ゲーム機アダプター殺人事件 ~探偵・花水木 啜~
梶野カメムシ
一枚目
皆さん、お久しぶりです!
初めての方向けに、自己紹介しておきますね。
私はネピア・クリネックス、十七歳。
キウイの交換留学生で、花水木探偵事務所の助手です。
あ、キウイというのはニュージーランド人のことです。日本で言う「サムライ」とか「ヤマトナデシコ」みたいな感じですね。
私は日本と
ところで皆さん。ゲームの趣味はおありですか?
マンガやアニメが大好きで、それが高じて日本に来た(助手になったのもアニメの影響です!)私ですが、ゲームはほとんどやりません。
来日して驚いたことの一つが日本人のゲーム好きです。大人も子供も、いつでもどこでもゲームしています。NZにもゲームは輸入されていますが、基本的に子供向けです。悪名高いガチャゲーも流行っていません。
そして例にもれず、うちの先生もゲームが大好きです。
事務所でゴロゴロしてる時も、スマホは絶対に手放しません。
「課金はしてない」そうですが、人生の貴重な時間をゲームに課している自覚はないんでしょうか。
あっ、すみません。先生の説明がまだでした。
先生は慢性の鼻炎持ちです。ちょっと目を離すと、すぐに丸めたティッシュで床がいっぱいになります。助手の仕事の半分はこのティッシュの後始末で、それ目的で雇われたのかと思えるくらいです。ホント嫌になります。
えっ、「辞めちまえ」……ですか?
うーん。今のところ、その気はありませんね。
理由はただ一つ。
なんだかんだで、先生が名探偵だからです。わずか一分ではありますけど。
その一分の満足のために一ヵ月を我慢する。事務所のソファで寝転がり、スマホゲーにふける先生に小言を言いながら、丸めたティッシュを拾う毎日。
これが私の、探偵助手の日常です。
今日、お話しする事件は、そんなゲームにまつわるお話です。
はっきり言って事件じゃありません。前回に輪をかけてくだらない話です。
もちろん人も死にません。タイトルは先生が無理やり「殺人」をつけました。
本格推理ドラマを期待された方には、ここでブラウザバックをお勧めします。まことに申し訳ありません。お手数おかけしました。
……残られた皆さんは、大丈夫ということで、よろしいですか?
それでは、肩の力を抜いてお楽しみください。
「ゲーム機アダプター殺人事件」です。
◇◆◇◆◇
「なんですか、これ?」
その日、いつものように事務所を訪れた私は、応接テーブルに置かれたダンボール箱を指さしました。
ダンボールはミカン箱サイズ。というか、ミカン箱そのものです。先生が嬉々として、ガムテープを剝がしています。そんなものより、白い花園と化した事務所の床を掃除して欲しいんですが。
「見てくれたまえ、ネピアくん。これはお宝の山だ!」
ようやく開いた箱から先生が取り出したのは、手のひらサイズのゲーム機です。
私は気乗りしないまま、箱の中を覗き込みました。
ゲーム、ゲーム、ゲーム。大小さまざまなゲーム機が、雑然と詰め込まれています。入れ方は無茶苦茶、コードもぐちゃぐちゃですが、数だけはかなりのもの。ゲームに詳しくない私でも知ってる、昔のゲーム機もあります。
「……私にはジャンクの山に見えますけど」
「わかってないなあ、ネピアくん」
勢いよく鼻をかむと、先生は続けました。
「スマホゲームの隆盛に押されていた
長台詞に耐えかねて、
ちょっと驚きました。先生ってゲーム
普段は頭のネジが何本か抜けてる印象の先生ですが、今日は違います。はっきり言って暑苦しいです。
「おじゃましまーす」
子供の声とともに、事務所の扉が開きました。
入って来たのは小学校高学年くらいの男の子。抱えているダンボール箱は、やっぱりミカンです。先生の誘導で机に置くと、箱が二つになりました。
「こっちはソフトな。これで全部だよ、センセー」
「わざわざすまないね。ありがとう、
「じゃあこれで、ケーヤク成立」
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
思わず突っ込んだ私を、小学生がじろじろ見てきました。
「ダレだよあんた。センセイのこども?」
「私は花水木探偵事務所の助手、ネピア・クリネックスです!」
「ガイジンみたいな名前」
「ガイジンですから!」「うっそでー」
私は、とりあえず
「僚成くん……でしたっけ。
さっき、契約と言った気がしますが、お仕事の話ですか?
先生への依頼は、助手の私を通していただく必要があります」
「そんなルールあったっけ」
「先生は黙っててください!」
ティッシュケースを投げつけると、私は小学生に向き直りました。
「それで今日は、どのようなご依頼を?」
「さっき、センセーにも言ったけどさ」
僚成くんは、ふてくされるように腕を組み、私を見上げました。
「一緒に探してほしいんだよ。
母ちゃんに隠された、オレのゲームのアダプターを」
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