第七章 125 予期せぬ再会・迫る魔軍


 どういうことだ? なぜここにリーシャが。あの空間の歪は間違いなくここに飛ばされて来たのだとわかるが……。


「何者だ?!」


 周囲の警備兵達が騒ぎ始めるが、それを制す。


「彼女、リーシャは俺の友人だ。なぜこんな場所に飛ばされて来たかはわからないが、敵じゃない。矛を収めてくれ」


 国王が止めよという指示を出し、警備兵達は引いて行った。まだその場にしゃがみ込んでいる彼女に近づき、手を差し伸べて起こす。


「やっぱりカーズだよね? 良かった生きてたんだね」

「ああ、カーズだ。リーシャはどうしてこんなところに? それに俺が生きていたとは?」

「世界中に行方不明の捜索願の張り紙が出されてるんだよ。もう数か月くらい前からだけど……。でもここが何処かはわからないけど生きてたんだね。良かったー」


 深く溜息を落とすリーシャ。数か月前? 俺はつい一週間程前にこの世界に放り出されてきたはず……。もしかしたらニルヴァーナとは時間の流れが異なるのか? だとしたらまずいな、ここに長居するわけにはいかない。一刻も早く元の世界に帰らなくてはならない。


「まあ、俺はちゃんと生きてるよ。魔神との闘いの中、ここに飛ばされてしまった。何とかして帰る方法を見つけないといけない」

「私も魔法の演習授業に行く途中にね、ヴォルカとシュティーナと歩いてたらいきなり目の前に黒い空間が広がって……」

「?! まさかあの二人まで?」

「ううん、二人を助けようとして突き飛ばしたら私だけが吸い込まれちゃって……。体は無事みたいだけど、ここは何処なの?」

「ここはニルヴァーナじゃない。神の処刑場とかいう全くの異世界だ。俺もこの世界の影響で本当の力が出せない状態だ。そして何の因果か知らないが、この世界を救う勇者とやらにされてしまった。恐らく俺をここに封じ込めた黒幕の思惑だろうな。君をここに飛ばしたのも、俺に縁のある人間を一緒にしてどうするのか見て楽しんでいるんだろう」

「……そんな……。じゃあもう戻れないの?」

「今のところは何とも言えない。だが自分を楽しませたら帰らせてやらなくもないとか言ってやがった。だから今は目の前のことを一つ一つこなすしかないのかも知れない。……君を巻き込んですまない」


 頭を下げる。俺に任務とはいえ関わってしまったせいだ。これからも俺に関わった誰かが飛ばされて来る可能性もある。


「大丈夫だよ。私一人だったら途方に暮れていたかも知れないけど……。カーズが一緒だし、心強いよ。いつかリチェスターに遊びに行こうかと思ってたけど、こんなにも早く再開できるとは思わなかったしね。その黒幕が誰かわからないけど、さっさとこの世界を救って一緒にニルヴァーナに帰ろうよ」

「そうだな……、だが悪魔共と闘う危険な旅に君を連れて行くわけにはいかない。ここにいれば安心だ。この国で待っていてくれないか? 守りながら闘うとなると何があるかわからないしな」

「……うーん、カーズはそう言うと思ってたけどね。私と組んだ簡易PTっていうの解除するの忘れてたでしょ? そのせいで学院で討伐した相手とか、その後の変な帝国との闘いとかで得た経験値は私に入って来てたんだよ。実戦経験は足りないかも知れないけど、レベルは1000超えてるんだから。足手まといになんてならないから、私も一緒に行く。旅の間に色々と教えてくれると嬉しいなー」


 悪戯っ子の様ににやっと笑うリーシャ。あー、うん、これはまた俺のうっかりのせいだな。仕方ない。それに一緒にいないと帰還する機会があったときにすぐに連れて来れないかも知れないしな……。それにそれだけレベルがあるなら足手まといになることはないか。魔力鎧装ガイソウやら立ち合いは俺が残りのエルフとドワーフの二人にも教えればいいだけのことだ。


「……わかったよ。じゃあこれからよろしく頼む、リーシャ」

「えへへー、任されました。必ず一緒に帰ろうね、カーズ」


 差し出された手を握って握手する。学院のときから押しが強かったもんなあ。てことで、此方をじっと見ていたルナフレアとボルケンも呼んで事情を説明した。二人もそれだけのレベルがあるんならと承諾してくれた。ま、ゲームの魔王討伐なんて基本四人PTだもんな。王道っちゃ王道だ。


「思いがけず強い仲間が増えましたわね。私はエルフのルナフレア。これからよろしくお願いしますわ、リーシャ」

「俺はボルケンだ。よろしく、人間の嬢ちゃん。しかし、異世界から助っ人を呼ぶとはさすが勇者カーズだな。しかし、彼女の武器はどうするんだ? 見たところ、そのすげー防具以外は武器らしきものが見当たらないが……」

「そうか、しまったな……。まあ暫くはこいつを使ってくれ。オリハルコン製のソードとダガーだ。またその内武具創造で何かしら作ることにしよう」


 異次元倉庫ストレージから予備のアストラリアソードとアストラリアダガーを取り出してリーシャに譲った。これでひと先ずは大丈夫か。そして剣を折ってしまったアレクサーにもクレイモア大剣を投げて渡してやった。城を守護する戦力が武器がないのは困るしね。頭を下げて来るアレクサー。切れ味が危険だから気を付ける様に注意をしておいた。


「オリハルコンの武器をそんなに持ってるのか? とんでもねえな……」


 さすがドワーフ。そういう職人的なことには食いつくか。まあ俺じゃなくてアリアがすごいだけなんだけどね。アヤにアリア達も捜索願を出しているということは俺のことを探してくれているのだろう。みんなの為にも早く帰還しなくてはいけない。ゼニウスのオッサン辺りが何かしらしてくれることを祈っておくか……。


