだけで、胸が締め付けられて、どうしようもなくどきどきするんだ。
「ちなみにさ、真白」
「なぁに?」
「真白が突破したのは顔認証のほうなのか、それともパスコードなのか?」
「私が片方だけしか
そう言いながら、真白は悪魔のようなにんまりとした笑顔を浮かべたのだった。
ほんと、真白はいつも俺の予想を遥かに超えた、どうしようもなく可愛い女の子なんだ。
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