ゲーム機アダプター殺人事件 ~探偵・花水木 啜~

梶野カメムシ

一枚目


 皆さん、お久しぶりです!

 初めての方向けに、自己紹介しておきますね。

 私はネピア・クリネックス、十七歳。

 の交換留学生で、花水木探偵事務所の助手です。

 あ、キウイというのはニュージーランド人のことです。日本で言う「サムライ」とか「ヤマトナデシコ」みたいな感じですね。

 私は日本とNZニュージーのハーフですが、黒髪黒目で背が低いので、誰も留学生と思ってくれません。日本アニメだとは特別感あるので、少し損した気分です。


 ところで皆さん。ゲームの趣味はおありですか?

 マンガやアニメが大好きで、それが高じて日本に来た(助手になったのもアニメの影響です!)私ですが、ゲームはほとんどやりません。

 来日して驚いたことの一つが日本人のゲーム好きです。大人も子供も、いつでもどこでもゲームしています。NZにもゲームは輸入されていますが、基本的に子供向けです。悪名高いガチャゲーも流行っていません。

 そして例にもれず、うちの先生もゲームが大好きです。

 事務所でゴロゴロしてる時も、スマホは絶対に手放しません。

 「課金はしてない」そうですが、人生の貴重な時間をゲームに課している自覚はないんでしょうか。

 あっ、すみません。先生の説明がまだでした。

 花水木はなみずき すする、四十五歳。花水木探偵事務所の看板探偵です。といっても所員は先生と私の二人で、事務所は実家の一室なんですが。

 先生は慢性の鼻炎持ちです。ちょっと目を離すと、すぐに丸めたティッシュで床がいっぱいになります。助手の仕事の半分はこのティッシュの後始末で、それ目的で雇われたのかと思えるくらいです。ホント嫌になります。

 えっ、「辞めちまえ」……ですか?

 うーん。今のところ、その気はありませんね。

 理由はただ一つ。

 なんだかんだで、先生が名探偵だからです。わずかではありますけど。

 その一分の満足のために一ヵ月を我慢する。事務所のソファで寝転がり、スマホゲーにふける先生に小言を言いながら、丸めたティッシュを拾う毎日。

 これが私の、探偵助手の日常です。

 

 今日、お話しする事件は、そんなゲームにまつわるお話です。

 はっきり言って事件じゃありません。前回に輪をかけてくだらない話です。

 もちろん人も死にません。タイトルは先生が無理やり「殺人」をつけました。

 本格推理ドラマを期待された方には、ここでブラウザバックをお勧めします。まことに申し訳ありません。お手数おかけしました。


 ……残られた皆さんは、大丈夫ということで、よろしいですか?

 それでは、肩の力を抜いてお楽しみください。

 「ゲーム機アダプター殺人事件」です。



        ◇◆◇◆◇



「なんですか、これ?」

 その日、いつものように事務所を訪れた私は、応接テーブルに置かれたダンボール箱を指さしました。

 ダンボールはミカン箱サイズ。というか、ミカン箱そのものです。先生が嬉々として、ガムテープを剝がしています。そんなものより、白い花園と化した事務所の床を掃除して欲しいんですが。

「見てくれたまえ、ネピアくん。これはお宝の山だ!」

 ようやく開いた箱から先生が取り出したのは、手のひらサイズのゲーム機です。

 私は気乗りしないまま、箱の中を覗き込みました。

 ゲーム、ゲーム、ゲーム。大小さまざまなゲーム機が、雑然と詰め込まれています。入れ方は無茶苦茶、コードもぐちゃぐちゃですが、数だけはかなりのもの。ゲームに詳しくない私でも知ってる、昔のゲーム機もあります。

「……私にはジャンクの山に見えますけど」

なあ、ネピアくん」

 勢いよく鼻をかむと、先生は続けました。

「スマホゲームの隆盛に押されていた家庭用コンシューマーゲーム機だが、顧客の課金疲れもあって最近は盛り返しているんだよ。それとともにレトロゲームも注目を集めつつある。往年の名作にはお宝級の値段がつき、現役のゲーム機でも次々とリメイク、リマスター作品が発売されている。だが、移植に際してはプログラムの問題もあって、当時の挙動を再現できないことも多い。本当の意味で名作をプレイしたければ、ここにあるようなレトロゲーム機を(ブバッッッ!!)」 

 長台詞に耐えかねて、洟水はなみずが決壊したようです。

 ちょっと驚きました。先生ってゲームオタクギークだったんですね。

 普段は頭のネジが何本か抜けてる印象の先生ですが、今日は違います。はっきり言って暑苦しいです。

「おじゃましまーす」

 子供の声とともに、事務所の扉が開きました。

 入って来たのは小学校高学年くらいの男の子。抱えているダンボール箱は、やっぱりミカンです。先生の誘導で机に置くと、箱が二つになりました。

「こっちはソフトな。これで全部だよ、センセー」

「わざわざすまないね。ありがとう、僚成りょうせいくん」

「じゃあこれで、ケーヤク成立」

「ちょっと待ったぁぁぁ!」

 思わず突っ込んだ私を、小学生がじろじろ見てきました。

「ダレだよあんた。センセイのこども?」 

「私は花水木探偵事務所の助手、ネピア・クリネックスです!」

「ガイジンみたいな名前」

「ガイジンですから!」「うっそでー」

 私は、とりあえず深呼吸クールダウンしました。

 悪童キッド相手に熱くなるのはみっともない。日本でも同じです。

「僚成くん……でしたっけ。

 さっき、契約と言った気がしますが、お仕事の話ですか?

 先生への依頼は、助手の私を通していただく必要があります」

「そんなルールあったっけ」

「先生は黙っててください!」

 ティッシュケースを投げつけると、私は小学生に向き直りました。

「それで今日は、どのようなご依頼を?」

「さっき、センセーにも言ったけどさ」

 僚成くんは、ふてくされるように腕を組み、私を見上げました。


「一緒に探してほしいんだよ。

 母ちゃんに隠された、オレのゲームのアダプターを」

 

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