「ああ、まあね。二人の武器も必要なら一応一通りはあるけど」

「私は魔法職なので杖と、魔力が尽きたとき用に弓矢を持っていますが、今のところは問題ありませんわ。もし破損したときにはお願いするかもですが」

「そうだな、俺も一度は使ってみたいが先祖代々のこのバトルアクスがある。いかれたときには頼むぜ、カーズ」

「そうか、二人がそれでいいならそのときでいいか」


 無闇に渡す物でもなかったか。愛用の武器があるならそれが一番だしな。そんなことを思っていたら、広間に衛兵が駆け込んで来た。


「大変です! 悪魔です! 悪魔が軍勢を連れて現れました!」


 その言葉に緊張が走る。しかし国王ギュスターヴは落ち着き払った声で応答する。


「規模は? 悪魔ということは魔軍か? 指揮官はどいつだ?」

「ハッ、戦力はおよそ三万。指揮官は四天王のマモンです。恐らく勇者出現をどこからか嗅ぎ付けて攻めて来たに違いありません。そして此方の戦力は三千がいいところかと……」

「むぅ……、10倍の戦力差とは……。勇者カーズ達よ、何とかならぬか?」


 そりゃそうなるよね。まあ勇者業は派遣みたいなもんだ。それにそんなこと関係なく困っている人達がいるなら救うのが俺のモットーだしな。誰とも知れない俺を城で匿ってくれた恩もある。それにその魔軍をぶっ飛ばすのが帰還に繋がっているのなら、やるしかない。


「いいでしょう。これまで何度も大魔強襲スタンピードに敵の大軍を退けて来たんだ。任せて下さい」

「私も行く!」

「勿論私も行きますわ」

「勇者のお手並み拝見ってとこだな!」


 PTの仲間も一緒だ。何とかしてみよう。


「わかった行こう。城の兵力は後ろで撃ち漏らしを叩いてくれ。俺達が前に出る!」

「頼む……、勇者カーズよ……」


 三人に捕まって貰い、城門前に転移する。驚いているがそれどころじゃない。先ずは敵の戦力鑑定だ。城門前の道は広いが左右を山脈に囲まれて峡谷の様になっている。接敵までは約30分てところか……。


千里眼せんりがん鷹の目ホーク・アイが発動します>

 

 最後尾に飛んでいる悪魔を発見。こいつがマモンか。確かソロモン72柱の序列7位、梟の顔に狼の身体、蛇の尻尾を持つ非常に強靭な悪魔とか言う奴だ。腕も翼になっていて、手足には鋭い爪が付いている。てか序盤の街に四天王、四天王とか口にするのも恥ずかしいな、そんな奴が攻めて来たらダメだろ。ゲームバランス崩壊してるじゃねーか。いや、これはリアルか。まあ来るならぶっ飛ばすまでだ。

 40の軍団を率いる地獄の侯爵。いや、ここでは魔界のか。その軍団もこの一軍に紛れているんだろう。魔物以外に異形の魔人、悪魔がわんさかといやがる。キリスト教に於ける七つの大罪での『貪欲、強欲:Greed』を司る。その由来はアモン自身が金銀財宝に貪欲で、人間にも同様の影響力を及ぼす為である。且つて斃したアモンともその受け持つ性質や姿から同一の存在、とする解釈もある。

 貴金属、希土類の採掘を人間に教えたともいわれる。中世ヨーロッパでは、教会への助力を惜しむ者への非難に、七つの大罪の『貪欲』つまりマモンを利用した形跡が残されている。現在に至っても人間は相も変わらず貴金属、希土類に価値を見出したままであり、時には採掘権を巡って紛争すら起こす。人が人たらんと貪欲でいる限り、マモンの嘲笑が止む瞬間は、永遠に訪れることは無いのかもしれない。そして現在過去未来を知り、人の間に不和を招いたり逆に和解させる能力もあるとか。そんな奴だったな。

 まあそんなことはどうでもいい。悪魔は祓うのみだ。


 ドゴゴゴゴゴゴゴ……!!!


 アース・ウォール大地の壁で城門前に高さ20m程の障壁を設置。これで空を飛ぶ魔物以外は容易に近づけない。その上に四人で立ち、闘気を集中して高める。先ずは雑魚共を一気に薙ぎ払う!


ドラグ・スレイヤー竜殺砲!!!」


 両の掌を合わせ、そこに集中した闘気のエネルギーを一気に解き放つ!


 ドギャアアアアアアア!!! 


「「「「「グギャアアアアアアアアアアア!!!」」」」」

「「「「「おおおおー!!!」」」」」


 軌道を変えて峡谷の隅々まで照射。残るは数千匹程度。大将首を取れば終わる。三人と後方の兵士達から歓声が上がる。


「空中の敵はリーシャとルナフレアの魔法に任せる。ボルケンは壁に近づいた敵を蹴散らしてくれ」

「「わかったわ!」」

「おし、ってお前さんはどうするんだ?」

「俺は大将首だ。さっさと終わらせてやるぜ!」


 近寄って来る空飛ぶ魔物を吹き飛ばしながら、一直線に飛翔。最後尾の空中で驚いた表情をしているマモンと相対した。さあ、とっとと片付けてやるぜ。今更悪魔如きに苦戦してる場合じゃないんだよ。



------------------------------------------------------------------------------------------------

四天王(笑)をさっさと片付けろ

お読み頂きありがとうございます。

ハートやお星様を頂けると喜びます。

今回のイラストノートはこちら

https://kakuyomu.jp/users/kazudonafinal10/news/16818093079562483284

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る